2016年7月27日水曜日

朝日新聞の報道の誤報について:別の教授の採用ではなく、別の分野への変更の手続の違法が本裁判の争点

 昨日25日の提訴のあとの記者会見を取材した朝日新聞は、以下の記事をデジタル版に掲載しましたが、本件訴訟の争点が何かという基本的な事実を間違えていましたので、訂正しておきます。

東大大学院教授、大学を提訴「内規違反などで自由侵害」

問題の箇所は2箇所。まず、冒頭の
東京大大学院の教授が、内規に反する手続きで別の教授が採用されたことで、学問の自由が侵害されたとして、同大を相手取り慰謝料1千万円の一部として1円の損害賠償を求める訴訟を25日、東京地裁に起こした。

ブログの記事「提訴の報告:・・・」の【事件の概要】に述べた通り、本件訴訟の訴えは、
分野変更の手続において内規により本来取らなければならない民主的な手続(会議の審議・決定等)を取らずに分野変更を決定したことに手続上に重大な違法があり、その結果、その分野が違法に廃止され、そのために、その分野を重要な柱の1つとして学融合を進めてきた原告の学問研究は重大な支障を来たすに至った。それは学問の自由の侵害に該当する、
というものです。

事前に記者クラブに配布した会見資料(→こちら)を見ていただければ、また、当日配布した訴状分野変更&人事手続きの流れとレクチュア(→動画)を見ていただければ、「別な教授が採用された」という人事そのものを問題にしたことが一度もないことは明白です。
むしろ本件訴えを人事自体の問題に歪曲されないように、配布した訴状で、次のように断っています。
 本件訴訟に関連して、かつて、原告も共同原告の一人として、被告東京大学らを訴えたことがある(御庁平成24年(ワ)第4734号損害賠償請求事件。甲37・同38)。しかし、それは主にこの時の教員選考手続に焦点を当て、その違法性を問うたものであった。これに対し、本件訴訟はもっぱら分野変更の手続に焦点を当て、その違法性を問うものである。訴状2頁6行目)

さらに、 中ほどの
2010年に、もう1人の教授を公募で採用することになったが、教員らによる会議での審議や決定をしないなど研究科の内規違反があったという
しかし、本件訴訟で、原告が内規違反を問題にしているのはもっぱら分野変更の手続(一番最初の発議の段階で、「教員らによる会議での審議や決定をしなかった」など)のことで、教授の採用のことではありません。

もちろん本件の分野変更のあとの教員選考手続においても様々な問題があったことは事実ですが、本件訴訟にとって、それは核心部分ではなく、あくまでも付随的な事情にとどまります。

改めて、本件訴訟で問うているのは分野の変更の手続違反という問題であって、別な教授が採用されたといった人事の手続の問題ではないことを訴える次第です。

2016年7月26日火曜日

提訴の報告:本日(2016年7月25日)、東京大学を被告として、不正な教授人事による学問の自由の侵害を理由とする1円の損害賠償請求の訴えを起こしました。

私がさかさまなのか、あの人たちがさかさまなのか(※)を問い直す裁判。
君は学問にも科学技術にも関心がないかもしれないが、学問、科学技術は君に関心がある。君をコントロールするために不可欠の道具だから。

                                (※)藤原新也「メメント・モリ」から


                                             原告代理人 柳原敏夫
【事件の概要】
 原告柳田辰雄は、1998年4月の設立以来、学融合を標榜してきた東京大学新領域創成科学研究科に所属する教授です。

 2009年から2010年にかけて、東京大学柏キャンパス新領域創成科学研究科国際協力学専攻の中の国際政策協調学という分野が社会的意思決定という分野に変更になりました(以下の※1がその組織体制です)。しかし、この分野変更の手続において内規により本来取らなければならない民主的な手続(会議の審議・決定等。以下の※2が分野変更&人事手続の流れです)を取らずに分野変更を決定し、手続上に重大な違法がありました。その結果、その分野が違法に廃止され、そのために、その分野を重要な柱の1つとして学融合を進めてきた原告の学問研究は重大な支障を来たすに至りました。これは原告が取り組んできた、学融合に関する学問研究の自由の侵害に該当するものです。
他方、東京大学は、大学における研究者の学問の自由が侵害されることのないように万全の措置を講ずるべき義務を負っています。しかし、東京大学はこの義務を怠ったことにより上記の原告の学問の自由を侵害しました。よって、原告が被った精神的苦痛を賠償する責任があり、原告は賠償金として東京大学に1円を請求したものです。

とりわけ東京大学の新領域創成科学研究科は新しい学問領域を創出するとして学融合の重要性を強調して作られた研究科であり(→そのHP「『学融合』という概念で、新しい学問領域を創出する」)、そのような場で学融合の推進と逆行する異常事態が発生したことは学問研究の危機を示すものにほかならず、改めて、この問題について、今日の日本の大学のあるべき姿を問い直すものです。

 原告は、本訴訟を通じ、学融合の本来のあり方が回復されることを強く願っています。

 【原告柳田辰雄の連絡先】 ah5t-yngt*j.asahi-net.or.jp(*を@に置き換えて下さい)
 【裁判資料】
 訴 状
原告の陳述書
事件の経過年表
証拠説明書(1)
原告自身の抱負

【マスコミ報道】
朝日新聞 -> 東大大学院教授、大学を提訴「内規違反などで自由侵害」

【会見の映像】
YouTube

※1 柏キャンパスの組織体制(一部誤記のため2017年5月23日付原告陳述書(4)別紙1で訂正)

※2 分野変更&人事手続の流れ

 

東京大学学問の自由侵害裁判の提訴(2016年7月25日)の記者会見の映像

 以下は、2016年7月25日の提訴のあと東京地方裁判所内の記者クラブでおこなった、原告と代理人による会見の動画です。

YouTubeの動画->こちら

       左が原告柳田辰雄。右が原告代理人。

2016年7月25日月曜日

私が訴えたいこと(東京大学学問の自由侵害裁判の原告) 

                                     平成28年7月25日
              東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 柳田辰雄

 本件は、「学融合」を目指している東京大学大学院新領域創成科学研究科の国際
協力学専攻、制度設計講座において2009年に行われた教授の公募に関連していま
す。教授の公募にあたっては最初にどの研究分野の人を公募するかを決めます。この
研究の分野選定をめぐっては、学問の自由と教育・研究の基本単位である講座の自
律性が深く関わっています。本件では、制度設計講座の社会科学系の分野の教授公
募であったにもかかわらず、その講座の唯一の教授であった私の講座の構想を無視
して、教授達の多数決で分野選定が行われました。のみならず、より根本的な問題は、
この分野の選定の手続では、従来行われていた助教や准教授を含めた専攻会議で
の分野選定に関する議論もへておりません。

 現在、新たな社会科学では、社会は、人々の相互依存と相互作用による意味体系
であると見なすようになっています。そして、この新たな社会科学では、より豊かで、秩
序だった社会はどのようになりたつのかを探求しています。この精神活動は学問の自
由に関わっており、公権力や所属機関などの干渉は許されません。そして、大学院大
学に制度が移行した時代においては、大学の自治の根幹は、講座の運営の統治と自
治にあると考えます。特に、新領域創成科学研究科のように新たな研究領域を確立し
ようとするときには、このことが重要です。

  21世紀にはいり、伝統的な社会科学は歴史的な岐路に立っています。特に、自然
科学を模して、社会は「モノ」からなりたっているとして、「真理」を追求してきた伝統的
な社会科学は、社会の人びとの期待に応えられずに呆然としています。このような時
代背景の中、国際協力学専攻の制度設計講座は、国際社会のよりよいガパナンス、
いいかえれば、統治と自治を研究する講座として、原告の私が構想しました。そして、
この講座では、国際社会のよりよいガバナンスが、政府と株式会社、さらに国際組織の
よりよいガバナンスにより達成されると考えています。この構想は、多数決による教授
人事によって無駄な努力となってしまいました。それゆえに、新しい学問を創出しようと
するときには、学者であっても、専門的知識を持っていない講座における研究分野の
変更に関しては、当該講座や専攻での会議で熟議を重ねる必要があります。

 最後に、法人化された後の国立大学において、講座の改変が進んでいます。
文部科学省からの国立大学へ予算の縮小は、個々の学者、特に社会科学者の学
問の自由を侵害するようになっていることも国民に訴えたいと思います。