2017年3月1日水曜日

【まとめ2】違法な分野変更手続により原告の学問の自由が侵害された

2つ目の論点:違法な分野変更手続により、学融合を推進していた原告の学問の自由が侵害された、
について、原告主張事実を述べたものは以下の通りです。


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◆その1(原告準備書面(3)から)


2、本件人事1の違法な手続と原告の学問の自由の侵害との関係
(1)、結論
原告準備書面(2)及び上記1で主張した通り、本件人事1の手続は違法であり、この違法な手続により、国際政策協調学の教授人事の実現が妨げられた。その結果、国際政策協調学の新任教授との間で進めようと準備していた原告の本学融合(その具体的な内容は(2)で述べる)の取り組みは頓挫し、本学融合の研究に多大な支障をもたらした。これは原告にとっての学問の自由の重大な侵害にほかならない。
(2)、本学融合の具体的内容
本学融合の具体的内容は今般提出の甲48原告陳述書(3)2に述べた通りである。すなわち、
①.学問の対象は「国際システムの秩序と安定」である。
②.学問の方法は『経済、政治、法が相互依存及び相互作用する国際社会の動態全体をリアルに捉えるために、国際社会における経済、政治、法の相互依存及び相互作用を正面から探求する新しい研究方法を採用した。それが従来の経済学、政治学および法学の再統合である。具体的には「国際政治経済システム学」、「国際政策協調学」及び「国際環境組織論」の3つの分野の研究者がぞれぞれの分野の研究成果を持ち寄り、その相互交流・意見交換を通じて、国際社会における経済、政治、法の相互依存及び相互作用を共同で探求すること』である。
 この立場から、原告のイニシアチブにより、1999年、環境学専攻の下に国際環境基盤学大講座が設立されたとき、この大講座の中に、社会科学における国際政治学、国際経済学および国際法の3つの分野の研究者を集めることが決まり、2006年4月、大講座が国際協力学専攻に改組された後は、制度設計講座の中に「国際政治経済システム学」、「国際政策協調学」及び「国際環境組織論」の3つの分野の研究者を集めることが決まったのである。
(3)、本件人事1の違法な手続による本学融合の頓挫
 しかるに、2010年5月、学術経営委員会で教授選考委員会が設置され、国際政策協調学の教授人事がスタートしたが、その募集活動のさなか同年11月に突然、この教授人事は一方的に中断され、発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議で変更の説明も変更の審議・了承もないまま、教授人事の分野が国際政策協調学から社会的意思決定に変更された。1で前述した通り、この人事手続は本件規則に違反する違法なものであり、この違法な人事手続の結果、国際政策協調学の教授人事は実現できなくなった。
そのため、国際政策協調学の新任教授との間で進めようと準備していた原告の本学融合の取り組みは頓挫し、本学融合の研究に多大な支障をもたらした。これは原告にとっての学問の自由の重大な侵害にほかならない。
以 上
  
◆その2(原告準備書面(4)から)

1、「本件人事1の違法な手続と原告の学問の自由の侵害との関係」に関する原告主張の整理


 本件人事1(その意味は原告準備書面(2)第1、1で述べた通り)の違法な分野変更手続の結果、いかなる態様により本学融合(その意味は原告準備書面(3)(2)で述べた通り)の研究に重大な支障を来たし、学問の自由を侵害したかについて、従前、原告準備書面(2)及び同(3)でおこなった原告主張を次の通り整理する。
 すなわち、本件人事1の違法な分野変更手続の結果、次の2つの態様により本学融合の研究に重大な支障を来たした。この2つの態様の詳細は各原告準備書面の当該箇所で主張した通りである。
①.国際政策協調学の新任教授の採用が実現せず、その結果、原告と当該新任教授との本学融合の研究に重大な支障を来たした(原告準備書面(3)2参照)。
②.分野変更後の社会的意思決定で教授が採用された結果、制度設計講座の教授の定員枠は埋まり、教授ポストの国際政策協調学分野は自動的に廃止となった。その結果、本件人事1ののち、これまで通りの国際政策協調学分野の教授人事を実施することは不可能となり、原告と国際政策協調学の新任教授との本学融合の研究に重大な支障を来たした(原告準備書面(2)第1、8参照)。
 以 上

【まとめ1】本件人事1の分野変更手続が違法であること(2017.3.1)

本日3月1日の期日で、原告の主張事実が出揃ったので、整理のためにまとめておきたいと思います。

本件の主要論点は2つあって、
第1の論点は、募集中だった「国際政策協調学」分野の教授人事を途中で、「国際政策協調学」分野を「社会的意思決定」分野に変更した手続が違法であること。
第2の論点は、上記の違法な分野変更手続により、学融合を推進していた原告の学問の自由が侵害されたこと。

以下は、第1の論点について、原告の主張をまとめたもの。

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第1、本件分野変更手続の違法性


1、本件人事という用語について


 被告は被告第1準備書面中で、《本件で原告が問題にしている平成21年から平成22年にかけて実施された教授ポストの人事》のことを「本件人事」と呼び(4頁2行目)、「本件人事」は本訴で原告が問題とする国際政策協調学の教授人事のことを指しているように見えるが、他方で、前訴(御庁平成24年(ワ)第4734号損害賠償請求事件)の一審判決2頁において、国際政策協調学の教授人事と開発技術政策学の教授人事を総称して「本件人事」と定義している(甲37)。そこで、この用語の定義について整理確認しておきたい。
 結論として、原告も、「本件人事」を前訴と同様、上記2つの分野の教授人事を総称した意味で使うことに異論ない。ただし、国際政策協調学の教授人事は2009年から始まった開発技術政策学の教授人事に先立つこと4年、2005年から始まり、継続されてきたものであり、もともと両者の教授人事は別個独立の人事である(2005年から始まった国際政策協調学の教授人事の経過の概要は今般提出の甲39原告陳述書(2)1参照)。その意味で、両者を区別する必要がある場合には、国際政策協調学の教授人事のことを本件人事1、開発技術政策学の教授人事のことを本件人事2と呼ぶ。

2、組織運営の手続違反の軽重について

(1)、一般論
 そもそも法人等の組織運営における手続違反について、法令または当該組織の内部規則で定めがない場合、手続違反の軽重をどのように判断すべきか。この点、本件と比べ、営利法人であり、なおかつ無効原因に関するものという違いがあるが、株式会社の設立無効原因について述べた次の一般的な判断基準が組織運営の手続違反の軽重を判断する際の指針として参考になる。
《株式会社の設立無効原因をどの範囲で認めるかは、困難な問題であるが、会社法はこれにつきなんらの規定をしていないから、解釈によって決するほかない。一般的に言えば、会社の設立が公序良俗もしくは法の強行規定または株式会社の本質に反する場合かどうかで判断すべきである。》(大隅健一郎・今井宏・小林量「新会社法概説」(2009年3月10日初版)60頁)
(2)、本件
 これを参考にすれば、本件における組織運営における手続違反の軽重も解釈によって決するほかないが、一般的に言えば、当該組織運営が公序良俗もしくは法(当該組織の内部規則も含む)の強行規定または当該組織の本質に反する場合かどうかで判断すべきである。本件は国際協力学専攻が所属する新領域創成科学研究科という大学院の運営において発生した問題であり、それゆえ、「当該組織の本質」とは当該研究科紹介のHP(甲3)に記載された通り、
新領域創成科学研究科は、学際性をさらに推し進めた「学融合」という概念で新しい学問領域を創出することを目指して1998年に設置され》た大学院という点にある。具体的には、新しい学問領域すなわち《ナノ、物質・材料、エネルギー、情報、複雑系、生命、医療、環境、国際協力など、伝統的な学問体系では扱いきれなくなった分野横断的な重要課題に取り組むために、各分野をリードする意欲的な教員が集結しました。組織の壁を取り払った自由でオープンな研究教育環境の中で多様なメンバーが密に交流・協力し、人類が直面する新しい課題に挑戦していくことが研究科の基本理念です。》(甲3)
 従って、新領域創成科学研究科という組織運営における手続違反の軽重もこの研究科の基本理念(組織の本質)に照らして判断されるべきである。

3、本件人事1の本質的特徴


 次に、本件人事1の本質的特徴を一言で言えば、それは国際政策協調学の教授人事と社会的意思決定の教授人事という、両者は一見連続しているようで実は不連続な、別個独立の2つの教授人事から構成されており、一方の国際政策協調学は進行中の教授人事を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了されたものであり、他方の社会的意思決定はその後ただちに新たな分野で教授人事が再スタートしたが肝心の分野選定の手続が省略されたものである。すなわち、
本件人事1は、既に2005年に分野とポストが「国際政策協調学の教授人事」と決定し(甲39原告陳述書(2)1参照)、2009年5月に当該教授選考手続を再開したものである。具体的には、5月13日の学術経営委員会で教授選考委員会が設置され(甲7の3)、教授選考委員会から発議した国際協力学専攻に対し具体的な教授選考手続の遂行が委託され、国際協力学専攻は教授候補者の募集・検討を開始した。ところが、その募集活動のさなかである2009年11月、この間営々と進められてきた募集活動と相容れない措置が突如として取られた。それが「国際政策協調学」の分野変更という名目で行われた「国際政策協調学の教授人事」の凍結(中止)という措置であった。それが進行中の教授人事を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了することである。言うまでもなく、教授人事を開始するにあたって、分野の決定を検討する中で分野変更が行われるのであれば、それはノーマルな措置である。しかし、本件はそれとは全く異なる。なぜなら、4年前の2005年に国際政策協調学の教授人事が開始されたとき、分野は国際政策協調学と審議・決定され、その決定を受けて具体的な教授選考手続が進められ、一時休止しながらも継続してきたのである。それが2009年5月から具体的な教授選考を再開し、その具体的な教授選考の募集手続が進められているさなかに、その募集手続をいきなり「今のはなかったことにしよう」と凍結(中止)するのは、30年以上の研究生活の原告にとって一度も経験したことのないほどの、異例中の異例の出来事であった。
従って、もしこのような措置が適切なものとして認められるためには、異例中の異例の措置を正当なものにするに足りるだけの次の2つの措置の履行が不可欠である。
ⓐ.決定済みの分野につき進行中の募集手続をなぜ凍結(中止)しなければならないのか、その合理的な理由を関係機関である発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に説明し、凍結(中止)の承認を得ること。
ⓑ.新たな分野で教授人事を再スタートする以上、新たな分野での教授人事の発議からつまり基幹専攻会議で分野変更の審議・決定から手続を履行すること。

4、本件人事1の重大な分野変更手続違反の概要


 以上述べた本件人事1の本質的特徴を踏まえ、5で述べる国際協力学専攻が所属する新領域創成科学研究科における分野選定手続の意義を踏まえると、本件人事1における分野変更手続違反として重大なものは次の3点に集約できる。
①.国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に対し、進行中の募集手続中止の理由を説明する措置を取らなかったこと及び当該機関の承認の不存在。
②.新たな分野で教授人事の再スタートにあたって、基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在。
③.新たな分野で教授人事において、分野選定委員会の虚偽の審議結果報告書の作成。

5、第1の手続違反――進行中の教授人事の強制中途終了の手続違反――


3で前述した通り、本件人事1の本質的特徴の第1は進行中の募集手続を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了したことである。それゆえ、もしこのような極めて異例な不作法が正当化されるとしたら、そのためには、本件人事1の関係機関である発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に対し、進行中の募集手続をなぜ凍結(中止)しなければならないのか、その合理的な理由を説明し、当該機関から承認を得る必要がある。
ところが、本件において、当時専攻長の國島正彦教授らが委員を務める教授選考委員会は上記制終了について、基幹専攻会議及び学術経営委員会から承認を得なかったのはもちろんのこと、そもそもこれらの機関に対し中止の説明を全くしていない。この点で、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。

6、第2の手続違反――基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――


(1)、新たな分野で教授人事の再スタートする場合の本来の手続
本来であれば、分野変更について一から手続を履行する場合には次の手続を踏むことが必要である。
①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定。
②.専攻から学術経営委員会へ分野の選定について発議。
③.学術経営委員会の承認により分野選定委員会を設置。
④.分野選定委員会の審議・決定。
⑤.分野選定委員会から学術経営委員会へ報告。1回目の審議と再審議の決定。
⑥.2回目の審議と分野の承認。選考委員会を設置。
これらの手続のうち最も重要なものは「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」であり、これが欠けては分野変更の中核となる手続の不存在と言うほかない。
なぜなら、2(2)で前述した通り、新領域創成科学研究科の特質とは、学融合による新しい学問領域の創すなわち《ナノ、物質・材料、エネルギー、情報、複雑系、生命、医療、環境、国際協力など、伝統的な学問体系では扱いきれなくなった分野横断的な重要課題に取り組むために、各分野をリードする意欲的な教員が集結しました。組織の壁を取り払った自由でオープンな研究教育環境の中で多様なメンバーが密に交流・協力し、人類が直面する新しい課題に挑戦していくことが研究科の基本理念です。》(甲3)という点にある。
そこで、《学融合という理念を実践するためには、どのような専門領域の組み合わせで教員を配置するかが重要》(甲5高木陳述書2頁(3)3~4行目)となる。この「どのような専門領域の組み合わせで教員を配置するか」を決めるのが教員人事における「分野の選定」手続である。そして、「分野の選定」手続の最初の手続である《研究科(原告代理人注:新領域創成科学研究科の学術経営委員会という意味である)へ新しい人事を発議する段階で、次の公募分野を何にするかは、非常に重要な事項でした。》(同高木陳述書2頁(3)1~2行目)。なぜなら、「どのような専門領域の組み合わせで教員を配置する」のが最適であるかがここで実質的に審議されるからである。《そのため、分野選定の議論には、教授や助教授だけでなく、将来を担う若い助手の人たちにも議論に参加してもらうようにしました。》(同高木陳述書2頁(3)5~7行目)
以上の通り、「分野の選定」の実質的な審議が行われる「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」が最も重要な手続である。
基幹専攻会議の前身の大講座会議の時代であるが、実際にも、2002~3年の教員人事において、分野の選定をめぐって大講座会議において極めて活発な審議をおこなったことが、当時の議事録(甲44。2~3頁<協議事項>1、新人事にむけての望ましい分野の検討について・ 同45。2~3頁<協議事項>6、新人事にむけての望ましい分野の検討について)に克明に記載されている。

(2)、新たに社会的意思決定で教授人事を再スタートした本件の教授人事
 ところが、社会的意思決定に分野変更された本件の教授人事においては、分野変更の最も重要な手続である「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」が全く履行されていない。この点で、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。

7、第3の手続違反――分野選定委員会の虚偽の審議結果報告書の作成――


 本件では、2009年11月25日に「④.分野選定委員会の審議・決定。」の事実がないにもかかわらず、これがあったかのように装い、審議の末、当日出席しない原告(甲1原告陳述書14頁参照)も含め「全員一致でこれを承認した」という虚偽の報告書が作成され、学術委員会に提出された(甲18の3)。これは虚偽公文書作成に該当する違法な行為であり、この点でも、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。

8、小括

 以上に述べた通り、本件分野変更手続は、3つの重大な手続違反をおかしており、これらの重大な手続違反の結果、「国際政策協調学」分野は廃止され、当該分野を要素の1つとする本件学融合は多大な支障を来たすに至り、本件学融合の推進を目指していた原告の学問研究の自由を侵害するものであることが明白である。


◆その2原告準備書面(3)から)

1、第2の手続違反――基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――の根拠となる被告の内部規則

今般、原告は、原告準備書面(2)6頁で主張した第2の手続違反すなわち基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――の根拠となる被告の内部規則を入手したので、証拠として提出する(甲50~52)。
 これは2003年(平成15年)9月17日の学術経営委員会で承認、制定された「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(以下、本件規則という)であり、教員人事における分野及びポストの審議のために新たに分野選定委員会を設置し、その具体的な運用について定めたものである。
注目すべきなのは、本件規則(当初の甲50及びその後改正の甲51、同52のいずれも)の注釈として、
注1.「分野及びポスト」の変更が生じる場合は、再度、発議からやり直す。
と明記していることである。
すなわち、発議により学術経営委員会で教員人事が進められている中で、「分野及びポスト」の変更が生じる場合には、人事手続として、最初から、発議からやり直す必要があることが明らかにしたものである。
 従って、原告準備書面(2)6頁で主張した通り、国際政策協調学の教授人事(以下、本件人事1と略称)において、既に決まっていた国際政策協調学分野を社会的意思決定に変更する場合には、発議した専攻の基幹専攻会議で分野の変更について審議・決定して「発議をやり直す」ことが必要であるのに、それをしなった本件人事1は本件規則に違反することが明らかであり、違法と言わざるを得ない。
 

【報告】次回第6回裁判(17.4.7)の準備に向けての上申書を提出(17.3.1)

本日(3.1)、ようやく門前払いの問題に決着がつき、本題に入ることがハッキリしたので、次回までに予定されている被告の反論の準備について、念のため、被告に「原告主張について認否をすること」を求めた上申書を提出しました。
被告の認否により、分野変更手続違反という本件紛争の事実関係について、被告がどの事実は認め、どの事実は争うのか、被告の態度が明確になります。

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平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件     
原  告  柳田 辰雄
被  告  国立大学法人東京大学 

認否反論に関する上申書
2017年 3月 1日
東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中
                     
                                        原告代理人弁護士   柳  原   敏  夫

本日の期日において、被告は次回期日までに、本訴の主要論点である「本件人事1に関する分野変更手続の違法性」及び「学問の自由の侵害」について原告準備書面(2)第1、同(3)2、及び同(4)1で明らかにした原告主張(請求原因事実)に対する反論を準備することとなったが、言うまでもなく、その反論の大前提として、上記請求原因事実に対する被告の認否が不可欠であり、これを明らかにされるよう求める。
また、上記2つの主要論点以外の訴状の請求原因事実についても、この間、被告は認否をしておらず、とりわけ否認する事実については次回までに明確にされることを求める。否認を明確にしない請求原因事実については、「被告はこれを明らかに争わないものである」と原告は理解して再反論を準備する。
以 上

【報告】第5回裁判(17.3.1)

本日、予定通り、第4回期日(非公開の準備手続)を実施しました。

23日、原告より、前回の宿題(今回の違法な手続と学問の自由の侵害との関係を具体的に明らかにすること)について、以下の準備書面と原告の陳述書3を提出。

24日、被告より、前回の宿題(原告の今回の書面に対する反論)が提出。

第2準備書面 -->こちら
‥‥その内容は、答弁書と第1準備書面のくり返しで、前訴でケリがついたのだから本訴を行なう意味はないから直ちに却下すべし、という門前払いの判決を求めるもの。

27日、原告より、被告のこの第2準備書面に対する反論の書面。
‥‥その内容は、
①.学問の自由の侵害に関する主張の整理、
②.裁判所に対し、門前払いの主張から前に進もうとしない被告の態度が正しいかどうかを判断する中間判決を求めたもの。

本日、裁判所は「門前払いを求める」被告の訴えを認めず、本題に入るように、すなわち、被告に、本訴の主要論点である「本件人事1に関する分野変更手続の違法性」及び「学問の自由の侵害」について次回までに反論するように指示しました。

次回は4月7日(金)15時30分。

         ***************



平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件     
原  告  柳田 辰雄
被  告  国立大学法人東京大学 
原告準備書面 (3)
2017年 2月23日
東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中

原告訴訟代理人 弁護士  柳原 敏

本書面は、第1に、「国際政策協調学」分野を「社会的意思決定」分野に変更した手続(以下、本件分野変更手続という)が違法である根拠となる被告の内部規則が判明したこと、第2に、違法な本件分野変更手続により原告の学問の自由が侵害された具体的な内容について明らかにしたものである。

目 次

1、第2の手続違反――基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――の根拠となる被告の内部規則                     1頁


2、本件人事1の違法な手続と原告の学問の自由の侵害との関係           2頁

1、第2の手続違反――基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――の根拠となる被告の内部規則


今般、原告は、原告準備書面(2)6頁で主張した第2の手続違反すなわち基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――の根拠となる被告の内部規則を入手したので、証拠として提出する(甲50~52)。
 これは2003年(平成15年)9月17日の学術経営委員会で承認、制定された「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(以下、本件規則という)であり、教員人事における分野及びポストの審議のために新たに分野選定委員会を設置し、その具体的な運用について定めたものである。
注目すべきなのは、本件規則(当初の甲50及びその後改正の甲51、同52のいずれも)の注釈として、
注1.「分野及びポスト」の変更が生じる場合は、再度、発議からやり直す。
と明記していることである。
すなわち、発議により学術経営委員会で教員人事が進められている中で、「分野及びポスト」の変更が生じる場合には、人事手続として、最初から、発議からやり直す必要があることが明らかにしたものである。
 従って、原告準備書面(2)6頁で主張した通り、国際政策協調学の教授人事(以下、本件人事1と略称)において、既に決まっていた国際政策協調学分野を社会的意思決定に変更する場合には、発議した専攻の基幹専攻会議で分野の変更について審議・決定して「発議をやり直す」ことが必要であるのに、それをしなった本件人事1は本件規則に違反することが明らかであり、違法と言わざるを得ない。

2、本件人事1の違法な手続と原告の学問の自由の侵害との関係
(1)、結論
原告準備書面(2)及び上記1で主張した通り、本件人事1の手続は違法であり、この違法な手続により、国際政策協調学の教授人事の実現が妨げられた。その結果、国際政策協調学の新任教授との間で進めようと準備していた原告の本学融合(その具体的な内容は(2)で述べる)の取り組みは頓挫し、本学融合の研究に多大な支障をもたらした。これは原告にとっての学問の自由の重大な侵害にほかならない。
(2)、本学融合の具体的内容
本学融合の具体的内容は今般提出の甲48原告陳述書(3)2に述べた通りである。すなわち、
①.学問の対象は「国際システムの秩序と安定」である。
②.学問の方法は『経済、政治、法が相互依存及び相互作用する国際社会の動態全体をリアルに捉えるために、国際社会における経済、政治、法の相互依存及び相互作用を正面から探求する新しい研究方法を採用した。それが従来の経済学、政治学および法学の再統合である。具体的には「国際政治経済システム学」、「国際政策協調学」及び「国際環境組織論」の3つの分野の研究者がぞれぞれの分野の研究成果を持ち寄り、その相互交流・意見交換を通じて、国際社会における経済、政治、法の相互依存及び相互作用を共同で探求すること』である。
 この立場から、原告のイニシアチブにより、1999年、環境学専攻の下に国際環境基盤学大講座が設立されたとき、この大講座の中に、社会科学における国際政治学、国際経済学および国際法の3つの分野の研究者を集めることが決まり、2006年4月、大講座が国際協力学専攻に改組された後は、制度設計講座の中に「国際政治経済システム学」、「国際政策協調学」及び「国際環境組織論」の3つの分野の研究者を集めることが決まったのである。
(3)、本件人事1の違法な手続による本学融合の頓挫
 しかるに、2010年5月、学術経営委員会で教授選考委員会が設置され、国際政策協調学の教授人事がスタートしたが、その募集活動のさなか同年11月に突然、この教授人事は一方的に中断され、発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議で変更の説明も変更の審議・了承もないまま、教授人事の分野が国際政策協調学から社会的意思決定に変更された。1で前述した通り、この人事手続は本件規則に違反する違法なものであり、この違法な人事手続の結果、国際政策協調学の教授人事は実現できなくなった。
そのため、国際政策協調学の新任教授との間で進めようと準備していた原告の本学融合の取り組みは頓挫し、本学融合の研究に多大な支障をもたらした。これは原告にとっての学問の自由の重大な侵害にほかならない。
以 上
  
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陳 述 書 (3)
2017年2月22日
 東京地方裁判所民事第14部 御中

             原告  柳 田 辰 雄            

1、はじめに
私が取り組んできた学融合(以下、本学融合といいます)について、陳述書(甲1)5頁で次のように述べました。
1999年、環境学専攻の下に国際環境基盤学大講座が設立されたときに、この大講座の中に、社会科学における国際政治学、国際経済学および国際法の3つの分野の学問を融合させることを目標として「国際政策協調学」と「国際政治経済システム学」と「国際環境組織論」の3つの分野が設立されました。
 私は、実在する「国際システム」を冷徹に理解する学問分野として、第1に「国際政治経済システム学」を、第2にこの国際システムにおいてどのような政策協調が、多国間で可能となり、第3に国際システムの多国による国際組織を通じた維持管理が行えるかを研究することを構想しました。
 より具体的には、国際政治経済システム学は国際システムの動態的な構造をより客観的に理解することを目的とし、国際政策協調学は、その国際システムがよりよく機能するために、2国間および多国間の政策の協調を研究する学問です。国際環境組織論は、国際連合等の組織自体のガバナンスという統治と自治を研究する学問です。》
 今回、本件の違法な分野変更手続により本学融合がどのように侵害されたか、という観点から本学融合について説明を補充します。

2、本学融合の研究方法
 本学融合により私が目指した学問研究を一言で言えば、その学問の対象は「国際システムの秩序と安定」であり、その学問の方法は従来の経済学、政治学および法学を再統合することでした。従来の経済学、政治学と法学はそれぞれ経済、政治、法という特定の観点から社会を分析するもので、その方法によりそれなりの成果をあげましたが、しかし、経済、政治、法が相互依存及び相互作用する国際社会の動態全体をリアルに捉えるためには専門分野に特化した従来の研究方法では不十分であり、そのためには、国際社会における経済、政治、法の相互依存及び相互作用を正面から探求する新しい研究方法が不可欠でした。それが従来の経済学、政治学および法学を再統合するということでした。具体的には、「国際政治経済システム学」と「国際政策協調学」と「国際環境組織論」の3つの分野の研究者がぞれぞれの分野の研究成果を持ち寄り、その相互交流・意見交換を通じて、国際社会における経済、政治、法の相互依存及び相互作用を共同で探求するということでした。そのためには、この3つの分野の研究者が同一の研究施設で日常的に顔を突き合わせて、意見交換できる環境が必要でした。そのために、1999年、国際協力学専攻の前身である環境学専攻の下に国際環境基盤学大講座が設立されたとき、この大講座の中に、社会科学における国際政治学、国際経済学および国際法の3つの分野の研究者を集めることが決まり、2006年4月、大講座が国際協力学専攻に改組された後は、制度設計講座の中に「国際政治経済システム学」と「国際政策協調学」と「国際環境組織論」の3つの分野の研究者を集めることになったのです。

3、本学融合と本件の違法な分野変更手続の関係   
 2010年5月、学術経営委員会で教授選考委員会が設置され、国際政策協調学の教授人事がスタートしましたが、その募集活動のさなか同年11月に突然、この教授人事は一方的に中断されました。その上で、国際協力学専攻の基幹専攻会議で説明も了承もないまま、この教授人事の分野が国際政策協調学から社会的意思決定に変更されました。その結果、国際政策協調学の教授人事は実現しないことになりました。このような人事手続は悪質違法なもので断じて許すことができません。この悪質違法な人事手続の結果、予定していた国際政策協調学の新任教授は実現せず、国際政策協調学を不可欠の要素とする本学融合の取り組みは頓挫と言ってよいほどの多大な支障をもたらしたことは言うまでもありません。その詳細は陳述書(甲1)7頁以下に、4、国際政策協調学分野廃止が原告の学融合にとって与えた影響で述べた通りです。

4、国際政策協調学の新任教授実現のためのこの間の取り組み
 国際政策協調学分野で新任教授を得て本学融合を進めるために、この間、私は次のような取組みを続けて来ました。同時にこの取り組みは国際環境基盤学大講座及び改組後の国際協力学専攻で承認され、大講座及び専攻の取り組みとして行われたものです。
①.2004年10月、大講座から専攻への改組に向け、文科省に提出するために、専攻化のための「国際協力学専攻の目的と研究体制」という文書を大講座の中で検討して私が作成しました(甲4)。この文書の中で、国際政策協調学分野が専攻の制度設計講座の筆頭に明記され(3頁)、その重要性が強調されています。
②.2005年4月、国際政策協調学の教授職を国際公募することが大講座会議で承認されました。尤も、このときは教授間の意見の一致が得られず、最終候補者1名を絞ることができず、実現しませんでした。
③.この公募人事の不成立後にも、2006年4月には国際協力学専攻が創設され、第1回基幹専攻会議において、国際政策協調学の教授人事を再公募で進めることが確認されました(甲45同会議の議事録4頁12)。
④.2005年4月以降、専攻化に向け、分野等を確認する作業の中で、国際政策協調学を新任教授で行うことが決まりました(甲49参照 )。
⑤.2009年6月に、私は、基幹専攻会議で国際政策協調学の教授人事の再開を提案し,了承されました(甲6)。
 こうした一連の取り組みの末、2010年5月から、学術経営委員会において国際政策協調学の教授人事のための教授選考委員会が設置されました(甲7の3資料15)。
 しかるに,この人事は,募集のさなか突然の中断、突然の分野変更により頓挫してしまいました。その結果、制度設計講座において,社会科学の「学融合」の実践を目指すという私の構想も頓挫といっていいほどの大きな支障をきたしてしまったのです。
  以 上


       ***************
 
平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件     
原  告  柳田 辰雄
被  告  国立大学法人東京大学 
原告準備書面 (4)
2017年 2月2
東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中

原告訴訟代理人 弁護士  柳原 敏

本書面は、第1に、学問の自由の侵害の具体的な内容に関する原告主張の整理、第2に、24日提出の被告第2準備書面に対する反論を述べたものである。

目 次

1、「本件人事1の違法な手続と原告の学問の自由の侵害との関係」に関する原告主張の整理


 本件人事1(その意味は原告準備書面(2)第1、1で述べた通り)の違法な分野変更手続の結果、いかなる態様により本学融合(その意味は原告準備書面(3)2(2)で述べた通り)の研究に重大な支障を来たし、学問の自由を侵害したかについて、従前、原告準備書面(2)及び同(3)でおこなった原告主張を次の通り整理する。
 すなわち、本件人事1の違法な分野変更手続の結果、次の2つの態様により本学融合の研究に重大な支障を来たした。この2つの態様の詳細は各原告準備書面の当該箇所で主張した通りである。
①.国際政策協調学の新任教授の採用が実現せず、その結果、原告と当該新任教授との本学融合の研究に重大な支障を来たした(原告準備書面(3)2参照)。
②.分野変更後の社会的意思決定で教授が採用された結果、制度設計講座の教授の定員枠は埋まり、教授ポストの国際政策協調学分野は自動的に廃止となった。その結果、本件人事1ののち、これまで通りの国際政策協調学分野の教授人事を実施することは不可能となり、原告と国際政策協調学の新任教授との本学融合の研究に重大な支障を来たした(原告準備書面(2)第1、8参照)。

2、中間判決の申立て


「国際政策協調学」分野を「社会的意思決定」分野に変更した手続(以下、本件分野変更手続という)が違法であり、その結果、原告が取り組んできた本学融合に重大な支障を来たしたことを具体的に主張した原告準備書面(2)に対し、被告は今般提出の第2準備書面の第1において、《かかる主張は前訴における主張とまったく同一であり、‥‥紛争を蒸し返すものといわざるを得ない》(1頁)と答弁書及び第1準備書面とまったく同一の主張を蒸し返している。
しかし、原告が既に原告準備書面()第2で、「本訴が前訴の蒸し返しでない」ことを個別具体的に立証しているの対し、(今般、湊准教授の論点では速やかに証拠を提出する)被告は、これに対する個別具体的な反証を何一つ実行しない。
 原告は、今回で、原告の請求原因事実とこれを基礎づける証拠を一通り提出し終わり、今後は、証人尋問の実施を希望している。よって審理の整理、証人尋問のために、請求原因事実に対する被告の認否は不可欠であるが、被告は今なお、それすら果していない。
そこで、原告は、「本訴は前訴の蒸し返しであり、訴え却下されるべき」であるという被告主張について、裁判所の中間判決の判断を求めるものである。

3、「本件人事1のあと、教授ポストの国際政策協調学分野は廃止されたか」について

(1)、原告主張に対する被告の擬制自白の成立
 今般、被告は、第2準備書面第2で原告準備書面(2)第2に対する反論を行った。しかし、以下の原告主張、
《被告の主張は、国際政策協調学の教授人事の分野変更によっても、国際政策協調学の准教授ポストは廃止にならないというにとどまり、国際政策協調学の教授ポストが廃止になることは否定していない。なぜなら‥‥》
に対しては黙したままでこれを争わない。すなわち本訴にとって核心的な事実である「本件人事1のあと、教授ポストの国際政策協調学分野は廃止された」ことについて、被告は明らかに争わないものであると解される(もし争う気があるのなら、速やかに主張すべきである)。
(2)、前訴の湊准教授の陳述書(乙8)について
 今般、被告は、前訴の湊准教授の陳述書(乙8)のプロフィールの中に、《国際政策協調学分野において准教授を勤めております》と記載されていると主張する。
 この点、湊氏に確認したところ、裁判の陳述書作成は初めての経験であり、本文以外の陳述書の様式・前書きは原告代理人に任せたため、この誤記(原告代理人が誤まって記載)に気がつかないまま、署名捺印したものである。二審でこの誤記に気がついたので、二審の陳述書(甲56)作成時には当該誤記は削除した、というものである。
 いずれにせよ、湊准教授の研究教育分野は遅くとも2005年9月以後「協調政策科学」であり、それは単なる彼個人の認識ではなく、当時の国際環境基盤学大講座全体の了解事項であった。その事実は、前回提出済みの書証である甲41号証、すなわち湊氏の分野が「協調政策科学」と記載された平成18(2006)年度入試案内書が2005年11月10日開催の上記大講座会議で審議・了解された上で作成されたことが同会議議事録(甲57)3(2)の記載からも明らかである。
以 上

【報告】第4回裁判(17.1.30)

予定通り、1月30日(月)、第4回期日(非公開の準備手続)が開かれました。

原告より、具体的にどのような違法な手続があったのかについて、以下の準備書面と原告の陳述書2を提出。

裁判所から
原告に対し、今回の違法な手続と学問の自由の侵害との関係を具体的に明らかにすること、
被告に対し、次回までに原告の今回の書面に対する反論を準備すること
が宿題として出された。

次回期日は 3月1日(水)。ただし、非公開の準備手続。

         ***************



平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件     
原  告  柳田 辰雄
被  告  国立大学法人東京大学 

原告準備書面 (2)
2017年 1月23日
東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中

原告訴訟代理人 弁護士  柳原 敏

原告は、「国際政策協調学」分野を「社会的意思決定」分野に変更した手続(以下、本件分野変更手続という)が違法であることについて、訴状6頁(3)、アの主張を以下の通り整理し、具体的に主張する。合わせて、被告第1準備書面に対しても反論する。

目 次

第1、本件分野変更手続の違法性


1、本件人事という用語について


 被告は被告第1準備書面中で、《本件で原告が問題にしている平成21年から平成22年にかけて実施された教授ポストの人事》のことを「本件人事」と呼び(4頁2行目)、「本件人事」は本訴で原告が問題とする国際政策協調学の教授人事のことを指しているように見えるが、他方で、前訴(御庁平成24年(ワ)第4734号損害賠償請求事件)の一審判決2頁において、国際政策協調学の教授人事と開発技術政策学の教授人事を総称して「本件人事」と定義している(甲37)。そこで、この用語の定義について整理確認しておきたい。
 結論として、原告も、「本件人事」を前訴と同様、上記2つの分野の教授人事を総称した意味で使うことに異論ない。ただし、国際政策協調学の教授人事は2009年から始まった開発技術政策学の教授人事に先立つこと4年、2005年から始まり、継続されてきたものであり、もともと両者の教授人事は別個独立の人事である(2005年から始まった国際政策協調学の教授人事の経過の概要は今般提出の甲39原告陳述書(2)1参照)。その意味で、両者を区別する必要がある場合には、国際政策協調学の教授人事のことを本件人事1、開発技術政策学の教授人事のことを本件人事2と呼ぶ。

2、組織運営の手続違反の軽重について


(1)、一般論
 そもそも法人等の組織運営における手続違反について、法令または当該組織の内部規則で定めがない場合、手続違反の軽重をどのように判断すべきか。この点、本件と比べ、営利法人であり、なおかつ無効原因に関するものという違いがあるが、株式会社の設立無効原因について述べた次の一般的な判断基準が組織運営の手続違反の軽重を判断する際の指針として参考になる。
《株式会社の設立無効原因をどの範囲で認めるかは、困難な問題であるが、会社法はこれにつきなんらの規定をしていないから、解釈によって決するほかない。一般的に言えば、会社の設立が公序良俗もしくは法の強行規定または株式会社の本質に反する場合かどうかで判断すべきである。》(大隅健一郎・今井宏・小林量「新会社法概説」(2009年3月10日初版)60頁)
(2)、本件
 これを参考にすれば、本件における組織運営における手続違反の軽重も解釈によって決するほかないが、一般的に言えば、当該組織運営が公序良俗もしくは法(当該組織の内部規則も含む)の強行規定または当該組織の本質に反する場合かどうかで判断すべきである。本件は国際協力学専攻が所属する新領域創成科学研究科という大学院の運営において発生した問題であり、それゆえ、「当該組織の本質」とは当該研究科紹介のHP(甲3)に記載された通り、
新領域創成科学研究科は、学際性をさらに推し進めた「学融合」という概念で新しい学問領域を創出することを目指して1998年に設置され》た大学院という点にある。具体的には、新しい学問領域すなわち《ナノ、物質・材料、エネルギー、情報、複雑系、生命、医療、環境、国際協力など、伝統的な学問体系では扱いきれなくなった分野横断的な重要課題に取り組むために、各分野をリードする意欲的な教員が集結しました。組織の壁を取り払った自由でオープンな研究教育環境の中で多様なメンバーが密に交流・協力し、人類が直面する新しい課題に挑戦していくことが研究科の基本理念です。》(甲3)
 従って、新領域創成科学研究科という組織運営における手続違反の軽重もこの研究科の基本理念(組織の本質)に照らして判断されるべきである。

3、本件人事1の本質的特徴


 次に、本件人事1の本質的特徴を一言で言えば、それは国際政策協調学の教授人事と社会的意思決定の教授人事という、両者は一見連続しているようで実は不連続な、別個独立の2つの教授人事から構成されており、一方の国際政策協調学は進行中の教授人事を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了されたものであり、他方の社会的意思決定はその後ただちに新たな分野で教授人事が再スタートしたが肝心の分野選定の手続が省略されたものである。すなわち、
本件人事1は、既に2005年に分野とポストが「国際政策協調学の教授人事」と決定し(甲39原告陳述書(2)1参照)、2009年5月に当該教授選考手続を再開したものである。具体的には、5月13日の学術経営委員会で教授選考委員会が設置され(甲7の3)、教授選考委員会から発議した国際協力学専攻に対し具体的な教授選考手続の遂行が委託され、国際協力学専攻は教授候補者の募集・検討を開始した。ところが、その募集活動のさなかである2009年11月、この間営々と進められてきた募集活動と相容れない措置が突如として取られた。それが「国際政策協調学」の分野変更という名目で行われた「国際政策協調学の教授人事」の凍結(中止)という措置であった。それが進行中の教授人事を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了することである。言うまでもなく、教授人事を開始するにあたって、分野の決定を検討する中で分野変更が行われるのであれば、それはノーマルな措置である。しかし、本件はそれとは全く異なる。なぜなら、4年前の2005年に国際政策協調学の教授人事が開始されたとき、分野は国際政策協調学と審議・決定され、その決定を受けて具体的な教授選考手続が進められ、一時休止しながらも継続してきたのである。それが2009年5月から具体的な教授選考を再開し、その具体的な教授選考の募集手続が進められているさなかに、その募集手続をいきなり「今のはなかったことにしよう」と凍結(中止)するのは、30年以上の研究生活の原告にとって一度も経験したことのないほどの、異例中の異例の出来事であった。
従って、もしこのような措置が適切なものとして認められるためには、異例中の異例の措置を正当なものにするに足りるだけの次の2つの措置の履行が不可欠である。
ⓐ.決定済みの分野につき進行中の募集手続をなぜ凍結(中止)しなければならないのか、その合理的な理由を関係機関である発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に説明し、凍結(中止)の承認を得ること。
ⓑ.新たな分野で教授人事を再スタートする以上、新たな分野での教授人事の発議からつまり基幹専攻会議で分野変更の審議・決定から手続を履行すること。

4、本件人事1の重大な分野変更手続違反の概要


 以上述べた本件人事1の本質的特徴を踏まえ、5で述べる国際協力学専攻が所属する新領域創成科学研究科における分野選定手続の意義を踏まえると、本件人事1における分野変更手続違反として重大なものは次の3点に集約できる。
①.国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に対し、進行中の募集手続中止の理由を説明する措置を取らなかったこと及び当該機関の承認の不存在。
②.新たな分野で教授人事の再スタートにあたって、基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在。
③.新たな分野で教授人事において、分野選定委員会の虚偽の審議結果報告書の作成。

5、第1の手続違反――進行中の教授人事の強制中途終了の手続違反――


3で前述した通り、本件人事1の本質的特徴の第1は進行中の募集手続を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了したことである。それゆえ、もしこのような極めて異例な不作法が正当化されるとしたら、そのためには、本件人事1の関係機関である発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に対し、進行中の募集手続をなぜ凍結(中止)しなければならないのか、その合理的な理由を説明し、当該機関から承認を得る必要がある。
ところが、本件において、当時専攻長の國島正彦教授らが委員を務める教授選考委員会は上記制終了について、基幹専攻会議及び学術経営委員会から承認を得なかったのはもちろんのこと、そもそもこれらの機関に対し中止の説明を全くしていない。この点で、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。

6、第2の手続違反――基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在――


(1)、新たな分野で教授人事の再スタートする場合の本来の手続
本来であれば、分野変更について一から手続を履行する場合には次の手続を踏むことが必要である。
①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定。
②.専攻から学術経営委員会へ分野の選定について発議。
③.学術経営委員会の承認により分野選定委員会を設置。
④.分野選定委員会の審議・決定。
⑤.分野選定委員会から学術経営委員会へ報告。1回目の審議と再審議の決定。
⑥.2回目の審議と分野の承認。選考委員会を設置。
これらの手続のうち最も重要なものは「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」であり、これが欠けては分野変更の中核となる手続の不存在と言うほかない。
なぜなら、2(2)で前述した通り、新領域創成科学研究科の特質とは、学融合による新しい学問領域の創すなわち《ナノ、物質・材料、エネルギー、情報、複雑系、生命、医療、環境、国際協力など、伝統的な学問体系では扱いきれなくなった分野横断的な重要課題に取り組むために、各分野をリードする意欲的な教員が集結しました。組織の壁を取り払った自由でオープンな研究教育環境の中で多様なメンバーが密に交流・協力し、人類が直面する新しい課題に挑戦していくことが研究科の基本理念です。》(甲3)という点にある。
そこで、《学融合という理念を実践するためには、どのような専門領域の組み合わせで教員を配置するかが重要》(甲5高木陳述書2頁(3)3~4行目)となる。この「どのような専門領域の組み合わせで教員を配置するか」を決めるのが教員人事における「分野の選定」手続である。そして、「分野の選定」手続の最初の手続である《研究科(原告代理人注:新領域創成科学研究科の学術経営委員会という意味である)へ新しい人事を発議する段階で、次の公募分野を何にするかは、非常に重要な事項でした。》(同高木陳述書2頁(3)1~2行目)。なぜなら、「どのような専門領域の組み合わせで教員を配置する」のが最適であるかがここで実質的に審議されるからである。《そのため、分野選定の議論には、教授や助教授だけでなく、将来を担う若い助手の人たちにも議論に参加してもらうようにしました。》(同高木陳述書2頁(3)5~7行目)
以上の通り、「分野の選定」の実質的な審議が行われる「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」が最も重要な手続である。
基幹専攻会議の前身の大講座会議の時代であるが、実際にも、2002~3年の教員人事において、分野の選定をめぐって大講座会議において極めて活発な審議をおこなったことが、当時の議事録(甲44。2~3頁<協議事項>1、新人事にむけての望ましい分野の検討について・ 同45。2~3頁<協議事項>6、新人事にむけての望ましい分野の検討について)に克明に記載されている。

(2)、新たに社会的意思決定で教授人事を再スタートした本件の教授人事
 ところが、社会的意思決定に分野変更された本件の教授人事においては、分野変更の最も重要な手続である「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」が全く履行されていない。この点で、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。

7、第3の手続違反――分野選定委員会の虚偽の審議結果報告書の作成――


 本件では、2009年11月25日に「④.分野選定委員会の審議・決定。」の事実がないにもかかわらず、これがあったかのように装い、審議の末、当日出席しない原告(甲1原告陳述書14頁参照)も含め「全員一致でこれを承認した」という虚偽の報告書が作成され、学術委員会に提出された(甲18の3)。これは虚偽公文書作成に該当する違法な行為であり、この点でも、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。

8、小括

 以上に述べた通り、本件分野変更手続は、3つの重大な手続違反をおかしており、これらの重大な手続違反の結果、「国際政策協調学」分野は廃止され、当該分野を要素の1つとする本件学融合は多大な支障を来たすに至り、本件学融合の推進を目指していた原告の学問研究の自由を侵害するものであることが明白である。

第2、被告第1準備書面に対する反論


1、「本件人事後も、国際政策協調学分野は廃止されていない」について

 第1で前述した通り、国際政策協調学分野の教授人事は進行中の募集手続のさなか強制終了(中止)され、教授人事はあらたな分野に変更されたが、被告は、この人事のあとも国際政策協調学分野は廃止されていないと主張する(5頁第3)。その理由として被告は、国際政策協調学分野の准教授ポストは本件人事の前後とも湊隆幸氏であり、その証拠としてその旨が記載された書面(乙6~7)を提出する。
 しかし、これら2つの書面の「湊氏が国際政策協調学分野の准教授である」という記載は端的に間違っている。なぜなら、湊陳述書(甲40)が陳述する通り,
湊氏の研究教育分野は2005年9月以後現在まで、終始一貫「協調政策科学」であり(甲41~43)、国際政策協調学であったことは一度もないからである。
 その上、被告の主張は、国際政策協調学の教授人事の分野変更によっても、国際政策協調学の准教授ポストは廃止にならないというにとどまり、国際政策協調学の教授ポストが廃止になることは否定していない。なぜなら、国立大学の教員は定員枠が決められており、この定員枠に基づいて教員の人件費が予算化されているため、新たな分野を追加して教員を追加採用しようと思っても、通常、定員枠を超えることはできない(つまり採用しても人件費が払えない)。2009年当時、国際協力学専攻の制度設計講座は教授2名(うち1名が空きポスト)、准教授1名の定員が割当てられており、それゆえ制度設計講座の教授人事において、国際政策協調学から社会的意思決定に分野を変更した場合、社会的意思決定で教授を採用すればそれで教授の定員枠は埋まってしまい、国際政策協調学は存続する意味がなくなる。つまり自動的に廃止となるほかない(甲39原告陳述書(2)2参照)。
それゆえ、本件分野変更手続により社会的意思決定に分野を変更した結果、国際政策協調学は廃止され、これにより本件学融合の研究に重大な支障を来たしたのである。
以 上

          ***************


陳 述 書 (2)
2017年1月2
 東京地方裁判所民事第14部 御中

原告   柳 田 辰 雄 

1、2005年から始まった国際政策協調学の教授人事の手続について
 平成16年(2004年)3月に国際政策協調学分野の松原望教授退職され、その後任人事の手続が平成17年(2005年)に入って始まりました。そして、同年7月に学術経営員会で教員人事の分野が国際政策協調学と選定され、教授選考委員会が設置されました。これにより、同年7月末から国際政策協調学分野の教授の国際公募が始まりました(甲44公募のための要項ドラフト参照)。同年12月に応募者の中から3人の候補者が選ばれ、翌年1月から面接が行われましたが、教授間の意見の一致が見られず、最終候補者1名を絞ることができませんでした。このため、国際環境基盤学大講座が国際協力学専攻に改組された平成18年(2006年)4月の第1回基幹専攻会議で、国際政策協調学の教授人事は「再公募の意向が承認」されました(甲45同会議の議事録4頁12)。
 以上の経過を経て、平成21年(2009年)5月に、国際政策協調学の教授人事の手続が再開されました(甲7の3参照)。

2、分野変更した場合、変更前の分野の廃止について
  国立大学法人である東京大学においては、教員の人件費は基本的に運営交付金でまかなわれていますが、この運営交付金の額は教員の定員枠に基づいて決められます。例えば、教員の定員枠が4人で、一人あたりの人件費が年間500万円だとすると年間の運営交付金の額は500万円×4=2,000万円となります。そして、教員は必ず担当する分野が決まっていますので、例えば、教員の定員枠が4人なら、教員ごとに合計4つの分野が存在します。しかし、分野を増やしたからといって、通常、教員の定員枠が増えるわけではありません。したがって、分野変更して分野を1つ増やすとき、教員の定員枠が変わらないように、変更前の分野を廃止しなければなりません。
 本件の分野変更がなされた平成21年(2009年)の時点で、国際協力学専攻の制度設計講座には教授2名(政治経済システム学分野の教授1名(充足)、国際政策協調学分野の教授1名(空きポスト))と准教授1名(協調政策科学分野(充足))の定員が割当てられていました。従って、本件の教授人事で国際政策協調学分野から社会的意思決定分野に変更されると、教授2名の定員枠のため、国際政策協調学分野は自動的に廃止されることになりました。 
  以 上