民主主義が幕を閉じ、独裁国家が完成するというのはお隣の香港やミャンマーの話だけではなくて、この私たちの国で進行中の話だ。
ただし、この国の光景は香港やミャンマーのように市民に対する公然の強権的な弾圧や抑圧ではなく、このたび開示された森友学園の財務省決済文書改ざん問題の「赤木フィアル」が示すように、もっと陰険で、陰でコソコソ、そしてジワジワと抑圧が進められる。
その結果、私たち市民の知らない間に、民主主義の基盤・中核部分が破壊されていき、民主主義から独裁体制にじわりじわりと移行する。
その民主主義の基盤・中核の1つが、今日の文明社会の科学・技術・文化を担う知識人、研究者、技術者たちの市民的自由とりわけ彼らの発言の自由、表現の自由。それが学問の自由と言われるものだ。
彼ら知識人、研究者、技術者たちが帰属する組織は「言うことを聞かなければココから排除する」と恐怖心をもって彼らを制圧し、メシを食うためには発言の自由、表現の自由は押し殺さなければならないことを悟らせる。
その結果、彼ら知識人、研究者、技術者たちは自分たちに発言の自由、表現の自由があったことを忘れる「歌を忘れたカナリア」になるか、忘れずにそれらの自由は心の奥にしまい込んだ「隠れキリシタン」のいずれかになってしまう。
これが権力者にとって理想的な、強権的な弾圧や抑圧が見えない、臭わない、痛みもない独裁体制である。
いま、この国で進行しているのは、放射能災害のような、見えない、臭わない、痛みもない「理想的な独裁体制」だ。
この息が詰まるような「理想的な独裁体制」にノーという声をあげたひとりが4年前、東京大学による学問の自由の侵害を告発した柳田辰雄東大教授(当時)。そして、今月、筑波大学による学問の自由の侵害を告発した平山朝治筑波大教授。
彼らは、知識人の市民的自由の大切さを、単に象牙の塔の教壇の上から語るのではなく、現実の場で勝ち取るために象牙の塔の外に出て、提訴という行動に出た。
それは市民にとっては迂遠な、無関係な雲の上の出来事に写るかもしれない。
しかし、それは「歌を忘れたカナリア」になることも「現代の隠れキリシタン」になることも拒否した、「歌を取り戻すカナリア」の出現である。
かつて、炭鉱事故を察知するために坑内に「カナリア」が置かれた。「カナリア」はいち早く炭鉱事故を察知し、その危険を訴えたから。
学問の自由の侵害を告発した彼らもまた民主主義の事故(独裁体制)を察知するために社会に出現した「カナリア」である(※)。
彼らが目指すのは、彼ら自身の人権の回復にとどまらず、私たち市民にとってかけがいのない、人が人として尊重される民主主義の基盤・中核を取り戻すことそのものである。
(文責 柳原敏夫)
(※)それは日本の戦前の歴史が証明している。戦前、京大と東大で起きた学問の自由の侵害事件(1933年の滝川事件、1935年の天皇機関説事件)を境に、日本社会は民主主義が幕を閉じ、独裁国家が完成する分岐点となった。
この2つの事件の歴史的意義を自らの体験も交えて強調するのは政治思想史家の丸山真男である(『丸山眞男回顧談』ほか)。
2021年6月23日水曜日
【ブログ再開の言葉】なぜ今、学問の自由の侵害なのか(21.6.23)
提訴のお知らせ:2021年6月18日、筑波大学とAKS(現Vernalossom)を被告として、ネット公開済みの論説削除という学問の自由の侵害を理由とする原状回復等の請求の訴えを起こしました。
向かって中央が原告(平山朝治)、右が柳田VS東大「学問の自由」侵害裁判の原告(柳田辰雄)、左が原告代理人(柳原敏夫)。
【裁判の当事者】
①.原告平山朝治筑波大学人文社会系教授。
1989年12月東京大学大学院経済学研究科理論経済学・経済史学専攻第2種博士課程修了
1986年4月~1990年5月 東京大学助手教養学部
2011年10月 筑波大学人文社会系准教授
2013年4月 筑波大学人文社会系教授 現在に至る。
1989年 経済学博士(東京大学)
②.被告
国立大学法人筑波大学
株式会社Vernalossom(2020年4月1日、株式会社AKSから社名変更)
【事件の概要】
原告は、論文「NGT48問題・第四者による検討結果報告」の著者です。本論文は昨年1月より筑波大学のリポジトリで一般公開され話題となっていたところ、昨年4月、株式会社Vernalossom(旧社名AKS。以下、AKSという)より「本論文は当社の名誉毀損にあたり、リポジトリからの削除を求める、さもなければ提訴する」という抗議文が原告と筑波大学に寄せられました。それに対し、筑波大学は自分の大学に所属する原告の学問の自由の擁護に努めるのではなく、「提訴を避けたい」という我が身の保身しか考えず、原告に内密にAKSと連絡を取り、すぐさま原告に無断で、筑波大学のリポジトリから本論文を削除して、これにより、原告の学問の自由を侵害するために貢献しました。
のみならず、この削除を知った原告の度重なる抗議にもかかわらず、さらには、AKSの抗議文を調査するため大学が設置した調査委員会の報告書が「論文の内容が名誉棄損であるとはいえない」と結論を出したにもかかわらず、筑波大学はAKSとの密約を履行するため、迅速に削除した後1年以上にわたり現在に至るまで、首尾一貫して、本論文をリポジトリに再公開しようとしません。その結果、AKSとの密約に誠実な筑波大学のおかげで、原告の本論文を発表する自由は重大な侵害を受けました。
今回の事件は、本来、所属する研究者の学問の自由を擁護する立場にある大学がこともあろうに、所属する研究者の学問の自由の侵害を自ら進んで手を貸して実行・継続するという、大学としてあるまじき前代未聞の醜聞、大学の自殺行為です。この裁判はこうした異常事態をただし、もって、学問の自由の回復をめざそうとする取り組みです。
【裁判資料】
・訴 状->こちら
・事件の経過年表->こちら
・原告の陳述書(甲1)->こちら
・証拠説明書(1)(甲1~63)->こちら
・提訴にあたっての原告の所信->こちら
・記者会見資料:「<論説>NGT48 問題・第四者による検討結果報告」つくばリポジトリ・ダウンロードページ等の変遷
【マスコミ報道】
NHK ―> 筑波大教授「NGT48」問題論文 大学ホームページから削除で提訴
時事通信 -> 「削除は違憲」筑波大を提訴 アイドル暴行事件論文で教授 東京地裁
産経新聞 ―>NGT48問題論文削除「学問の自由侵害」と提訴
【記者会見の映像】
2021.6.18筑波大教授VS筑波大・AKS /論説「NGT48 問題・第四者による検討結果報告」をめぐる「学問の自由」侵害裁判の提訴直後の会見(東京地裁司法記者クラブ)