その控訴審の最初の書面、なぜ原告は控訴したのか、その理由を詳述する「控訴理由書」を作成し、5月31日、提出しました。そして、原告(控訴人)自身による、一審判決はどこがおかしいかを述べた陳述書(6)他の証拠を提出しました。
合わせて、40頁以上の長文の控訴理由書の要旨を作成し、提出しました。
以下、それらを掲載します。
これらのPDFは-->控訴理由書 控訴人陳述書(6) 控訴理由書(要旨)
控訴審の第1回口頭弁論の日が次の通り、決まりました。
皆さんの傍聴をお待ちします。
***************
日時:7月5日(木)午前10時40分
法廷:東京高裁8階809号法廷
担当部:東京高裁第8民事部
地図 ->こちら
東京高裁の建物全景
2018年 5月31日
東京高等裁判所第8民事部C係 御中
控訴人訴訟代理人 弁護士 柳原敏夫
控訴理由書の要旨は冒頭の目次によりほぼ明らかであるが、目次ではなお説明が足りないと思われる要旨について、以下に追加する。
1、2段階の法律問題
請求の趣旨との関係で、本件教授人事には2段階の法律問題が存在する。最初が本件教授人事が被告の内部規則に違反しないかといういわゆる「3つの手続違反」の問題、次がこの「3つの手続違反」により本学融合という原告の学問の自由が侵害されたか否かという問題である。
2、「3つの手続違反」及び学問の自由の侵害に関する論点の一覧表
尤も、本件の「3つの手続違反」(①教授選考手続の停止問題、②分野変更の発議のための基幹専攻会議の審議・決定の不存在問題、③分野選定委員会の分野変更の審議・承認の偽装問題。以下、①~③と略称)には法律問題以外にも次の問題が存在し、その概要を一覧表にまとめると次頁の通りである。
①.
実体法上の問題
ⓐ.法律問題
ⓑ.事実問題
②.
手続法上の問題
また、学問の自由の侵害に関する論点も、同様に次頁の一覧表にまとめた。
*************
平成30年(ネ)第2039号
控訴人 柳田 辰雄
被控訴人 国立大学法人 東京大学
2018年 5月30日
東京高等裁判所第8民事部C係 御中
控訴人訴訟代理人 弁護士 柳原敏夫
目 次
頭書事件の控訴理由は以下の通りである。
なお、本書面の本文では便宜上、控訴人を原告、被控訴人を被告と表記する。
はじめに
原判決の中心的な問題点は2009年11月までの国際政策協調学[1]分野の教授人事(以下、本件教授人事という)における3つの手続違反すなわち被告の教員人事に関する内部規則違反、これをめぐる原判決の「法令(=被告の内部規則)解釈の誤りと事実認定の誤り」にある。
加えて、「国際システムの秩序と安定」を学問対象とする原告の学融合(その詳細は原告準備書面(3)2、(2)参照。以下、本学融合という)という学問の自由の侵害について、大前提である法令の解釈をしないまま、法的判断である結論を下したという意味で「法令の適用の誤り」、さらには民事訴訟法違反の問題がある。以下、順次、明らかにする。
第1、3つの手続違反
本件教授人事においては3つの手続違反があった。その特徴を一言で言うと次の通りである。
1番目の手続違反は、教授選考手続の最中にいきなり「停止」するという、被告の教員人事に関する内部規則が想定していない異常事態が発生したこと、
2番目の手続違反は、分野変更の発議について被告の内部規則に明文(甲52ほか)があるにも関わらず、この明文の規則を無視して発議がなされたこと。
3番目の手続違反は、分野変更において分野選定委員会の審議・承認がなかったにも関わらず、同審議・承認があったかのように偽装したこと。
ところが、原判決は上記3つの手続違反の特徴と正面から向き合わず、その結果、以下の「法令(被告の内部規則)解釈の誤りと事実認定の誤り」をおかしたものである。
1、教授選考手続の停止問題
(1)、問題の所在
被告に限らず、一般に大学の教員選考手続(決定した分野及びポストについて候補者を募集し、応募者から最終候補者1名を選定[TY1]等)はそれがスタートした以上、特別の事情が発生しない限り、応募者の中から1名の最終候補者を選定するまで進められるものである。ところが、本件においては、2009年5月以来進行していた国際政策協調学分野の教授選考手続([TY2]同年10月時点の活動は候補者の募集である)が同年10月26日から11月25日の間のどこかの時点で「停止」になった。なぜなら、この間に生じた以下の相反する2つの事実に照らせば、この間進行中の国際政策協調学分野の教授選考手続を「停止」しなければ、以下の②国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更する旨の発議をすることは不可能だからである(甲75別紙の経過年表参照)。
①、2009年10月26日.、前月9月の教授懇談会の打合せ通り、原告らは駒場に出かけ、国際政策協調学分野の教授候補者の推薦を依頼したこと(乙10・甲10)。
②.同年11月25日、国際協力学専攻から学術経営委員会に分野を国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更する旨の発議が出され、分野変更を審議するための分野選定委員会が設置されたこと(甲14の3)。
にもかかわらず、進行中の国際政策協調学分野の教授選考手続を「停止」した「特別な事情」について、当時この教授選考を担当していた教授選考委員会(甲7の3)から、また同委員会に教授選考を委嘱した学術経営委員会からも発議専攻である国際協力学に対し一切説明がなかった。これは明らかに尋常ならざる事態である。
そこで、このような教授選考手続の「停止」が被告制定の内部規則に違反しないかが問題となる。
(2)、原判決の原告主張の「書き換え」(原告主張の認定の誤り)
この問題に対して、原判決がまず行なったことは原告主張の「書き換え」である。すなわち原告が主張しない事実を「原告の主張」と認定し、それに基づいて、上記教授選考手続の「停止」は違法ではないと判断した(これが弁論主義違反であることについては、第3、1、(2)イ〔32頁〕で後述する)。すなわち、教授選考手続の停止問題について原告主張は次の通りであった。
《2005年7月に、分野とポストが国際政策協調学分野の教授ポストと決定された(乙9の2参照)あと、2006年3月に最終候補者1名を全員一致で決定できず不成立となった(甲63別紙の経過年表参照)。2007年の原告の1年間のサバティカル研修ののち、2009年5月から教授選考委員会が設置され、再度、教授選考手続を進めてきた(同年表参照)。しかし、進行中の教授選考手続が同年11月に停止された。これは被告制定の内部規則に違反する。》(原告準備書面(6)第2、1)。
これに対し、原判決は教授選考手続の停止問題についての原告主張を次のように認定した。
《原告は、上記について、①学術経営委員会において一旦選考する分野及びポストを国際政策協調学分野の教授ポストと定めながら、合理的理由なくこれを中止し、‥‥旨主張する》(23頁8行目以下)
つまり、原告主張は、2005年7月に、教員人事の分野とポストを国際政策協調学分野の教授ポストとすると一旦決定しながら、その後合理的理由なくこれを中止したことである、と。
しかし、ここで原告が問題にする「停止」の対象とは、教員人事の分野とポストの決定を中止したことにあるのではなく、教員人事の分野とポストが分野選定委員会で正式に決定された後、この決定を受けて、次の人事手続すなわち教授選考手続(本件では具体的な候補者の募集)が進行しているさなかに、突如、この進行中の教授選考手続が「停止」された点にある。従って、原判決は、実際に原告が主張した『教授選考手続(具体的な候補者の募集)が進行しているさなかに、突如、この進行中の教授選考手続が「停止」されたこと』を、教授選考手続より前の段階の『教員人事の分野とポストの決定が「中止」されたこと』に書き換えたものである。
原判決はなぜこうした「原告主張の書き換え」を行なったのか、その理由は(7)②イ(9頁下から4行目以下)で後述することにして、以下、この書き換えられた原告主張を退け、書き換え前の原告主張に立ち戻って、その当否を明らかにする。
(3)、法律問題1(進行中の教員選考手続の「停止」に関する規則の有無)
では、被告が制定した教員人事に関する内部規則中(甲32の1など)に、進行中の教員選考手続を「停止」する規則は存在するか。
結論として存在しない。その理由は、進行中の教員選考手続は少なくとも最終候補者1名の選定まで進めることを予定しており、それ以前に「停止」されることを想定していないからである。
この意味で、進行中の教授選考手続を「停止」することは許されず、被告の内部規則に違反する。
(4)、法律問題2(進行中の教員選考手続の「停止」に関する超法規的な措置の可能性)
これに対し、原審において被告は主張しなかったが、被告の利益のために言うと、その上で、なお次の抗弁が可能である。たとえ明文の規定がなくても進行中の教員選考手続を「停止」することがいわば超法規的な措置[2]として、例外的に許容されることがあるとすればそれはいかなる場合か。一般論として、こうした例外を軽々しく許容すべきではないことは言うまでもないが、仮に例外が許容されるとしても、そのためには許容に値するだけの「合理的な理由」が備わっていることが不可欠である。
この点、民事訴訟手続において「停止」を定めた規定(民訴法130~131条)が参考になる。これらの規定には既に「停止」を許容するだけの「合理的な理由」が備わっていると解されるので、これを参照すれば、進行中の教員選考手続を「停止」することも以下の要件のもとで例外的に許容されると解することができる(原告準備書面(6)第2、1)。
①「停止すべくやむをえない事情の発生」として次の2つの事由
(ア)、天災その他の事故により教員選考が執行不能(民訴法130条参照)
(イ)、発議専攻の教員や応募者に不定期間の故障が発生し、教員選考の続行が不可能(民訴法131条参照)
(イ)、発議専攻の教員や応募者に不定期間の故障が発生し、教員選考の続行が不可能(民訴法131条参照)
②「教員選考委員会から利害関係人(学術経営委員会及び発議専攻)へ説明と了解」
なぜなら、もともと教員選考委員会は学術経営委員会から委託に基づき教員選考手続を執行する立場にあるから学術経営委員会及び発議専攻に対し説明責任を果す必要がある。
(5)、法律問題2について法令(被告の内部規則)の適用
ア、次に、本件の教授選考手続の停止問題において、以上の超法規的な措置に関する法令(被告の内部規則)を適用するといかなる結果となるか。そこで、以下の通り、上記(4)で明らかにした要件に該当する具体的事実の有無を検討する。
①.「停止すべくやむをえない事情の発生」の事実
②.「教員選考委員会から利害関係人である学術経営委員会と発議専攻へ説明と了解」の事実
イ、具体的事実の有無の検討
①.「停止すべくやむをえない事情の発生」の事実
結論として存在しなかった、少なくとも存在したことの証明はない。なぜなら、この間(10月26日~11月25日)の、前記(4)①記載の(ア)、天災その他の事故により教員選考が執行不能及び(イ)、発議専攻の教員や応募者に不定期間の故障が発生し、教員選考の続行が不可能に関する事実を裏付ける証拠は被告から提出されていないからである。
②.「教員選考委員会から利害関係人である学術経営委員会と発議専攻へ説明と了解」の事実
同様に、この間(10月26日~11月25日)の、この事実を裏付ける証拠は被告から提出されていないから、存在しなかった、少なくとも存在したことの証明はない。
ウ、小括
以上から、本件において、「教授選考手続の停止」の事実は存在したが、この「停止」が例外的に許容される前記超法規的な措置の要件に該当する事実は存在しなかった(原告準備書面(5)第2、2〔5頁〕参照)。
(6)、まとめ
以上の2つの法律問題を検討した結果、本件において、進行中の教授選考手続を「停止」することは許されず、被告の内部規則に違反する。
(7)、原判決及びその問題点(①~②)
ア、原判決
原判決は、第1に、前訴と本訴の関係を以下のように捉え、そこから手続違反を否定した。
《仮に原告が主張するように原告の学問の自由の侵害に当たるような重大な手続的暇疵が存在したというのであれば、それは当然に本件選考それ自体の手続的違法として本件前訴において問題とされ、審理判断されて然るべきである(逆に本件前訴において主張され、争点とされていないのであれば、それはかえって当該暇疵の重大性自体を疑わしめるものと言わざるを得ない)。)》(23頁下から3行目~24頁4行目)
イ、原判決の問題点
ところで、原審で、原告は、進行中の教授選考手続は「停止」することが被告の内部規則に違反することを直接及び間接的に証明しているのだから(原告準備書面(5)第2、2〔5頁〕など)、本来であれば、この原告の主張・立証に対して、裁判所は吟味検討の上応答すべきであった。しかし、原判決はこれに対しては何も応答しなかった。これは理由不備、審議不尽と言わざるを得ない。
その上で、原判決は、単に、前訴で、
ⓐ.本件教授人事の手続的な違法が認定されていない。
ⓑ.本件教授人事の手続的な違法が争点とされていないことは、この争点の重大性が疑われる。
を理由にして、進行中の教授選考手続の「停止」も手続き的な瑕疵はないと断じた。しかし、そもそも本訴と前訴は訴訟物も主要な争点も全く異なり、それゆえ前訴の争点を理由に本訴の争点を判断する論法が成り立たないことは、次の通り、原審で原告が指摘済みである。にもかかわらず、原判決はこの指摘を吟味検討の上応答したのではなく、単にこれを無視したものである。
《訴訟物の時間的要素が、本訴は2009年(平成21年)11月25日までの手続違反を問うものである(原告準備書面(2)第1、4以下参照)のに対し、前訴は、以下の前訴訴状の主張の通り、2009年(平成21年)12月から翌年12月までの手続違反を問うもの》(原告準備書面(5)第1、2〔2~3頁〕)
《本訴と前訴間の主要な争点は同一か。結論としてこれも両者は同一ではない。なぜなら、本訴の主要な争点である3つの手続違反は、前訴において争点としてはひとつも取り上げられず、当該争点の是非をめぐって審理で吟味検討されたことはなかったからである》(同書面第1、3〔3頁〕)。
②.前記①と前記②の関係
ア、原判決
原判決は、第2に、前訴と本訴の関係を以下のように捉え、そこから手続違反を否定した。
《原告が主張する前記①の点は、結局のところ前記②と表裏の問題であって、前記②について上記のとおりの判断である以上、前記①の点をもって本件選考における分野変更を違法と評価する余地はないというべきである。》(25頁(ウ))
イ、原判決の問題点
ところで、原告主張の「教授選考手続の停止問題」すなわち前記①の問題とは、前記(2)(4頁)で述べた通り、具体的な教授選考手続(本件では具体的な候補者の募集)が進行しているさなかに、突如、この進行中の教授選考手続が「停止」されたという問題であって、それ以前に行なわれた分野選定の決定が「停止」されたという問題ではない。従って、この「教授選考手続の停止問題」は分野選定をめぐる手続違反を問う「分野変更の発議に至る手続問題」すなわち前記②の問題とは次元の異なる問題であって、《結局のところ前記②と表裏の問題である》ということはできない。それゆえ、《前記②と表裏の問題である》とみなして、前記②に違法はないのと同様に前記①も違法はないという原判決の論法は成立しない。
ここから、(2)(5頁)で前述した原判決がなぜ「原告主張の書き換え」に出たのか、その理由が明らかである。すなわち、原審で原告は、進行中の教授選考手続は「停止」することが被告の内部規則に違反することを直接及び間接的に証明しているのだから、本来であれば、一審裁判所はこの原告の主張・立証を吟味検討の上応答すべきであった。しかし、一審裁判所はこれに対して何も応答しなかった、というより出来なかった。そこで、その代わり、2番目の分野変更の発議が手続に違反しないことを根拠にして、これと「表裏の問題」である1番目の手続違反の問題も同様に手続に違反しないという論理を立てたのである。そのためには1番目の手続違反の問題が2番目の分野変更の発議をめぐる手続違反の問題と「表裏の問題」でなくてはならない。そこで、1番目の手続違反の問題を「『教授選考手続の「停止」』ではなく、『一旦なされた分野選定の決定の「中止」』と原告主張を「書き換えた」のである。
(8)、小括
以上から明らかな通り、「教授選考手続の停止問題」について、原告主張・立証を吟味検討せずに、原判示の理由のみで手続違反を否定した原判決は、被告の内部規則の解釈適用を誤り、理由不備、審理不尽の違法をおかしたものにほかならない。
2、分野変更の発議のための基幹専攻会議の審議・決定の不存在問題
(1)、問題の所在
本件において、進行中の国際政策協調学分野の教授選考手続を「停止」したあと、2009年11月25日、分野を国際政策協調学を社会的意思決定に変更して新たに教授選考することを国際協力学から学術経営委員会に発議し、分野選定委員会が設置された(甲14の3)。しかし、この発議に至るおいて、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更の審議・決定がなされなかった(この事実は被告も争わない)。
原審において、原告は、当初、学融合による新しい学問領域の創出を基本理念とする新領域創成科学研究科においては、教員全員が参加する基幹専攻会議において分野選定の審議・決定をすることが分野選定の最重要な手続であることを理由に、分野変更の場合も同様であるとして、基幹専攻会議で分野変更の審議・決定がなされなかった本件の手続違反を主張した(原告準備書面(2)第1、6〔6~7頁〕)しかし、これに対し一審裁判所から「一体どんな規則に違反しているのか、その根拠となる被告の規則はあるのか」と事案解明の要求が出された。本来ならこれは、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告が回答すべき事柄であるにも関わらず被告がその職責を果さなかったため、原告が苦心の末、当該規則を発見し、準備書面(3)でこれを報告した(甲50~52。以下、本規則という)。従って、本来であれば、「分野変更の発議に至る手続問題」は本規則の適用により決着がつくはずであった。ところが、被告がこれに異議を唱えた。それが、本件分野変更については「基幹専攻会議の審議・決定は必要なく」、「教授懇談会の審議・決定で足りる」、つまり分野変更に関する本規則は適用されないといういわば超法規的な措置を主張するに至った(被告第4準備書面2〔2頁〕)。しかし、被告は超法規的な措置を主張しながら、なにゆえそのような超法規的な措置が許容されるのか、その根拠については一言も言明しなかった。それどころか、被告によれば、本件分野変更では実は「教授懇談会の審議・決定」すら不要であり、「個々の教授の同意で足りる」という前記超法規的な措置のさらにその例外的措置が主張されるに至った。そして、なにゆえそのような超法規的な措置が許容されるのか、その根拠について被告から今度も言明はなかった。ただし、被告としては、この一度のみならず二度にわたる超法規的措置の主張をすることが面目が立たないと感じたのか、原審において「二重の超法規的措置」の主張である点を明確にしなかった。のみならず、一審裁判所もまた、被告の心情を忖度し、この点を明確にしないまま判断を下した。このように超法規的措置をめぐる本件の事案解明の展開は明らかに尋常ならざるものがある。
そこで、以上の事案解明の展開を踏まえ、分野変更に関する前記発議に至る手続において、被告制定の内部規則に違反しないかが問題となる。
(2)、法律問題1(分野変更に関する被告の内部規則の有無)
まず、被告が制定した教員人事に関する内部規則中に、分野変更に関する規則は存在するか。
結論として存在する。それが(1)(12頁)で前述した本規則つまり「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(甲52の2〔1枚目〕・甲50の2・同51の2)の注1
《「分野およびポスト」の変更が生じる場合は、再度、発議からやり直す。》
である。
次に、本規則の注1「再度、発議からやり直す」とはいかなる具体的な手続を意味するか。それは、《「分野およびポスト」を変更する場合には、発議した専攻の基幹専攻会議で「分野およびポスト」の変更に関する審議・決定を経た上で、改めて、学術経営委員会に発議する》という意味である。
なぜなら、訴状で主張した通り、被告の教員人事に関する内部規則に次のように定められているからである(以下、これらと本規則と総称して、本規則等という)。
《Ⓐ.発議
専攻が教員を選考する分野とポスト(教授職か准教授職か)を学術経営委員会に発議する(甲32の1研究科内規2条)。
専攻が教員を選考する分野とポスト(教授職か准教授職か)を学術経営委員会に発議する(甲32の1研究科内規2条)。
専攻で上記発議に至るまでの手続は次の通り(甲33の1研究系内規24条1項2号)(4頁下から12~5行目)。
①.専攻長または関連する講座の教授が基幹専攻会議[4]に提案。
②.同会議で討議して、どの分野にするかを全員一致で承認した後に、ポストを教授にするか准教授にするかを全員一致で決定。》(訴状第3、2、(2)〔4頁〕)
②.同会議で討議して、どの分野にするかを全員一致で承認した後に、ポストを教授にするか准教授にするかを全員一致で決定。》(訴状第3、2、(2)〔4頁〕)
(3)、法律問題1について法令(被告の内部規則)の適用
次に、本件の分野変更の発議に至る手続問題において、上記の規則を適用するといかなる結果となるか。そこで、本規則等に適用すべき具体的事実である「基幹専攻会議の審議・決定」の有無を検討する。
結論として、国際協力学専攻の基幹専攻会議で、本件の分野変更に関する審議・決定をしたという事実はない。なぜなら、前記発議より前に開催された国際協力学の基幹専攻会議の議事録に、本件の分野変更に関する審議・決定をしたという記載はないからである。この事実は被告も争わないし、原判決も同様である(23頁4~6行目)。
従って、国際協力学専攻の基幹専攻会議で本件の分野変更に関する審議・決定を経ずに、発議することは許されず、被告の内部規則に違反する。本来なら、これで本件の分野変更の発議に至る手続問題は決着をみたはずである。
(4)、法律問題2(分野変更の「発議のやり方」に関する超法規的な措置の可能性)
ところが。ここで被告が以下の抗弁を主張した。本件の分野変更の発議に至る手続問題においては、国際協力学専攻の基幹専攻会議で分野変更に関する審議・承認は必要なく、それに代えて、教授懇談会の審議・決定で足りる、と(被告第4準備書面2〔2頁〕)。
では、このようなやり方で発議することが許容されるだろうか。もし許容されるとすればそれはいかなる場合か。
では、このようなやり方で発議することが許容されるだろうか。もし許容されるとすればそれはいかなる場合か。
第1に言えることは、分野変更の発議に関する本規則等(甲50~52。甲32の1。甲33の1)中に、基幹専攻会議の審議・決定の例外を許容する定めはどこにもないことである。それゆえ、たとえこのような例外を許容するとしても、それはいわば超法規的な措置として、極めて厳格な要件のもとに初めて受け入れられるものである。すなわち、
第2に、仮に例外的に許容するとしてもそのためには、その例外に値するだけの極めて厳格な「合理的な理由」が備わっていることが不可欠である。では、本件の分野変更において、果してこのような例外を許容するだけの極めて厳格な「合理的な理由」が備わっているか。
ちなみに、被告は原審で、この「合理的な理由」とその合理的理由に該当する具体的な事実について一言も主張しなかった(原告準備書面(5)6頁11~12行目)。尤も、これは必ずしも被告の怠惰ではなく、上記「合理的な理由」の主張が至難の業であることに由来するものである。
(5)、法律問題2について法令(被告の内部規則)の適用
以上の通り、分野変更の発議に至る手続について、正規の規則である基幹専攻会議の審議・決定に代えて、教授懇談会の審議・決定があれば足りるという超法規的な措置を許容する極めて厳格な「合理的な理由」を見出すのは困難と思われるが、今仮に百歩譲って、万が一、この超法規的な措置が許容されるとして、本件の分野変更の発議に至る手続において、この超法規的な措置を適用するといかなる結果となるか。そのためには、本件における「教授懇談会の審議・決定」の有無を検討する。
結論として、国際協力学専攻の教授懇談会で、本件の分野変更に関する審議・決定をしたという事実はない。なぜなら、
第1に、そもそも会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠であり、国際協力学の基幹専攻会議も教授懇談会も必ず招集通知を出して会議を開催した(2009年12月1日の教授懇談会の招集メール〔甲76〕参照)。しかるに、2009年11月25日より前に開催された教授懇談会の招集通知に議題として「国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更して新たに教授選考すること」の旨が書かれたものはなかったこと。
第2に、11月25日より前に開催された教授懇談会の最後のものは9月29日であるが、この日、原告は国際政策協調学分野の教授選考で、3分野構想[5]の実現のため駒場の山影科長に候補者推薦を依頼する旨を表明し、教授懇談会で了承された(そのことを記録した山路教授の乙10添付資料「『国際協力学専攻・教授懇談会における「制度設計講座ポスト」についての話し合い』及びそれを解説した甲63原告陳述書(5)第1、9〔6頁〕参照)。すなわち、9月29日開催の教授懇談会の時点で国際政策協調学分野の教授人事を別の分野に変更することはあり得ない話だったこと。
第3に、以上の原告主張に対し、被告から上記分野変更に関する「教授懇談会の審議・決定」の事実を裏付ける積極的な間接事実をひとつも主張しなかったこと。
以上から、仮にこの超法規的な措置が許容されるとしても、本件では「本件の分野変更に関して教授懇談会の審議・決定」の事実は存在しないことが明らかである。
(6)、法律問題3(分野変更の「教授懇談会の審議・決定」に関する超法規的な措置の可能性)
原審で、被告自身が上記分野変更に関する「教授懇談会の審議・決定」の事実を裏付ける積極的な間接事実をひとつも主張しなかった訴訟態度から既に窺われることだったが、「分野変更の発議に至る手続問題」に関する被告の主張は、さらにもうひとつの例外を前提とするもの、すなわち本件では教授懇談会の審議・決定すら不要であり、《個別のヒアリングなど》を通じた、「教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」と主張されるに至った(被告第4準備書面2〔2頁11~14行目〕)。
むろん、分野変更の被告の規則中に「教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」といった定めはない。そこで、
「基幹専攻会議の審議・決定は必要なく」、「教授懇談会の審議・決定で足りる」という超法規的な措置について、さらに、「教授懇談会の審議・決定すら必要なく」、「教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」という、分野変更に関する本規則等は適用されないといういわば二重の超法規的な措置が主張されるに至った。
一体、このような超法規的な措置のさらにその超法規的措置という二重の超法規的な措置が許されるものであろうか。万が一、許されるとしてもそれはいかなる場合なのか。
(4)(14頁)で前述したのと同様、二重の例外が許容されるに値するだけの極めて厳格な「合理的な理由」が備わっていることが不可欠である。では、本件の分野変更において、この二重の例外を許容するだけの極めて厳格な「合理的な理由」が備わっているか。
ここでも、被告は原審で、この「合理的な理由」とその合理的理由に該当する具体的な事実について一言も主張しなかった。これもまた被告の怠惰ではなく、上記「合理的な理由」の主張が至難の業であることに由来するものである。
(7)、法律問題3について法令(被告の内部規則)の適用
以上の通り、分野変更の発議に至る手続について、正規の規則である基幹専攻会議の審議・決定に代わる「教授懇談会の審議・決定」にさらに代わるものとして、「教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」という超法規的な措置を許容する極めて厳格な「合理的な理由」を見出すのは困難と思われるが、今仮に百歩譲って、万が一、この超法規的な措置が許容されるとして、本件の分野変更の発議に至る手続において、この超法規的な措置を適用するといかなる結果となるか。そのためには、本件における「教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」の有無を検討する。
結論として、2009年11月25日以前に、国際協力学専攻の教授懇談会のメンバー全員について、本件の分野変更に関する「教授懇談会の個々の教授の同意があった」という事実はない。なぜなら、
第1に、原告から同意を取り付けることは不可能である。(5)(16頁10行目~)で前述した通り、2009年11月25日以前の教授懇談会の最後は9月29日であるが、この日、原告は国際政策協調学分野の教授選考で、3分野構想の実現のため駒場の山影科長に候補者推薦を依頼する旨を表明し、教授懇談会で了承され、この方針に沿って、10月29日に駒場の山影科長に候補者の推薦を依頼しているのであり、念願の学融合の推進に向けて国際政策協調学分野の教授選考に取り組んでいた真っ最中に、これをみずから全面的に否定するような同意はあり得ないこと。
第2に、原審において原告以外の教授懇談会のメンバーから同意を取り付けたという証拠はひとつも提出されていないこと。実際上、上記の9月29日の教授懇談会において、原告提案の国際政策協調学分野の教授人事を推進する取組みが教授全員で了承しておきながら、その直後に、これを全面的に否定する「教授懇談会の個々の教授の同意」は著しく信義則にもとるものであり、通常なら不可能である。
以上から、仮にこの超法規的な措置が許容されるとしても、本件では「本件の分野変更に関して教授懇談会の個々の教授の同意があった」という事実は存在しない。
(8)、小括
以上の3つの法律問題を検討した結果、本件の分野変更の発議に至る手続において、被告の内部規則に違反することが明らかである。
(9)、原判決及びその問題点(①~⑥)
①.分野変更に関する規則の有無について
(1)(12頁)で前述した通り、一審裁判所からの事案解明の釈明に対し説明責任を負う被告に代わって原告が捜索した結果、分野変更に関する規則として、本規則である「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(甲52の2等)の注1が存在することが判明した。
ア、原判決
原判決も本規則の注1の存在を認めざるを得なかったが、しかし、当該規則を以下のように理解した。
《分野選定に関する学術経営委員会申合せに注記されたところによれぱ、.この「分野及びポスト」の変更が生じる場合は、基本的には再度専攻の発議からやり直すことが想定されていることが認められる。》(22頁下から4~末行目。アンダーラインは原告代理人)
イ、原判決の問題点
ところで、分野変更に関する被告の内部規則とは、「基本的には」再度専攻の発議からやり直すことが「想定されている」というものか。否、正確さを最優先する規則の解釈として、上記判示は甚だ不正確なものと言わざるを得ない。なぜなら、本規則の注1《「分野およびポスト」の変更が生じる場合は、再度、発議からやり直す。》には、どこにも「基本的には」も「想定されている」の文言もないからである。つまり、文言上は「再度、発議からやり直すことが例外なく適用される」というものであり、この文言通りに解釈すべきである。上記判示のように、例外を前提とするような解釈は誤りというほかない。
②.分野変更の発議に至る具体的な手続について
(2)(13頁)で前述した通り、分野変更の発議に至る具体的な手続として、《「分野およびポスト」を変更する場合には、発議した専攻の基幹専攻会議で「分野およびポスト」の変更に関する審議・決定を経た上で、改めて、学術経営委員会に発議する》ことを意味する。
(2)(13頁)で前述した通り、分野変更の発議に至る具体的な手続として、《「分野およびポスト」を変更する場合には、発議した専攻の基幹専攻会議で「分野およびポスト」の変更に関する審議・決定を経た上で、改めて、学術経営委員会に発議する》ことを意味する。
ア、原判決
ところが、この具体的な手続について、原判決は、以下の通り判示した。
《専攻における発議の具体的な手続については内規上明確な定めはないものの、環境学研究系組織運営内規22条の定め(前記前提事実(2)イ)からすれば、専攻として発議する分野及びポストの決定に当たっては、教授、准教授及び専任講師の出席する基幹専攻会議でこれを審議・決定するのが最も忠実な取扱いであった》(22頁末行~23頁4行目。アンダーラインは原告代理人)
イ、原判決の問題点
ところで、分野変更の発議に至る具体的な手続とは、「専攻における発議の具体的な手続については内規上明確な定めはないもの」で、基幹専攻会議でこれを審議・決定するのが「最も忠実な取扱いであった」というものか。否、ここでも、正確さを最優先する規則の解釈として、上記判示は甚だ不正確と言わざるを得ない。そもそも《専攻における発議の具体的な手続については内規上明確な定めはない》というのは端的な誤りであって、以下の通り、明確な定めが存在する。つまり (2)(13頁下から3行目~)で前述した通り、
ⓐ.研究科内規2条(甲32の1)により、専攻が教員選考する分野とポストを決定し、学術経営委員会に発議すると定めてある。
ⓑ.専攻で上記発議に至る分野とポストを決定する手続は「専攻の人事事項」であるから、これについて、研究系内規24条1項2号(甲33の1)により、基幹専攻会議で審議及び決定することが明らかである。(訴状第3、2、(2)〔4頁〕)
すなわち、上記判示のように、《内規上明確な定めはないものの‥‥基幹専攻会議でこれを審議・決定するのが最も忠実な取扱い》は誤りであって、「基幹専攻会議で審議・決定すること」を「例外なく適用する」というのがまさしく本規則等の要求するところである。
③.分野変更の発議手続において、「基幹専攻会議の審議・決定」の例外を許容する「合理的な理由」が備わっているかについて
(4)(14頁)で前述した通り、分野変更の発議に至る具体的な手続として、基幹専攻会議の審議・決定に代えて、教授懇談会の審議・決定で足りるとする例外を許容するためには、極めて厳格な「合理的な理由」が備わっていることが必要である。
ア、原判決
この「合理的な理由」について、原判決は、以下の通り判示した。
《本件前訴においても指摘されているとおり、本件両人事が、国際協力学専攻の2つの教授ポストをめぐって同専攻に在籍する3名の准教授が争う構図が強く予測されるものであって、その決定に准教授及びその影響を受けやすいと考えられる専任講師を関与させることが'適切とは言えない事情があることから、教授のみで決定することについては合理的な理由が認められるというべきであり》(24頁11~15行目)。
イ、原判決の問題点
問題は、上記判示の「合理的な理由」が、本件の分野変更の発議手続において、超法規的な措置を許容する極めて厳格な「合理的な理由」に該当するか、である。結論として「合理的な理由」に該当しないと言わざるを得ない。なぜなら、仮に「本件両人事が、国際協力学専攻の2つの教授ポストをめぐって同専攻に在籍する3名の准教授が争う構図が強く予測されるものであって、その決定に准教授及びその影響を受けやすいと考えられる専任講師を関与させることが'適切とは言えない事情があること」が肯定されるとしても、上記の事情は募集を締め切ったのち、応募者の中から最終候補者1名を選定する段階において問題となる余地のある事情ではあっても、それ以前の、教授人事においてどの分野からの研究者を採用するのが最適かをめぐる分野変更の審議ではおよそ問題となる余地はないからである。上記判示が《本件前訴においても指摘されているとおり》と判示した通り、上記判示が指摘する事情は2009年12月以降の公募により応募した者から最終候補者1名を選定するという段階での違法が問われた前訴で問題となる余地があったとしても、 1、(7)①イ(8~9頁)で前述した通り、前訴とは時間的にも全く重ならない2009年11月までの分野変更の手続違反が問われた本訴では、およそ問題となる余地のない事情である。
以上の意味で、上記判示の「合理的な理由」は超法規的な措置を許容する「合理的な理由」に該当しない。従って、上記判示によっては、分野変更の発議に至る具体的な手続として、基幹専攻会議の審議・決定に代えて、教授懇談会の審議・決定で足りることを根拠づける「合理的な理由」が備わっているとは言えない。
④.国際協力学専攻の教授懇談会で、本件の分野変更に関する審議・決定をしたか否か
(5)(15頁)で前述した通り、 国際協力学専攻の教授懇談会で、本件の分野変更に関する審議・決定をしたという事実はない。
ア、原判決
この点について、原判決も、明確ではないが、教授懇談会で本件の分野変更に関する審議・決定があったという認定はしなかった。この事実認定は正しい。しかし、問題は次の⑤の点にある。
⑤.分野変更の発議手続において、「教授懇談会の審議・決定」の例外を許容する「合理的な理由」が備わっているかについて
⑤.分野変更の発議手続において、「教授懇談会の審議・決定」の例外を許容する「合理的な理由」が備わっているかについて
(6)(16頁)で前述した通り、分野変更の発議に至る具体的な手続として、「基幹専攻会議の審議・決定に代えて、教授懇談会の審議・決定で足りる」とするさらに例外として、「教授懇談会の審議・決定すら必要でなく、教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」とする二重の超法規的な措置を許容するためには、当然ながら、より一層厳格な「合理的な理由」の存在が求められる。
ア、原判決
この点について、原判決は次の通り、「教授懇談会の開催・討議・決定すら必要でなく、教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」という、さらにもう1つ超法規的な措置を認め、その要件に該当する事実を認定をした。
《本訴において、原告は、本件選考における分野変更の発議に先立つ平成21年11月11日の選考委員会において、専攻長の國島教授から、社会的意思決定分野の教授ポストについて選考を行いたい旨の説明があったことは自認しており(甲1、63、原告本人)、原告が国際協力学専攻における教授ポストの数に制約がある点は熟知していたことからすれば、これを国際政策協調学分野の教授ポストとは別に新たな選考を行う趣旨と理解した旨の弁解は到底信用し難いことからすれぱ、専攻長の國島教授は、本件の分野変更に消極的な意向である可能性が強い原告を含め、関係する教授(教授懇談会のメンバー)にはあらかじめ分野変更についての説明を行い、了承を得ていたものと推認するのが合理的である。》(25頁3~13行目)
イ、原判決の問題点
しかし、原判決はこの二重の超法規的な措置が許容される「合理的な理由」について、被告と同様、一言も言及しなかった。この点からして、原判決によっては、分野変更の発議に至る具体的な手続として、「教授懇談会の討議・決定に代えて、教授懇談会の個々の教授の同意で足りる」ことを根拠づける「合理的な理由」が備わっているとは言えない。
のみならず、上記超法規的な措置の要件に該当する事実「教授懇談会の個々の教授の同意」についてもその証明がない。この点、原判決は、上記判示の通り、平成21年11月11日の教授選考委員会における原告の振る舞いから、「本件の分野変更に関する原告の個別の同意があった」と認定した。しかし、この事実認定の論拠とされた《国際政策協調学分野の教授ポストとは別に新たな選考を行う趣旨と理解した旨の弁解は到底信用し難いこと》というのは、今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、1で詳述した通り、《端的に、裁判所の誤解に基づく事実誤認》(2頁11行目)に由来するものであり、同第1、5で詳述した通り、<私の陳述書(5)(甲63)9(6頁)や後記6、(3)を一読すれば、《國島専攻長が当時、国際政策協調学の教授人事の先頭に立っている私に向かって、国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更することのヒアリングをするなど想像すらでき》なかったことが合点していただけるはずです。>(6~7頁)というものである。すなわち「本件の分野変更に関する原告の個別の同意があった」という事実はおよそ考えられない。
⑥.分野変更の発議手続に瑕疵があったとしても治癒されたかについて
以上の通り、「分野変更の発議に至る手続問題」における瑕疵が否定し難いことは原判決も重々承認するところであって、そこで、原判決は最後の切り札として、被告が主張もしない「瑕疵の治癒」という論点を取り上げるに至った。
ア、
原判決
《本件では少なくとも平成22年3月11日に開催された基幹専攻会議において、この点も含め、国際協力学専攻に所属する教授及び准教授8人全員の参加の下で、従前進めてきた選考手順に従って本件選考を進めることが承認されている以上、この点に係る手続上の暇疵は治癒されたものと解することができる。》(24頁下4行目~25頁1行目)
イ、原判決の問題点
しかし、「瑕疵の治癒」の論点は前訴の一審判決(甲37)中に判示されたことはあっても、本訴で被告が上記論点に関する法律上の主張も事実上の主張もしたことは一度もない。それゆえ、上記判示は、当事者の主張しない事実はたとえそれが証拠から認定できる場合でも判決の基礎に置くことができないという弁論主義に違反する。のみならず、ここには「瑕疵の治癒」にとって重大な事実誤認がある。なぜなら、今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、3で述べたように《3月11日開催の基幹専攻会議で、従前進めてきた選考手順に従って本件選考を進めることの是非を問うたとき、私ともう1名が反対したため、全員一致ではなく、多数決で承認されたという事実です。私の陳述書(甲1)16頁にも経過年表(甲2)にもちゃんと書いてあります。それにも関わらず、この事実を判決は無視しました。全員一致ならまだしも、2名の反対があった以上、このような多数決の採決をもって発議に関する手続違反が治癒されたと解することは到底不可能》(5頁10行目以下)だからである。
(10)、小括
以上から明らかな通り、「分野変更の発議に至る手続問題」について、原判決は、分野変更に関する被告制定の内部規則の解釈、その超法規的な措置の可否及び当該超法規的な措置の要件に該当する事実認定において、法令解釈及び法令適用を誤り、経験則違反、理由不備の違法をおかしたものにほかならない。
3、分野選定委員会の分野変更の審議・承認の偽装問題
(1)、問題の所在
本件において、国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更する審議・承認をしたとされる2009年11月25日の分野選定委員会の会議は実は開催されなかった。その最大の根拠は、そもそも会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠であるところ、この時の分野選定委員会の会議では、招集通知である一斉メールが原告を含めて委員全員に届いていないからである。にも関わらず、当日に会議が開催され、分野変更が審議され全員一致で承認されたという内容の報告書(甲18の3)が作成され、これに基づき、学術経営委員会で分野変更が承認された。本規則である「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(甲52の2)は、教員選考において、分野およびポストを審議するため分野選定委員会について規則を制定している。そこで、真実、分野選定委員会の会議が開催されないにもかかわらず開催され、分野変更が審議され全員一致で承認されたという虚偽の報告書を作成して、この虚偽の報告書に基づき学術経営委員会で分野変更が承認されたことは、被告制定の本規則に対する重大な違反行為ではないかが問題となる。
(2)、事実問題
ア、問題の所在
ここでの問題は、11月25日に分野選定委員会が開催され(以下、この時の分野選定委員会を本件分野選定委員会という)、分野変更が審議承認されたか否か?言い換えれば、11月25日に分野選定委員会が開催され、分野変更が審議承認されたという審議結果報告書(甲18の3・同20の2)の記載内容は真実か否かである。
イ、検討
これに対する結論は前記審議結果報告書の記載内容は虚偽である。その理由は以下の通りである。
もともと不存在「~ない」ということを直接に証明することは原理的に不可能であるため、「会議が開催されなかった」という不存在の事実の証明のために、間接証拠(間接事実)から推認する必要がある。この点、決定的な間接事実は開催の招集通知の有無である。
第1に、本来、会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠である。国際協力学の基幹専攻会議も教授懇談会も必ず招集通知を出し、学術経営委員会に設置された教員選考委員会の会議も招集通知を出した(2009年10月27日の召集メール〔甲12〕参照)。しかるに、通常なら必ず送られてくる招集通知が本件分野選定委員会の会議に対して、招集の一斉メールが原告を含めて委員全員に届いていないこと。
第2に、原審で、被告は本件分野選定委員会が開催されたと主張した(被告第3準備書面第1、4〔2頁〕。同第4準備書面3〔2頁〕)ので、原告から被告に対し、2度にわたり、開催のための招集通知の有無及びその具体的内容を明らかにするよう求める求釈明を出した(2017年4月7日付被告第3準備書面に対する求釈明書4(2~3頁)。原告準備書面(5)第4〔12頁〕)。本来であれば、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告は粛々と招集に関する情報を提出すべきであるのに、どうした訳か、被告はこれに応答しなかったし、これに対し一審裁判所も大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告に釈明を求めて事案解明もしなかったこと。
第2に、原審で、被告は本件分野選定委員会が開催されたと主張した(被告第3準備書面第1、4〔2頁〕。同第4準備書面3〔2頁〕)ので、原告から被告に対し、2度にわたり、開催のための招集通知の有無及びその具体的内容を明らかにするよう求める求釈明を出した(2017年4月7日付被告第3準備書面に対する求釈明書4(2~3頁)。原告準備書面(5)第4〔12頁〕)。本来であれば、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告は粛々と招集に関する情報を提出すべきであるのに、どうした訳か、被告はこれに応答しなかったし、これに対し一審裁判所も大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告に釈明を求めて事案解明もしなかったこと。
第3に、第2で前述した通り、原審で、被告は本件分野選定委員会の開催を主張した以上、本来であれば、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告は粛々と開催を裏付ける証拠、委員等の証言(次の前訴の原告本人尋問の証言を除いて)を提出すべきであるのに、これらの証拠を一切提出しなかったこと。
第4に、原告が2009年11月に出席した記憶があった学術経営委員会関連の会議について、前訴では、当時よもや虚偽の内容とは知らずに審議結果報告書(甲14の3)の内容を信用して、そこに書かれている通り11月25日開催の分野選定委員会の会議に出席したと思い込み原告本人尋問でその旨を証言したが、本訴準備の中で、同日の会議の招集通知は見つからず、その代わり11月11日開催の教授選考委員会の招集通知(甲12)を発見したことから、原告が出席した会議は11月11日の教授選考委員会の会議だったことが判明したこと。
第5に、本件分野選定委員会の主催者らを証人尋問し証言を聞けば開催の有無について、より直接的な証拠が得られ、事実の存否がより明確になるにも関わらず、一審裁判所は原告の前記証人申請を却下したこと。
ウ、小括
以上の事実問題の検討結果から、本件分野選定委員会の審議・承認について、真実、分野選定委員会の会議が開催されないにもかかわらず開催され、分野変更が審議され、全員一致で承認されたという虚偽の報告書(甲14の3)を作成して、この虚偽の報告書に基づき学術経営委員会で分野変更が承認されたことは、被告制定の本規則に対する重大な違反行為である。
(3)、原判決及びその問題点
(2)イ(26頁)で前述した通り、「会議を開催するためには構成メンバーに対し、いつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠である。」という経験則に従えば、招集通知が発せられなくても、会議の開催があったと認められるような特段の事情が認められない事実関係の下では、会議は開催されなかったと推認すべきである。
ア、原判決の事実認定
ところが、本件分野選定委員会の開催の有無という事実問題について、原判決は次の通り判示した。
《前記③の点については、証拠(乙12)によれば、本件前訴(本人尋問)において、原告自身、平成21年11月25日に行われた分野選定会議に出席していたことを正確に自認し、これが同日の学術経営委員会の前に開催されたと記憶していることやそこでの審議の内容等(選考の分野が変更されたことについての原告の認識やその時点における考えに係る内容を含む。)について具体的に供述していることからしても、これを同月11日の選考委員会と勘違いしたとする本訴における供述等(甲63、原告本人尋問の結果等)は到底信用することができない。》(25頁(エ))
イ、原判決の問題点
しかし、原判決は本件分野選定委員会の招集通知が発せられたと認定していない以上、招集通知が発せられなくても、会議の開催があったと認められるような「特段の事情」を認定しない限り、会議が開催されたと認定することはできない。一審裁判所は、原審で、招集通知の有無について釈明により証拠の収集をせず、また招集通知の発信者及び関係者の証言も取らず、その結果、上記判示において「特段の事情」に関する事実を全く認定できないまま、にもかかわらず会議が開催されたと事実認定したものであり、これが経験則に違反することは明らかである。
他方、原判決は、単に、前訴で、原告が11月25日の分野選定委員会の会議に出席したという原告証言(乙12)だけから会議が開催されたと事実認定した。
しかし、原告が前訴において11月25日の会議に出席したと証言した最大の根拠は、公文書である同日の審議結果の報告書の内容を真実だと信用したからである(甲63原告陳述書(5)第1、12〔8~9頁〕。本人調書16頁9~末行)。もし本年3月の財務省の公文書書き換え問題が前訴当時に発覚していれば、原告も前記審議結果報告書の内容を疑ってかかったかもしれなかったが、前訴当時、原告がこの公文書を信用してその記載内容に沿った証言をしたことはむしろ当然である。他方、原告がのちに、11月25日の会議に出席したと思っていたのが「原告の勘違い」だと気がついたのは、本訴準備の過程で、当時のメールを総点検する中で、この当時、原告に届いた招集メールが11月11日の会議のものであって、11月25日の会議のものではないことを発見したからである(甲12。その経緯については本人調書17頁1~7行目)。
それに対し、この《「原告の勘違い」という証言(甲63・本人尋問)は到底信用できない。》と断ずる原判決は前訴当時、既に「公文書をみたら書き換え・捏造だと思え」という経験則が存在したと仮定するものである。のみならず、今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、2(2~4頁)が詳細に反論する通り、原判決の前訴の本人尋問に関する事実認定も実に杜撰極まりないものである。
ウ、小括
以上から明らかな通り、「分野選定委員会の分野変更の審議・承認の偽装問題」すなわち本件分野選定委員会の開催の有無という事実問題について、招集通知の有無に基づく推認という原告主張・立証を吟味検討せずに、原判示の理由のみで事実認定をした原判決は、経験則違反、理由不備の違法をおかしたものにほかならない。
第2、学問の自由の侵害
1、法令の適用の誤り
本来、法の専門家である裁判所は、法的判断をする以上は法的三段論法の大前提となる法律について自ら法律の内容を確定する、すなわち法律の解釈をする必要がある。さもなければ法的三段論法を適用して結論たる法的判断を引き出せないからである。ところが、一審裁判所は、学問の自由の侵害について、その法的判断を下しておきながら、以下に述べる通り、学問の自由の侵害の要件について、原告は準備書面(8)及び同(9)第2で詳細かつ網羅的に主張したのに対し、一審裁判所はこれら原告主張をひとつだに吟味検討せず、なおかつ自らの解釈を明らかにすることもせず、それにもかかわらず、法的判断の結論を引き出した。これは、法律解釈をしないまま本件に法律を適用して法的判断を引き出したという意味で「法令の適用の誤り」であり、違法と言わざるを得ない。
《原告は、原告の主張する上記手続的違法により、原告の学問の自由が侵害された旨をるる主張するのであるが、上記①ないし③によりいかなる意味においてこれが侵害されることになるのかは、本件全証拠に照らしても結局判然とせず、これを認めるに足りないと言うべきである。》(25頁末行~26頁3行目)
2、事実認定の誤り
のみならず、一審裁判所は、学問の自由の侵害という法的判断の前提・背景となる事実問題で、以下の①~④の通り、事実認定をした。
《①本件人事後も依然として国際政策協調学分野の准教授ポストには湊准教授がおり、本件人事によって「分野」が「廃止」されたことになるわけではないことは明らかであるし、②客観的には、本件人事以前においても、平成17年以降国際政策協調学分野の教授ポストは適任者を得ることができず長く空席となっていたのであり、本件人事前に原告が実際に行っていた学問的研究に具体的な支障を生じることになるわけでもない。
また、③前記認定事実を総合すれば、原告は、教授懇談会の構成員の一人として、本件選考に係る教授懇談会における議論に実質的に参画していたと認められるばかりでなく、④本件分野変更の発議に先立って開かれた平成21年11月11日の選考委員会に出席し、そこで専攻長である國島教授から社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の説明を受けながら何らの発言もしなかったこと、⑤さらには、同年11月25日の分野選定会議にも出席し、その審議に加わっていたものと認めるべきことも前記認定のとおりである。》(26頁5~18行目。文中の①~⑤は原告代理人による)
しかし、以下の理由からこの事実認定は誤っている。
①ア、湊准教授の本件人事後の専攻について、《湊准教授の研究教育分野は遅くとも2005年9月以後「協調政策科学」であり、それは単なる彼個人の認識ではなく、当時の国際環境基盤学大講座全体の了解事項であった。その事実は、前回提出済みの書証である甲41号証、すなわち湊氏の分野が「協調政策科学」と記載された平成18(2006)年度入試案内書が2005年11月10日開催の上記大講座会議で審議・了解された上で作成されたことが同会議議事録(甲57)3(2)の記載からも明らかである。》(原告準備書面(4)3(2))、
イ、本件人事によって国際政策協調学分野の「教授ポスト」は「廃止」されたことについて、《今般、被告は、第2準備書面第2で原告準備書面(2)第2に対する反論を行った。しかし、以下の原告主張、
《被告の主張は、国際政策協調学の教授人事の分野変更によっても、国際政策協調学の准教授ポストは廃止にならないというにとどまり、国際政策協調学の教授ポストが廃止になることは否定していない。なぜなら‥‥》
に対しては黙したままでこれを争わない。すなわち本訴にとって核心的な事実である「本件人事1のあと、教授ポストの国際政策協調学分野は廃止された」ことについて、被告は明らかに争わないものであると解される》(原告準備書面(4)3(1))。
今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、6(1)
(7頁)でも、上記論点に関する原告主張とこれを勘違いした原判決について以下の通り、指摘する。
《本件人事、すなわち新たに社会的意思決定分野の「教授」が選考された結果、国際協力学専攻の「教授ポスト」の枠(数)を使い切ってしまい、その結果、国際政策協調学分野の「教授ポスト」は「廃止」されたのです。私はもっぱらこのことを問題にしております。ところが、判決は、国際政策協調学分野の「教授ポスト」の「廃止」の問題と国際政策協調学分野の「廃止」の問題を混同して、国際政策協調学分野は「廃止」されていないのだから、いつでもその教授人事を再開できる、そうすれば原告の学融合も実現される、そこから、原告の学問の自由の侵害はなかったことを引き出そうとしています。しかし、上述の通り、本件で問題にしている国際政策協調学分野の「教授ポスト」の「廃止」の問題は国際政策協調学分野が「廃止」されたかどうかとは別の問題なのです。》(7頁下から6行目~8頁4行目)
②.原判決は、本件人事前にも国際政策協調学分野の教授ポストは長く空席となっていたにもかかわらず、《原告が実際に行っていた学問的研究に具体的な支障を生じることになるわけでもない。》と断じるが、これが一方的な独断であり、原告の学融合に具体的な支障が生じていたことは今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、6(2)(8頁)で明らかにした通りである。
③ 原判決は《原告は、教授懇談会の構成員の一人として、本件選考に係る教授懇談会における議論に実質的に参画していた》と認定したが、問題は原告が参画した具体的な内容である。この点、今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、6(3) (9頁)でも詳述した通り、原告は9月29日の教授懇談会で3分野構想の実現のため、法学政治学系の教授候補者探しのため駒場にお願いに行くと、「国際政策協調学」分野の教授選考作業を推進した(山路メモ〔乙10〕)。10月3日、國島専攻長から、9月29日の教授懇談会の打合せ通りに、城山英明法学部教授と連絡を取り合っているという報告があった(甲62國島専攻長のメール)。10月26日に、9月29日の教授懇談会の上記内容を実行するために、原告は駒場の山影科長らに面談して、「国際政策協調学」分野の候補者の推薦を依頼をした。
以上が、原判決が認定した原告が参画した教授懇談会の具体的な内容すなわちすなわち「国際政策協調学」分野の教授選考作業を推進するという取組みである。
④ 原判決は、《本件分野変更の発議に先立って開かれた平成21年11月11日の選考委員会に出席し、そこで専攻長である國島教授から社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の説明を受けながら何らの発言もしなかった》(26頁13~16行目)と認定した。しかし、このとき原告が《社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の國島専攻長の説明》に対し《何らの発言もしなかった》理由は原審の本人尋問でも(本人調書13頁下から2行目~14頁2行目)、今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、6(4)でも(10頁)で述べた通り、原告が直近の10月8日の基幹選考会議に台風のため出席できなかったため、その《基幹専攻会議で新たな教授人事の提案があったのかなということをそのとき考えていまして、そういうことをいろいろ考えて、それを確認した後でなければ会議の内容に関して議論ができないなと思っていた》(本人調書13頁下から2行目~14頁1行目)からであり、そのことを考えていたら《あっという間に会議は終了してしまった》(同14頁2行目)からである。
また、原判決は、このとき《社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の國島専攻長の説明》があったという原告証言を《到底信用し難い》(25頁10行目)と否定したが、これは端的に《裁判所の誤解に基づく事実誤認》である(甲75原告陳述書(6)第1、1(2頁11行目)。
⑤ 原判決は、《同年11月25日の分野選定会議にも出席し、その審議に加わっていたものと認めるべきこと》(26頁16~19行目)と認定している。しかし、第1、3(23頁以下)で前述した通り、また、甲63原告陳述書(5)(8~9頁)、原告本人尋問(調書15~17頁)に詳述した通り、招集通知も来ない原告にどうやって会議に出席することが可能なのか、無理難題を押し付ける原判決の事実認定が経験則に違反し、誤っていることは明白である。
《原告は、本件選考における分野変更が、専攻長の立場にあった國島教授の独断により行われたものであり、これが「研究者が所属する大学の設置者や外的管理者の干渉」に当たり、これにより原告の学問の自由が侵害された旨主張する》(26頁下から8~5行目)
しかし、原審において原告は、①《本件選考における分野変更が、専攻長の立場にあった國島教授の独断により行われた》とも、②《これが「研究者が所属する大学の設置者や外的管理者の干渉」に当たり》とも主張していない。この点に関する原告の主張は、次の通りである。
(1)、上記①について
《「國島専攻長及び味埜系長が、(国)分野で教授選考を発議して既に進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」し、あらためて学術経営委員会に分野変更を発議するためは、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更の審議・決定を経る義務があるにも関わらず、この義務に違反して上記審議・決議を経ずに発議した。》(原告準備書面(6)5頁②のWhoとWhat)、
(2)、上記②について
上記《「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」を経た上で発議する手続の不存在》という不作為と学問の自由の侵害の関係について、《もし、2009年11月11日から25日にかけて、国際政策協調学分野で教授選考を発議して既に進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」し、あらためて学術経営委員会に分野変更を発議するために、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、国際協力学の基幹専攻会議で当該決定が得られる可能性はほぼ皆無だった。・・・すなわち、国際協力学の基幹専攻会議で、国際政策協調学から分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、国際政策協調学から社会的意思決定への分野変更もあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって認められる。》(原告準備書面(6)②9~10頁)
すなわち、原告は、上記不作為と結果(学問の自由の侵害)との因果関係が認められ、学問の自由の侵害という不作為不法行為が成立すると主張し、その結果、学問の自由に対して保護義務を負う被告は上記学問の自由の侵害に対して義務違反の責任を免れないと主張したものである(訴状3、7~9頁)。以上から明らかな通り、学問の自由の侵害の一般論はともかく、本件の学問の自由の侵害において、原告が「研究者が所属する大学の設置者や外的管理者の干渉」を主張したことはない。
(2)、上記②について
上記《「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」を経た上で発議する手続の不存在》という不作為と学問の自由の侵害の関係について、《もし、2009年11月11日から25日にかけて、国際政策協調学分野で教授選考を発議して既に進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」し、あらためて学術経営委員会に分野変更を発議するために、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、国際協力学の基幹専攻会議で当該決定が得られる可能性はほぼ皆無だった。・・・すなわち、国際協力学の基幹専攻会議で、国際政策協調学から分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、国際政策協調学から社会的意思決定への分野変更もあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって認められる。》(原告準備書面(6)②9~10頁)
すなわち、原告は、上記不作為と結果(学問の自由の侵害)との因果関係が認められ、学問の自由の侵害という不作為不法行為が成立すると主張し、その結果、学問の自由に対して保護義務を負う被告は上記学問の自由の侵害に対して義務違反の責任を免れないと主張したものである(訴状3、7~9頁)。以上から明らかな通り、学問の自由の侵害の一般論はともかく、本件の学問の自由の侵害において、原告が「研究者が所属する大学の設置者や外的管理者の干渉」を主張したことはない。
第3、民事訴訟法違反
1、4点の弁論主義違反
(1)、弁論主義
言うまでもなく、当事者の主張しない事実はたとえそれが証拠から認定できる場合でも判決の基礎に置くことができない(証拠資料による訴訟資料の代替禁止)。また、当事者が主張した事実と異なる事実を採用して、これを判決の基礎に置くことも許されない。これらの行為はいずれも弁論主義違反である。
(2)、本件の4点の弁論主義違反
ア、1番目の違反行為である「教授選考手続の停止問題」について
原判決は、原告が主張しない事実を基礎にして判決を下したという弁論主義違反をおかしている。すなわち原判決は、《原告は、上記について、①学術経営委員会において一旦選考する分野及びポストを国際政策協調学分野の教授ポストと定めながら、合理的理由なくこれを中止し、‥‥旨主張する》(23頁8行目以下)
原判決は、原告が主張しない事実を基礎にして判決を下したという弁論主義違反をおかしている。すなわち原判決は、《原告は、上記について、①学術経営委員会において一旦選考する分野及びポストを国際政策協調学分野の教授ポストと定めながら、合理的理由なくこれを中止し、‥‥旨主張する》(23頁8行目以下)
と原告主張を認定した。しかし、前記第1、1、(2)(4~5頁)で詳述した通り、原告の主張は「国際政策協調学分野の教授ポストと定めながら、合理的理由なくこれを中止し」たではない。再度、要点だけ再掲すると、なぜなら原告主張は以下の通りだからである。
《2005年7月に、分野とポストが(国)分野の教授ポストと決定された(乙9の2参照)あと、2006年3月に最終候補者1名を全員一致で決定できず不成立となった(甲63別紙の経過年表参照)。その後、2009年5月から教授選考委員会が設置され、再度、教授選考手続を進めてきた。しかし、進行中の教授選考手続が同年11月に停止された。これは被告制定の内部規則に違反する。》(原告準備書面(6)第2、1〔3~4頁〕)。つまり、
《2005年7月に、分野とポストが(国)分野の教授ポストと決定された(乙9の2参照)あと、2006年3月に最終候補者1名を全員一致で決定できず不成立となった(甲63別紙の経過年表参照)。その後、2009年5月から教授選考委員会が設置され、再度、教授選考手続を進めてきた。しかし、進行中の教授選考手続が同年11月に停止された。これは被告制定の内部規則に違反する。》(原告準備書面(6)第2、1〔3~4頁〕)。つまり、
第1に、停止した対象は「国際政策協調学分野の教授ポストの決定」ではなく、「国際政策協調学分野の教授ポストで2009年5月以来進められてきた教授候補者の募集活動等の教授選考手続」であること。
第2に、停止した主体は「学術経営委員会」ではなく、「教授選考委員会の委員である國島正彦国際協力学専攻長、味埜俊環境学系長及び大和裕幸新領域創成科学研究科長」の3名であること。
以上から、原判決の上記認定は、原告が主張しない事実を基礎にして判決を下したもので、弁論主義に違反する。
イ、
2番目の違反行為である「分野変更の発議に至る手続問題」について(1)
もし被告が「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定は不要であり、教授懇談会の審議・決定で足りる」と主張するのであれば、そのような特例を許容するに足りるだけの「合理的理由」を備わっていることが必要である。しかし、被告は、単に「教授懇談会で分野変更の審議・決定」があった旨を主張するだけで(被告第4準備書面2頁2)、「教授懇談会で分野変更の審議・決定」がなぜ「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」に代わり得るものであるか、この特例の「合理的理由」について被告は何の主張も証明もない(原告準備書面(5)6頁11~12行目)。
にもかかわらず、この点で主張も立証もしない被告に成り代わって、一審裁判所がこの点の主張を補って以下の通り判決の基礎に置いたのは、弁論主義に違反すると言わざるを得ない。
《「国際協力学専攻の2つの教授ポストをめぐって同専攻に在籍する3名の准教授が争う構図が強く予測されるものであって、その決定に准教授及び専任講師を関与させることが適切とは言えない事情があることから、教授のみで決定することについては合理的な理由が認められるというべきであり》(24頁12~15行目)
ウ、2番目の違反行為である「分野変更の発議に至る手続問題」について(2)
第1、2、(9)⑥(23頁)で前述した通り、被告は、前訴はともかく、本訴において、「瑕疵の治癒」という論点については法律上及び事実上の主張をしなかった。ところが、上記主張をしなかった被告に成り代わって、一審裁判所が上記主張を取り上げ以下の通り判決の基礎に置いたのは、たとえそれが証拠(甲37)から認定できる場合であっても弁論主義に違反すると言わざるを得ない。
《本件では少なくとも平成22年3月11日に開催された基幹専攻会議において、この点も含め、国際協力学専攻に所属する教授及び准教授8人全員の参加の下で、従前進めてきた選考手順に従って本件選考を進めることが承認されている以上、この点に係る手続上の暇疵は治癒されたものと解することができる。》(24頁下4行目~25頁1行目)
エ、学問の自由の侵害を基礎づける事実について
前記第2、3(31~33頁)で詳述した通り、学問の自由の侵害を基礎づける事実関係において、原判決は実際の原告主張と異なる主張を採用して、これを基礎にして判決を下したもので、これも弁論主義に違反することが明らかである。
2、釈明義務違反
(1)、事案解明に対する当事者の責任(一般論)
近時、訴訟における重要な情報(訴訟資料・証拠)が当事者の一方に偏在し、そのため、権利主張者が自己の権利を根拠づける事実を具体的に主張、立証することが困難な事件が増大し、こうした事情を反映して、今日では、主張=立証責任を負わない当事者も期待可能な範囲において事案解明に協力すべき義務を負うべきである見解や、信義則に基づき一定の要件のもとに主張=立証責任を負わない当事者に期待可能な範囲で、相手方の概括的な主張に対し具体的な事実を陳述して争い、かつこの点につき証拠を提出することを要求する判例・見解が注目を集めている(最高裁平成4年10月29日伊方原発訴訟判決民集46巻7号1174頁。竹下守夫「伊方原発訴訟最高裁判決と事案解明義務」(木川古希(中)1頁以下)、春日偉知郎「事案解明義務」(「民事証拠法論集」所収233頁以下。松本博之「証明責任を負わない当事者の具体的事実陳述=証拠提出義務」法曹時報49巻7号1611頁以下ほか)。
上記の学説・実務から引き出される結論とは次のことである――形式的平等ではなく、実質的平等の保障を意味する憲法14条の法の下の平等を訴訟手続において具体化したとされる「武器対等の原則」のもとでは、
①.事案解明に必要な証拠の大半を一方当事者が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.当該当事者は自ら実施する活動の「安全性」などの問題について関係者に「説明責任」を負っていること。
①.事案解明に必要な証拠の大半を一方当事者が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.当該当事者は自ら実施する活動の「安全性」などの問題について関係者に「説明責任」を負っていること。
③.当該問題の発生により「原告の生命・身体」などの人権に対し大きな影響を与えること
といった事情が認められる紛争においては、事案解明に関する上記の一般原則は修正され、事案解明に必要な証拠を握っている当事者側が「安全性」などの問題がないことを主張、証明を尽し、事案解明の責任を負うべきである。
(2)、本件の事案解明に対する当事者の責任
本件教授人事の手続において被告の内部規則違反があると主張する本訴において、次の事情が認められる。
①.本訴は本件教授人事の手続の事案解明に必要な証拠のほぼ全て(原告に公開済みの議事録等だけでは解明されない事実に関する証拠)を被告側が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.コンプライアンスを当然のこととする被告において、自ら実施する教員人事手続の「適法性」について疑義が発生した場合には、関係者に疑義払拭のための「説明責任」を負っていること。
①.本訴は本件教授人事の手続の事案解明に必要な証拠のほぼ全て(原告に公開済みの議事録等だけでは解明されない事実に関する証拠)を被告側が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.コンプライアンスを当然のこととする被告において、自ら実施する教員人事手続の「適法性」について疑義が発生した場合には、関係者に疑義払拭のための「説明責任」を負っていること。
③.本件教授人事手続について重大な瑕疵の発生により「本件学融合の推進が阻害され」、原告の学問の自由に対し大きな影響を与えること。
従って、本件において、被告は、原告が主張する本件教授人事手続の適法性つまり「3つの手続違反」について、疑義を払拭すること、すなわち不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要がある。
従って、「3つの手続違反」の3番目「分野選定委員会の開催・審議・承認」の偽装問題の論点について、本来、会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠である。24頁イで前述した通り、国際協力学の基幹専攻会議も教授懇談会も教員選考委員会の会議も会議の開催にあたっては必ずメンバー全員に宛て一斉メールの招集通知を出している。ところが、通常実行される招集通知が11月25日に開催されたとされる分野選定委員会の会議に対して、招集の一斉メールが原告を含めて全委員に届いていなかったと原告は主張し、もし被告がこれを争うのであれば、招集通知の有無及びその具体的内容を明らかにするよう、2度にわたり被告に求めた2017年4月7日付被告第3準備書面に対する求釈明書4(2~3頁)。原告準備書面(5)第4〔12頁〕)。
つまり、この時、この問題について事案解明をすることにより、前記会議の開催の有無について明確に推認することが可能となったのである。
(3)、本件の釈明義務違反
しかし、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告は原告の2度にわたる上記求釈明に対し、2度とも応答しなかった。のみならず、この時、一審裁判所は大学運営の法令順守に説明責任を負っている被告に釈明を求めて招集通知の具体的内容を明らかにさせる事案解明をすれば、容易に会議の開催をめぐる決定的な間接事実が明らかになるのであったにもかかわらず、この釈明権を行使しなかった。これは事案解明に敢えて蓋をしたと評されても仕方のない訴訟指揮であり、釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、釈明義務違反の責任を免れない。
第4、今後の進行:求釈明及び国島&味埜の証人尋問
1、原審の経過
以上の通り、コンプライアンスを当然の職責とする被告において、自ら実施する教員人事手続の「適法性」について疑義が発生した場合、関係者に疑義払拭のための「説明責任」を負っているにもかかわらず、原審において、本件教授人事の手続違反について、原告側で構成した事実関係の主張(原告準備書面(6))に対して、被告は単に否認するだけで、それ以上、被告が把握する具体的な態様を明らかにしなかった(被告第5準備書面)。このように被告が説明責任の職責を果さなかったにもかかわらず、一審裁判所は、重要な証拠を独占する被告に対し事案解明のための釈明権を行使しなかった。その結果、事案解明を果たさないまま審理終結し、一審裁判所は本年3月15日予定の判決言渡しを直前に2度も延期する事態を招いた(本年3月23日付弁論再開の上申書参照)。
この現状を踏まえれば、当審においては、「本件分野選定委員会開催の招集通知の有無及びその具体的な内容」をはじめとする事案解明を果たしてのちに初めて適正な判決が可能になることが明らかである。そこで、本件の事案解明のためには、少なくとも以下の求釈明及び「分野選定委員会の分野変更の審議・承認の偽装問題」の鍵を握る当事者として國島正彦専攻長及び味埜俊環境学研究系長の証人尋問を実施することが不可欠である。
2、求釈明
原審でも2度にわたり以下の求釈明を行なったが、被告は2度とも応答しなかった。よって、改めて、国際政策協調学から社会的意思決定への分野変更について、分野選定委員会の審議・承認について、被告に以下の釈明を求める。
①.被告主張は《2009年11月25日に分野選定委員会が開催され、国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更することについて審議し、承認した》であるが、そうだとすれば、当日開催した委員会について、事前に開催の招集通知を出した事実を認めるのかそれとも否認するのか。
②.①をもし認めるのであれば、当該招集通知がいつ、誰から誰に対してどのような方法で発せられたか。
③.①をもし認めるのであれば、その証拠の提出。
③.①をもし認めるのであれば、その証拠の提出。
3、國島正彦専攻長及び味埜俊環境学研究系長の証人尋問
本件の事案解明のためには、以下に詳述する通り、「分野選定委員会の分野変更の審議・承認の偽装問題」の鍵を握る当事者として國島正彦専攻長及び味埜俊環境学研究系長の証人尋問を実施することが不可欠である。
(1)、國島正彦専攻長
前記1(37頁)で前述した通り、本件教授人事の手続違反について、原告側で構成した事実関係の主張(原告準備書面(6))に対して、被告は単に否認するだけで、それ以上、被告が主張する具体的な態様を明らかにしなかった(被告第5準備書面)。その結果、果して、原告側で主張する事実が真実かどうかを明らかにするためには、さらに、これらの具体的事実について関係者に直接尋問して、真相を確認するしかない。例えば、3番目の手続違反である「分野選定委員会の開催・審議・承認」偽装問題であれば、真実は開催されなかった2009年11月25日の分野選定委員会の会議の審議結果報告書(甲18の3) を誰がどのように作成し、12月9日の学術経営委員会の承認の前に誰がこれを了承したのか、作成に関与したと思われる國島専攻長に直接尋ねるのが最も直截的である。それが國島専攻長を証人尋問する理由である(原告準備書面(7)第3、①〔5~6頁〕)。
(2)、味埜俊環境学研究系長
上記「分野選定委員会の開催・審議・承認」を偽装する審議結果報告書(甲18の3)の作成は発議専攻の専攻長ひとりの手で到底成し得ることではなく、学術経営委員会の関係者の協力が不可欠である。この点、当時、環境学研究系長であり、本件の国際政策協調学の分野選定委員会の委員でもあり、審議結果報告書(甲18の3)において出席者として名を連ね、また2009年11月11日開催の教授選考委員会の前日11月10日に以下のメール(甲60)を送信した味埜俊教授がこの問題に関与した可能性が極めて高いと思われるからである。
《2009年11月10日に、味埜環境学系系長は国際政策協調学分野の教授選考委員会(注意:分野設置委員会ではない。同委員会はこの時点ではまだ設置されていない)の委員全員宛に、翌日開催予定の委員会の時間調整のメール(甲60)を出し、その中で、國島専攻長宛に、以下の質問を書いた。
《2009年11月10日に、味埜環境学系系長は国際政策協調学分野の教授選考委員会(注意:分野設置委員会ではない。同委員会はこの時点ではまだ設置されていない)の委員全員宛に、翌日開催予定の委員会の時間調整のメール(甲60)を出し、その中で、國島専攻長宛に、以下の質問を書いた。
《國島先生=>どうしても明日11日に時間がとれない場合に、比較的時間に余裕がある開発協力講座のほうの分野選定委員会を別の日に変更することは可能でしょうか。》
しかし、この質問は、原告に言わせると次の意味で不可解である。
《本件の教授人事で教授を決める予定の時期は、制度設計講座(国際政策協調学)も開発協力講座(環境技術政策学)も、一応、翌年の2010年3月末までと考えられていました。従って、この11月時点で、制度設計講座は教授選考委員会が5月に設置され(甲7の3)、教授候補者を探す作業が粛々と進められていたのに対し、開発協力講座は分野選定委員会が5月に設置されたにもかかわらず(甲7の2)、その後11月時点において、分野もまだ決まっていないという状態で、制度設計講座に比べ著しく遅れていました。》からである(甲58原告陳述書(4)5頁6行目以下)
従って、本来であれば、ここで、
「國島先生=>どうしても明日11日に時間がとれない場合に、比較的時間に余裕がある制度設計講座のほうの教授選考委員会を別の日に変更することは可能でしょうか。」
と問うべきなのに、反対のことを言っている。なぜこのような不可解な質問を発したのか。その理由は、この時点で、《この後に起きた制度設計講座(国際政策協調学)の教授人事の一方的な「停止」により、人事が白紙に戻るという事態を味埜環境学系系長もあらかじめ知らされていたから》、つまりこのあと展開されるのは①、国際政策協調学分野の教授人事募集の中断により人事が白紙に戻り、そこから②.国際政策協調学分野から社会的意思決定分野への変更の発議とその承認手続、③.社会的意思決定分野で教授人事の募集という目まぐるしいスケジュールであり、《その場合には、白紙に戻った制度設計講座より開発協力講座のほうが「比較的時間に余裕がある」ことになるので、このような質問ができた》からであるというのが原告の推理である(甲58原告陳述書(4)5頁下から8行目以下)。
と問うべきなのに、反対のことを言っている。なぜこのような不可解な質問を発したのか。その理由は、この時点で、《この後に起きた制度設計講座(国際政策協調学)の教授人事の一方的な「停止」により、人事が白紙に戻るという事態を味埜環境学系系長もあらかじめ知らされていたから》、つまりこのあと展開されるのは①、国際政策協調学分野の教授人事募集の中断により人事が白紙に戻り、そこから②.国際政策協調学分野から社会的意思決定分野への変更の発議とその承認手続、③.社会的意思決定分野で教授人事の募集という目まぐるしいスケジュールであり、《その場合には、白紙に戻った制度設計講座より開発協力講座のほうが「比較的時間に余裕がある」ことになるので、このような質問ができた》からであるというのが原告の推理である(甲58原告陳述書(4)5頁下から8行目以下)。
以上の2点からだけでも、学術経営委員会を主要な舞台として、國島専攻長が主導した3つの重大な違反行為について、専攻長一人では到底なし得ない側面について学術経営委員会の関係者が関与協力したことは間違いなく、当時、関係者として最も可能性が高かったのはほかならぬ味埜環境学系系長である。この意味で、味埜環境学系系長の証人尋問は本件の事案解明にとり必要不可欠である(原告準備書面(5)第5、2〔12~14頁〕)。
第5、結語
以上の通り、原判決の誤りは明らかであり、取消しを免れない。
以 上
[3]2012年に原告も共同原告の一人として、被告東京大学らを訴えた本訴の関連訴訟のこと(御庁平成24年(ワ)第4734号損害賠償請求事件。甲37・同38)。
[5]国際協力学専攻を構成する3つの講座のうち原告が所属する制度設計講座が、国際政治経済システム学分野、国際政策協調学分野および国際環境組織論の3つの分野から構成される構想のこと(甲58原告陳述書(4)4頁参照)
************************
2018年5月29日
控 訴 人 柳 田 辰 雄
目 次
1、2009年11月11日の選考委員会の國島専攻長の発言
別紙 経過年表(2018年5月27日作成)
第1、一審判決の事実認定について
1、2009年11月11日の選考委員会の國島専攻長の発言
2009年(平成21年)11月11日に開かれた選考委員会の席上、國島専攻長から「社会的意思決定分野の教授ポストについて新たな選考を行いたい旨の説明があった」という事実は、提訴当時の私の陳述書(甲1)13頁でも昨秋の原告本人尋問(調書12~14頁)でも証言している通りです。しかし、これに対し、一審判決は以下のように、私の証言を「到底信用し難い」と否定しました。
《原告が国際協力学専攻における教授ポストの数に制約がある点は熟知していたことからすれば、これを国際政策協調学分野の教授ポストとは別に新たな選考を行う趣旨と理解した旨の弁解は到底信用し難い》(25頁7~10行目)
しかし、これは端的に、裁判所の誤解に基づく事実誤認です。各専攻にはそれぞれ割り振られた教授ポストの枠(数)がある点はその通りですが、しかし、それ以外にも、他の専攻から期限付きで教授ポストを流用することも、また、東大総長が持っている教授ポストを流用することで教授人事を行なうことも可能です。なので、この時も、別に「分野変更するしかない」とは考えず、ごく自然に、このような教授ポストの流用という方法で社会的意思決定分野の教授ポストについて新たな選考を行なうのだろうと考えたのです。
2、前訴の本人尋問で、2009年11月25日の分野選定委員会に出席した旨の証言について
私は、本訴の4年前に行なった前訴の本人尋問で、2009年11月25日の分野選定委員会に出席した旨の証言を行ないましたが、本訴の中で、私の陳述書(5)(8~9頁)や原告本人尋問(調書15~17頁)で、出席したのは11月11日の教授選考委員会であって、11月25日の分野選定委員会ではなかったと訂正しました。
私は、本訴の4年前に行なった前訴の本人尋問で、2009年11月25日の分野選定委員会に出席した旨の証言を行ないましたが、本訴の中で、私の陳述書(5)(8~9頁)や原告本人尋問(調書15~17頁)で、出席したのは11月11日の教授選考委員会であって、11月25日の分野選定委員会ではなかったと訂正しました。
しかし、これに対し、一審判決は以下のように、私の証言を「到底信用することができない」と否定しました。
《証拠(乙12)によれば、本件前訴(本人尋問)において、原告自身、平成21年11月25日に行われた分野選定会議に出席していたことを明確に自認し、これが同日の学術経営委員会の前に開催されたと記憶していることやそこでの審議の内容等(選考の分野が変更されたことについての原告の認識やその時点における考えに係る内容を含む。)について具体的に供述していることからしても、これを同月11日の選考委員会と勘違いしたとする本訴における供述等(甲63、原告本人尋問の結果等)は到底信用することができない。》(25頁下から9~2行目)
ここは、私にとって決定的に重要な問題なので、判決文を分節して、また前訴の私の尋問結果も丁寧に取り上げて、検討したいと思います。
(1)、一審判決はまず、《証拠(乙12)によれば、本件前訴(本人尋問)において、原告自身、平成21年11月25日に行われた分野選定会議に出席していたことを明確に自認し》(25頁下から9~7行目)としていますが、しかし、私は、前訴の本人尋問で、
《11月ぐらいから急激に人事が動き始めてるわけです》(乙12.6頁8~9行目)
と証言したら、これに対し前訴の私の代理人が、
《要するに本件の人事が、先生が最初に行かれた11月25日の分野選定委員会。》(同頁10~11行目)
と「先生が最初に行かれた11月25日の分野選定委員会」と誘導尋問のように私に質問を振って、それに対し、私が、
《分野選定委員会から急激に動き出して、それでこのお話(註:駒場から社会科学系の研究者を推薦してもらう件)は、立ち消えになったような形になってると思います》(同頁12~13行目)
と証言したら、それに続けて、代理人から、
《その11月25日の分野選定委員会のことなんですが、先生はその1週間前ぐらいに國島教授から、1週間後に分野選定委員会を開くから出てくれという携帯電話を受けられて、11月25日の委員会に出られたとこういうことですね》(同頁14~17行目)
と、これもまた殆ど誘導尋問のような質問を受け、それに対し、私は単に、
《はい》(同頁18行目)
と証言しただけです。最大の問題である「私が出席したのはその2週間前の11月11日の選考委員会か、それとも11月25日の分野選定委員会か、そのどちらであるか」について私からそれを明確にする証言をしたことはなく、結局、本人調書(乙12)のどこにも「平成21年11月25日に行われた分野選定会議に出席していたことを明確に自認した」と認められる証言はありません。
(2)、次に、一審判決は、《これ(注:分野選定委員会)が同日の学術経営委員会の前に開催されたと記憶していること》(25頁下から7~6行目)と認定していますが、これは、私の証言《多分学術経営委員会の前だったと記憶してるんですけど》(乙12。6頁下から7行目)を指していると思われます。しかし、他方、真実私が出席した会議である11月11日にも学術経営委員会が開かれており、私のこの証言と真実私が出席した11月11日の会議とは矛盾しません。つまり、私のこの証言を私が11月25日の会議に出席した根拠にすることはできないのです。
(3)、さらに、一審判決は、《そこでの審議の内容等(選考の分野が変更されたことについての原告の認識やその時点における考えに係る内容を含む。)について具体的に供述していること》(25頁下から6~4行目)と認定していますが、しかし、審議の内容に関して私が証言したことは、
《多分学術経営委員会の前だったと記憶してるんですけど、そのときに分野選定委員会の人が全てそこに招集されて、全て手続どおりに進めていかれるということがあったので、こちらとしては発言してないということです》(乙12。6頁下から7~4行目)
というもので、《全て手続どおりに進めていかれるということがあった》と抽象的で極めて漠然としたものです。それに対して具体的な説明をしているのはもっぱら私の代理人のほうで、私の上記証言に対して、代理人は、審議の内容について、
《そのときに、国際協力学分野とその制度設計講座がですね、国際協力学分野を社会的意思決定分野と分野名、分野を変えるというお話が決議されたかと思うんですが、それについてはどう思われますか》(同頁下から3~1行目)
とこれまた殆ど誘導尋問のような質問をし、それに対し、私は、審議の内容ではなく、審議の手続について、次のように証言しました。
《専攻会議、基幹専攻会議で議論してないので、突然分野選定委員会が学術経営委員会の前で開かれるというのは、ルール変更が行なわれたのかなと思いましたので、先ほど申し上げましたようにその2007年の1年間サバティカルリーフを取ってまして、全ての会議に参加しておりませんでしたので、そこでルールの変更がなかったかどうかを確認するまでは、発言は差し控えようと思っておりました》(7頁1~6行目)
この証言「基幹専攻会議の審議・決定を経ない手続に関する疑問」は、真実私が出席した会議である11月11日にも、基幹専攻会議の審議・決定を経ないで社会的意思決定分野の教授ポストについて新たな選考を行いたい旨の説明があったので、私のこの証言と真実私が出席した11月11日の会議とは矛盾しません。つまり、私のこの証言を私が11月25日の会議に出席したことの根拠にすることはできないのです。
(4)、まとめ
以上から明らかな通り、前訴の私の証言に、「11月25日の会議の審議の内容について具体的に供述している」ものはどこにもありません。
3、2010年3月11日の基幹専攻会議の承認で手続上の瑕疵が治癒されたか
2009年11月25日に基幹専攻会議の審議・決定を経ずに本件の分野変更を学術経営委員会に発議したことは重大な手続違反であるという争点(判決24頁イの②)について、私が驚いたのは、一審判決が以下のように、仮に手続違反だとしても、翌2010年(平成22年)3月11日の基幹専攻会議で本件の教授選考手続の是非について承認されている以上「この点に係る手続上の瑕疵は治癒された」としたことです。
《本件では少なくとも平成22年3月11日に開催された基幹専攻会議において、この点も含め、国際協力学専攻に所属する教授及び准教授8人全員の参加の下で、従前進めてきた選考手順に従って本件選考を進めることが承認されている以上、この点に係る手続上の暇疵は治癒されたものと解することができる。》(24頁下4行目~25頁1行目)
しかし、ここには重大な事実見落とし又は事実無視があります。なぜなら、3月11日開催の基幹専攻会議で、従前進めてきた選考手順に従って本件選考を進めることの是非を問うたとき、私ともう1名が反対したため、全員一致ではなく、多数決で承認されたという事実です。私の陳述書(甲1)16頁にも経過年表(甲2)にもちゃんと書いてあります。それにも関わらず、この事実を判決は無視しました。全員一致ならまだしも、2名の反対があった以上、このような多数決の採決をもって発議に関する手続違反が治癒されたと解することは到底不可能です。
4、分野変更の発議を教授懇談会の審議・決定でできるか
基幹専攻会議の審議・決定を経ずに本件分野変更を発議した手続違反の問題で、私がもう1つ驚いたのは、一審判決が、基幹専攻会議の審議・決定を経なくても教授懇談会の審議・決定で足りるのだという理屈を、以下の通り、前訴の一審判決の理屈を再び持ち出して肯定したことです。
《本件前訴においても指摘されているとおり、本件両人事が、国際協力学専攻の2つの教授ポストをめぐって同専攻に在籍する3名の准教授が争う構図が強く予測されるものであって、その決定に准教授及びその影響を受けやすいと考えられる専任講師を関与させることが'適切とは言えない事情があることから、教授のみで決定することについては合理的な理由が認められるというべきであり、》(24頁11~16行目)
しかし、これは端的に的外れです。なぜなら、前訴とは前訴の訴状(甲59)3頁にも書いてある通り、2009年12月から翌年12月までの間で、公募に募集した者の中から1名の教授候補者を誰にするかを選任する段階の問題です。この段階では、専攻に在籍する複数の准教授が募集して現実に争う構図となる可能性はあります。しかし、本訴はこれとちがいます。1名の教授候補者を選任する段階以前の、どの分野から教授を採用するかという分野選定の段階の問題です。この段階では、抽象的な可能性は別にして、専攻に在籍する複数の准教授が現実に争う構図となる可能性はありません。ではどう考えたらよいでしょうか。私の陳述書(4)(甲58)の冒頭にも書きましたが、東京大学の新領域創成科学研究科が設立された目的から考えれば、専攻がめざす新しい学問領域の創出にとって或いは学融合の推進にとって、どの分野の研究者を採用するのが最適かという観点から、基幹専攻会議のメンバー(教授・准教授・助教)全員が検討して分野を決めるのが理想です。この意味で、分野の決定の場面においては、教授だけに限定する合理的な理由はありません。同様に、一度決めた分野をその後の事情により変更する必要が生じた場合にも、その分野変更の手続も上記の分野決定手続と同様です。つまり、基幹専攻会議のメンバー(教授・准教授・助教)全員が検討して新しい分野を決めるべきであり、ここでも教授だけに限定する合理的な理由はありません。
5、本件の分野変更について教授懇談会で審議・決定されたか
以上のように、分野の決定や変更の手続においては決定権者を教授だけに限定する合理的な理由はなく、教授懇談会で審議・決定することは許されません。しかも、本件では、分野を国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更することについて、教授懇談会の審議・決定すらもなかったのです。しかし、この点について、一審判決は次のように判断して、あたかも教授懇談会の審議・決定はあったかのように評価しています。
《原告は、本訴においても、本件選考における分野変更について教授懇談会においても何ら議論されていない旨主張する。しかしながら、本訴において、原告は、本件選考における分野変更の発議に先立つ平成21年11月11日の選考委員会において、専攻長の國島教授から、社会的意思決定分野の教授ポストについて選考を行いたい旨の説明があったことは自認しており(甲1、63、原告本人)、原告が国際協力学専攻における教授ポストの数に制約がある点は熟知していたことからすれば、これを国際政策協調学分野の教授ポストとは別に新たな選考を行う趣旨と理解した旨の弁解は到底信用し難いことからすれぱ、専攻長の國島教授は、本件の分野変更に消極的な意向である可能性が強い原告を含め、関係する教授(教授懇談会のメンバー)にはあらかじめ分野変更についての説明を行い、了承を得ていたものと推認するのが合理的である。》(25頁2~13行目)
《原告は、本訴においても、本件選考における分野変更について教授懇談会においても何ら議論されていない旨主張する。しかしながら、本訴において、原告は、本件選考における分野変更の発議に先立つ平成21年11月11日の選考委員会において、専攻長の國島教授から、社会的意思決定分野の教授ポストについて選考を行いたい旨の説明があったことは自認しており(甲1、63、原告本人)、原告が国際協力学専攻における教授ポストの数に制約がある点は熟知していたことからすれば、これを国際政策協調学分野の教授ポストとは別に新たな選考を行う趣旨と理解した旨の弁解は到底信用し難いことからすれぱ、専攻長の國島教授は、本件の分野変更に消極的な意向である可能性が強い原告を含め、関係する教授(教授懇談会のメンバー)にはあらかじめ分野変更についての説明を行い、了承を得ていたものと推認するのが合理的である。》(25頁2~13行目)
しかし、前記1(2頁)で述べた通り、11月11日の選考委員会における國島専攻長の話の内容の認定について、裁判所は誤解に基づく事実誤認に陥っており、この事実誤認を前提にした推論でしかありません。むしろ、私の陳述書(5)9(6頁。甲63)や後記6、(3)(9頁)を一読すれば、《國島専攻長が当時、国際政策協調学の教授人事の先頭に立っている私に向かって、国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更することのヒアリングをするなど想像すらでき》なかったことが合点していただけるはずです。
6、学問の自由が侵害されないことを裏付ける事実について
一審で、原告は学問の自由に関する最良の見解(高柳説)に基づいて学問の自由の侵害論を主張したのですが、一審判決はこれには全く目も向けず何の検討もしないまま、それなのに、以下の事実を認定して、そこから学問の自由の侵害は認められないという判断を引き出しました。しかし、この事実認定は極めて問題の多いもので、以下に反論せずにはおれません。
《本件人事後も依然として国際政策協調学分野の准教授ポストには湊准教授がおり、本件人事によって「分野」が「廃止」されたことになるわけではないことは明らかであるし、客観的には、本件人事以前においても、平成17年以降国際政策協調学分野の教授ポストは適任者を得ることができず長く空席となっていたのであり、本件人事前に原告が実際に行っていた学問的研究に具体的な支障を生じることになるわけでもないこと、
また、前記認定事実を総合すれば、原告は、教授懇談会の構成員の一人として、本件選考に係る教授懇談会における議論に実質的に参画していたと認められるばかりでなく、本件分野変更の発議に先立って開かれた平成21年11月11日の選考委員会に出席し、そこで専攻長である國島義援から社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の説明を受けながら何らの発言もしなかったこと、さらには、同年11月25日の分野選定会議にも出席し、その審議に加わっていたものと認めるべきことも前記認定のとおりである。》(26頁5~18行目)
(1)、一審判決はまず、《本件人事後も依然として国際政策協調学分野の准教授ポストには湊准教授がおり、本件人事によって「分野」が「廃止」されたことになるわけではないことは明らかである》(26頁5~7行目)としていますが、しかし、湊准教授の本件人事後の専攻は「協調政策科学」です。それは2005年9月以後そうであり、当時の国際環境基盤学大講座全体の了解事項でした(甲41号証・同57号証の3(2))。
のみならず、本件人事、すなわち新たに社会的意思決定分野の「教授」が選考された結果、国際協力学専攻の「教授ポスト」の枠(数)を使い切ってしまい、その結果、国際政策協調学分野の「教授ポスト」は「廃止」されたのです。私はもっぱらこのことを問題にしております。ところが、判決は、国際政策協調学分野の「教授ポスト」の「廃止」の問題と国際政策協調学分野の「廃止」の問題を混同して、国際政策協調学分野は「廃止」されていないのだから、いつでもその教授人事を再開できる、そうすれば原告の学融合も実現される、そこから、原告の学問の自由の侵害はなかったことを引き出そうとしています。しかし、上述の通り、本件で問題にしている国際政策協調学分野の「教授ポスト」の「廃止」の問題は国際政策協調学分野が「廃止」されたかどうかとは別の問題なのです。
(2)、次に、一審判決は、《客観的には、本件人事以前においても、平成17年以降国際政策協調学分野の教授ポストは適任者を得ることができず長く空席となっていたのであり、本件人事前に原告が実際に行っていた学問的研究に具体的な支障を生じることになるわけでもない。》(26頁7~10行目)と断定しますが、とんでもありません。以下のように、本件人事前においても、国際政策協調学分野の教授が選考されなかったことにより私の学融合の研究は事実上、支障を来たしました。
2001年(平成13年)8月から2002年8月まで私はジャカルタに滞在し、インドネシア共和国財務省財政分析庁の財政アドバイザーとして勤務しました(甲1。第1、略歴参照)。この時の経験を通じ、インドネシアの社会を一つの全体として理解するために、3つの分野すなわち国際政治経済システム学、国際政策協調学分野および国際環境組織論の研究者が共同で、しかも継続して研究を行うことに決めました(帰国して執筆した「学融合の対象としてのインドネシア-持続可能な社会開発戦略への提言を目指して-」〔甲77〕参照)。つまり学融合の具体的な研究として、インドネシアを中心とするASEAN共同体の研究プロジェクトを、国際協力学専攻の国際政治学者や国際法学者と共に立ち上げるつもりでした。その人材確保が2005年の国際政策協調学分野の教授人事でした。しかし、2006年3月に大講座会議で反対者が出たため、この教授人事は不成立になり、その結果、この研究プロジェクトを学融合として推進することに大きな支障を来たしました。
その後、この研究プロジェクトはASEAN共同体と日本、中国および中国の動態的な関係を分析し、日本の将来の役割について研究するプロジェクトとして構想され、この研究のために上記の3つの分野すなわち国際政治経済システム学、国際政策協調学分野および国際環境組織論の研究者が共同かつ継続して研究を行う必要があったので、その人材確保のため再び、国際政策協調学分野の教授人事を提案し(甲6の私の提案メール参照)、2009年からこの教授人事が再スタートしました。しかし、これが違法な人事手続によって潰され、その結果、今度もまた私の学融合の研究に大きな支障を来たしたことは既に私の陳述書(甲1。7頁以下。甲48。1~2頁。甲63。13~14頁)に陳述した通りです。
その後、この研究プロジェクトはASEAN共同体と日本、中国および中国の動態的な関係を分析し、日本の将来の役割について研究するプロジェクトとして構想され、この研究のために上記の3つの分野すなわち国際政治経済システム学、国際政策協調学分野および国際環境組織論の研究者が共同かつ継続して研究を行う必要があったので、その人材確保のため再び、国際政策協調学分野の教授人事を提案し(甲6の私の提案メール参照)、2009年からこの教授人事が再スタートしました。しかし、これが違法な人事手続によって潰され、その結果、今度もまた私の学融合の研究に大きな支障を来たしたことは既に私の陳述書(甲1。7頁以下。甲48。1~2頁。甲63。13~14頁)に陳述した通りです。
(3)、さらに、一審判決は、《前記認定事実を総合すれば、原告は、教授懇談会の構成員の一人として、本件選考に係る教授懇談会における議論に実質的に参画していたと認められる》(26頁11~13行目)と認定しています。確かに私は、教授懇談会の構成員の一人として、本件選考に係る教授懇談会における議論に参加していました。しかし、私が参加していた懇談会の議題は「国際政策協調学」分野の教授選考の推進です。「国際政策協調学」分野から「社会的意思決定」分野への変更を議論するための教授懇談会は開催されていないし、少なくとも私は参加した教授懇談会でこの話題を論じたことは一度もありませんでした。だから、私の知らない間に「国際政策協調学」分野から「社会的意思決定」分野へ変更されて、「国際政策協調学」の教授人事がつぶされたことは、私の学融合の推進にとって大きな痛手あり、本当に悔しく、腹立たしいことです。
以下、「国際政策協調学」分野の教授選考について教授懇談会での私の関わりにを具体的に説明します。
この陳述書(6)(甲75号証)別紙の経過年表に記してあるように、2009年9月29日の教授懇談会において私は3分野構想の実現のため、法学政治学系の教授候補者を探すために駒場の総合文化研究科に推薦の依頼に行くことを発言し、参加した教授らの了承を得て、国際政策協調学分野の教授選考作業を推進する打合せをしました。その日の記録が山路教授のメモ(乙10添付資料「『国際協力学専攻・教授懇談会における「制度設計講座ポスト」についての話し合い』)にしっかり残っています。そして、10月に、國島専攻長が、9月29日の教授懇談会の打合せ通りに、駒場との面談の日程調整をおこなったことも10月6日の彼からのメール(甲65号証)で明らかです。
さらに、10月26日に、9月29日の教授懇談会の上記内容を実行するために、私は駒場の総合文化研究科の山影研究科科長に面談して、候補者の推薦の依頼をしました。 ところが、私は当時多忙で気がつかなかったのですが、この駒場訪問の翌日の27日、いきなり國島専攻長から国際政策協調学分野の教授選考委員会の開催メール(甲12)が届き、11月から「国際政策協調学」の教授選考手続が停止となり、基幹選考会議の討議・決定もないまま(そのため、当時、私はこの発議があったことも知りません)、11月25日に「国際政策協調学」から「社会的意思決定」に分野変更する発議が学術経営員会に出され、私の知らない間に分野選定委員会で審議・承認されたことになって、研究科の学術経営員会で分野変更が決定されるに至ったというのが事実です。
他方、この9月29日から11月25日の間には教授懇談会は開かれておらず(当時、開催の招集メールも来ていませんし、乙10山路メモにも開催の記録はありません)、したがって、この間に教授懇談会で「国際政策協調学」分野から「社会的意思決定」分野への変更を話題にすることあり得ません。
他方、この9月29日から11月25日の間には教授懇談会は開かれておらず(当時、開催の招集メールも来ていませんし、乙10山路メモにも開催の記録はありません)、したがって、この間に教授懇談会で「国際政策協調学」分野から「社会的意思決定」分野への変更を話題にすることあり得ません。
(4)、その上、一審判決は、《本件分野変更の発議に先立って開かれた平成21年11月11日の選考委員会に出席し、そこで専攻長である國島教授から社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の説明を受けながら何らの発言もしなかった》(26頁13~16行目)と認定していますが、しかし、このとき私が《社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の説明》に対し《何らの発言もしなかった》最大の理由は、原審の本人尋問でも証言した通り、直近の10月8日の基幹選考会議に台風のため出席できなかったため、その《基幹専攻会議で新たな教授人事の提案があったのかなということをそのとき考えていまして、そういうことをいろいろ考えて、それを確認した後でなければ会議の内容に関して議論ができないなと思っていた》(本人調書13頁下から2行目~14頁1行目)からです。そして、もう1つの理由が、そのことを考えていたら《あっという間に会議は終了してしまった》(同14頁2行目)からです。
なお、このときの専攻長の國島教授の説明は《社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい》というものだったというのが私の証言ですが、これについて判決はすぐ前で、《原告が国際協力学専攻における教授ポストの数に制約がある点は熟知していた》以上、この証言は《到底信用し難い》(25頁10行目)と否定していますが、この批判が誤解に基づく事実誤認であることは、前記1(2頁)で明らかにした通りです。
(5)、最後に、一審判決は、《同年11月25日の分野選定会議にも出席し、その審議に加わっていたものと認めるべきこと》(26頁16~19行目)と認定していますが、しかし、前記2で述べた通り、私の陳述書(5)(8~9頁)や原告本人尋問(調書15~17頁)に詳述したように、招集通知も来ない私にどうやってこの会議に出席することが可能なのか、無理難題を押し付けるこの事実認定が道理に反し誤っていることは明白です。
第2、誤記の訂正
控訴に当たって、改めて、一審に提出した証拠を読み直してみて、なお2つの事実について誤記があることを見つけましたので、以下に訂正いたします。そして、訂正後の内容を別紙に経過年表として添付しました。
控訴に当たって、改めて、一審に提出した証拠を読み直してみて、なお2つの事実について誤記があることを見つけましたので、以下に訂正いたします。そして、訂正後の内容を別紙に経過年表として添付しました。
1、訂正の箇所
①.経過年表(甲2号証。下記のアンダーライン部分が訂正箇所)
該当個所
|
訂正前の表記
|
訂正後の表記
|
09.11.11の同日の制度設計講座の列
|
教授選考委員会、開催。(国)分野を社会的意思決定分野(以下、(社)分野)に分野変更を決定。
|
教授選考委員会、開催。國島専攻長より社会的意思決定分野(以下、(社)分野)で新たな教授選考を行ないたい旨の説明。
|
②.経過年表(2)(甲55号証。下記のアンダーライン部分が訂正箇所)
該当個所
|
訂正前の表記
|
訂正後の表記
|
06.3の大講座会議の列
|
教授間の意見の一致得られず、(国)分野の教授人事、不成立。
|
大講座会議で意見の一致得られず、(国)分野の教授人事、不成立。
|
③.原告陳述書(4)別紙2(甲58号証。下記のアンダーライン部分が訂正箇所)
該当個所
|
訂正前の表記
|
訂正後の表記
|
09.11.11の同日の制度設計講座の列
|
教授選考委員会、開催。國島専攻長より社会的意思決定分野(以下、(社)分野)で新たな教授選考を行ないたい旨の説明。
|
④.原告陳述書(5)(甲63号証。下記のアンダーライン部分が訂正箇所)
該当個所
|
訂正前の表記
|
訂正後の表記
|
2頁下から6行目
|
分野を国際政策協調学から社会的意思決定に変更する議題を話し始め、
|
後記11(8頁)に記載の通り、社会的意思決定分野での新たな教授選考の議題を話し始め、
|
別紙経過年表16頁
06.3の大講座会議の列
|
教授間の意見の一致得られず、(国)分野の教授人事、不成立。
|
大講座会議で意見の一致得られず、(国)分野の教授人事、不成立。
|
別紙経過年表17頁
09.11.11の同日の制度設計講座の列
|
教授選考委員会、開催。(国)分野を社会的意思決定分野(以下、(社)分野)に分野変更を決定。
|
教授選考委員会、開催。國島専攻長より社会的意思決定分野で新たな教授選考を行ないたい旨の説明。
|
2、訂正の理由
(1)、2009年11月11日の制度設計講座の列で「(国)分野を(社)分野)に分野変更を決定。」の訂正(上記の①、③及び④)
2009年11月11日は、それまで合法的に進められて来た本件の教員人事手続が違法に転じる転換点となった時なので、本件紛争を真相解明する上で、この日の出来事の全貌とりわけ國島専攻長らの企図・目論見を見極めることは極めて重要なことでした。
私と代理人はその探求の中で、「国際政策協調学分野を社会的意思決定分野に分野変更すること」が当日の國島専攻長らの企図・目論見と推理し、そこから、その後の彼らの行動プロセスを推理しました。とはいっても、彼らの内心の企図と現実の出来事とが一致するとは限りません。私の記憶に基づく限り、11月11日の出来事は「國島専攻長から、社会的意思決定分野の教授ポストについて新たな選考を行いたい旨の説明があった」というものでした。
そこで、裁判所に提出する書面の執筆段階で草稿の中に國島専攻長らの企図・目論見に相当する「国際政策協調学分野を社会的意思決定分野に分野変更すること」と現実の出来事に相当する「國島専攻長から、社会的意思決定分野の教授ポストについて新たな選考を行いたい旨の説明があった」の記述が並存していましたが、提出書面完成段階で、両者の混同がないよう確認する作業において私と代理人のチェックに漏れ・見落としがあったため、一部の書面に國島専攻長らの企図・目論見に相当する記述が残ってしまいました。
(2)、2006年3月の大講座会議の列で「教授間の意見の一致が得られず」の訂正(上記の②及び④)
2006年3月の大講座会議における教授人事不成立の手続については、私の陳述書(5)3(甲63。3頁)の記載が正しいものです。つまり、本来、「基幹大講座会議のメンバーの全員一致で1名の教授候補者を選任する」やり方であり、この3月のとき、教授1名の反対のため、全員一致とならず不成立になりました。その事実をつい「教授間の一致が得られず」と表記してしまったのですが、これでは教授候補者1名の選任を「教授全員の一致で選任する」ものであるかのように誤解を招きます。そこで、誤解の余地のないように訂正しました。
以 上
0 件のコメント:
コメントを投稿