予定通り、1月30日(月)、第4回期日(非公開の準備手続)が開かれました。
原告より、具体的にどのような違法な手続があったのかについて、以下の準備書面と原告の陳述書2を提出。
裁判所から
原告に対し、今回の違法な手続と学問の自由の侵害との関係を具体的に明らかにすること、
被告に対し、次回までに原告の今回の書面に対する反論を準備すること
が宿題として出された。
次回期日は 3月1日(水)。ただし、非公開の準備手続。
***************
平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件
原 告 柳田 辰雄
被 告 国立大学法人東京大学
原告準備書面 (2)
2017年 1月23日
東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中
原告訴訟代理人 弁護士 柳原 敏夫
原告は、「国際政策協調学」分野を「社会的意思決定」分野に変更した手続(以下、本件分野変更手続という)が違法であることについて、訴状6頁(3)、アの主張を以下の通り整理し、具体的に主張する。合わせて、被告第1準備書面に対しても反論する。
目 次
被告は被告第1準備書面中で、《本件で原告が問題にしている平成21年から平成22年にかけて実施された教授ポストの人事》のことを「本件人事」と呼び(4頁2行目)、「本件人事」は本訴で原告が問題とする国際政策協調学の教授人事のことを指しているように見えるが、他方で、前訴(御庁平成24年(ワ)第4734号損害賠償請求事件)の一審判決2頁において、国際政策協調学の教授人事と開発技術政策学の教授人事を総称して「本件人事」と定義している(甲37)。そこで、この用語の定義について整理確認しておきたい。
結論として、原告も、「本件人事」を前訴と同様、上記2つの分野の教授人事を総称した意味で使うことに異論ない。ただし、国際政策協調学の教授人事は2009年から始まった開発技術政策学の教授人事に先立つこと4年、2005年から始まり、継続されてきたものであり、もともと両者の教授人事は別個独立の人事である(2005年から始まった国際政策協調学の教授人事の経過の概要は今般提出の甲39原告陳述書(2)1参照)。その意味で、両者を区別する必要がある場合には、国際政策協調学の教授人事のことを本件人事1、開発技術政策学の教授人事のことを本件人事2と呼ぶ。
(1)、一般論
そもそも法人等の組織運営における手続違反について、法令または当該組織の内部規則で定めがない場合、手続違反の軽重をどのように判断すべきか。この点、本件と比べ、営利法人であり、なおかつ無効原因に関するものという違いがあるが、株式会社の設立無効原因について述べた次の一般的な判断基準が組織運営の手続違反の軽重を判断する際の指針として参考になる。
《株式会社の設立無効原因をどの範囲で認めるかは、困難な問題であるが、会社法はこれにつきなんらの規定をしていないから、解釈によって決するほかない。一般的に言えば、会社の設立が公序良俗もしくは法の強行規定または株式会社の本質に反する場合かどうかで判断すべきである。》(大隅健一郎・今井宏・小林量「新会社法概説」(2009年3月10日初版)60頁)
(2)、本件
これを参考にすれば、本件における組織運営における手続違反の軽重も解釈によって決するほかないが、一般的に言えば、当該組織運営が公序良俗もしくは法(当該組織の内部規則も含む)の強行規定または当該組織の本質に反する場合かどうかで判断すべきである。本件は国際協力学専攻が所属する新領域創成科学研究科という大学院の運営において発生した問題であり、それゆえ、「当該組織の本質」とは当該研究科紹介のHP(甲3)に記載された通り、
《新領域創成科学研究科は、学際性をさらに推し進めた「学融合」という概念で新しい学問領域を創出することを目指して1998年に設置され》た大学院という点にある。具体的には、新しい学問領域すなわち《ナノ、物質・材料、エネルギー、情報、複雑系、生命、医療、環境、国際協力など、伝統的な学問体系では扱いきれなくなった分野横断的な重要課題に取り組むために、各分野をリードする意欲的な教員が集結しました。組織の壁を取り払った自由でオープンな研究教育環境の中で多様なメンバーが密に交流・協力し、人類が直面する新しい課題に挑戦していくことが研究科の基本理念です。》(甲3)
従って、新領域創成科学研究科という組織運営における手続違反の軽重もこの研究科の基本理念(組織の本質)に照らして判断されるべきである。
次に、本件人事1の本質的特徴を一言で言えば、それは国際政策協調学の教授人事と社会的意思決定の教授人事という、両者は一見連続しているようで実は不連続な、別個独立の2つの教授人事から構成されており、一方の国際政策協調学は進行中の教授人事を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了されたものであり、他方の社会的意思決定はその後ただちに新たな分野で教授人事が再スタートしたが肝心の分野選定の手続が省略されたものである。すなわち、
本件人事1は、既に2005年に分野とポストが「国際政策協調学の教授人事」と決定し(甲39原告陳述書(2)1参照)、2009年5月に当該教授選考手続を再開したものである。具体的には、5月13日の学術経営委員会で教授選考委員会が設置され(甲7の3)、教授選考委員会から発議した国際協力学専攻に対し具体的な教授選考手続の遂行が委託され、国際協力学専攻は教授候補者の募集・検討を開始した。ところが、その募集活動のさなかである2009年11月、この間営々と進められてきた募集活動と相容れない措置が突如として取られた。それが「国際政策協調学」の分野変更という名目で行われた「国際政策協調学の教授人事」の凍結(中止)という措置であった。それが進行中の教授人事を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了することである。言うまでもなく、教授人事を開始するにあたって、分野の決定を検討する中で分野変更が行われるのであれば、それはノーマルな措置である。しかし、本件はそれとは全く異なる。なぜなら、4年前の2005年に国際政策協調学の教授人事が開始されたとき、分野は国際政策協調学と審議・決定され、その決定を受けて具体的な教授選考手続が進められ、一時休止しながらも継続してきたのである。それが2009年5月から具体的な教授選考を再開し、その具体的な教授選考の募集手続が進められているさなかに、その募集手続をいきなり「今のはなかったことにしよう」と凍結(中止)するのは、30年以上の研究生活の原告にとって一度も経験したことのないほどの、異例中の異例の出来事であった。
従って、もしこのような措置が適切なものとして認められるためには、異例中の異例の措置を正当なものにするに足りるだけの次の2つの措置の履行が不可欠である。
ⓐ.決定済みの分野につき進行中の募集手続をなぜ凍結(中止)しなければならないのか、その合理的な理由を関係機関である発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に説明し、凍結(中止)の承認を得ること。
ⓑ.新たな分野で教授人事を再スタートする以上、新たな分野での教授人事の発議からつまり基幹専攻会議で分野変更の審議・決定から手続を履行すること。
以上述べた本件人事1の本質的特徴を踏まえ、5で述べる国際協力学専攻が所属する新領域創成科学研究科における分野選定手続の意義を踏まえると、本件人事1における分野変更手続違反として重大なものは次の3点に集約できる。
①.国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に対し、進行中の募集手続中止の理由を説明する措置を取らなかったこと及び当該機関の承認の不存在。
②.新たな分野で教授人事の再スタートにあたって、基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定の不存在。
③.新たな分野で教授人事において、分野選定委員会の虚偽の審議結果報告書の作成。
3で前述した通り、本件人事1の本質的特徴の第1は進行中の募集手続を途中でいきなり「今のはなかったことにしよう」と強制終了したことである。それゆえ、もしこのような極めて異例な不作法が正当化されるとしたら、そのためには、本件人事1の関係機関である発議した国際協力学専攻の基幹専攻会議及び学術経営委員会に対し、進行中の募集手続をなぜ凍結(中止)しなければならないのか、その合理的な理由を説明し、当該機関から承認を得る必要がある。
ところが、本件において、当時専攻長の國島正彦教授らが委員を務める教授選考委員会は上記強制終了について、基幹専攻会議及び学術経営委員会から承認を得なかったのはもちろんのこと、そもそもこれらの機関に対し中止の説明を全くしていない。この点で、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。
(1)、新たな分野で教授人事の再スタートする場合の本来の手続
本来であれば、分野変更について一から手続を履行する場合には次の手続を踏むことが必要である。
①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定。
②.専攻から学術経営委員会へ分野の選定について発議。
③.学術経営委員会の承認により分野選定委員会を設置。
④.分野選定委員会の審議・決定。
⑤.分野選定委員会から学術経営委員会へ報告。1回目の審議と再審議の決定。
⑥.2回目の審議と分野の承認。選考委員会を設置。
これらの手続のうち最も重要なものは「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」であり、これが欠けては分野変更の中核となる手続の不存在と言うほかない。
なぜなら、2(2)で前述した通り、新領域創成科学研究科の特質とは、学融合による新しい学問領域の創出、すなわち《ナノ、物質・材料、エネルギー、情報、複雑系、生命、医療、環境、国際協力など、伝統的な学問体系では扱いきれなくなった分野横断的な重要課題に取り組むために、各分野をリードする意欲的な教員が集結しました。組織の壁を取り払った自由でオープンな研究教育環境の中で多様なメンバーが密に交流・協力し、人類が直面する新しい課題に挑戦していくことが研究科の基本理念です。》(甲3)という点にある。
そこで、《学融合という理念を実践するためには、どのような専門領域の組み合わせで教員を配置するかが重要》(甲5高木陳述書2頁(3)3~4行目)となる。この「どのような専門領域の組み合わせで教員を配置するか」を決めるのが教員人事における「分野の選定」手続である。そして、「分野の選定」手続の最初の手続である《研究科(原告代理人注:新領域創成科学研究科の学術経営委員会という意味である)へ新しい人事を発議する段階で、次の公募分野を何にするかは、非常に重要な事項でした。》(同高木陳述書2頁(3)1~2行目)。なぜなら、「どのような専門領域の組み合わせで教員を配置する」のが最適であるかがここで実質的に審議されるからである。《そのため、分野選定の議論には、教授や助教授だけでなく、将来を担う若い助手の人たちにも議論に参加してもらうようにしました。》(同高木陳述書2頁(3)5~7行目)
以上の通り、「分野の選定」の実質的な審議が行われる「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」が最も重要な手続である。
基幹専攻会議の前身の大講座会議の時代であるが、実際にも、2002~3年の教員人事において、分野の選定をめぐって大講座会議において極めて活発な審議をおこなったことが、当時の議事録(甲44。2~3頁<協議事項>1、新人事にむけての望ましい分野の検討について・ 同45。2~3頁<協議事項>6、新人事にむけての望ましい分野の検討について)に克明に記載されている。
(2)、新たに社会的意思決定で教授人事を再スタートした本件の教授人事
ところが、社会的意思決定に分野変更された本件の教授人事においては、分野変更の最も重要な手続である「①.基幹専攻会議で分野の選定について審議・決定」が全く履行されていない。この点で、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。
本件では、2009年11月25日に「④.分野選定委員会の審議・決定。」の事実がないにもかかわらず、これがあったかのように装い、審議の末、当日出席しない原告(甲1原告陳述書14頁参照)も含め「全員一致でこれを承認した」という虚偽の報告書が作成され、学術委員会に提出された(甲18の3)。これは虚偽公文書作成に該当する違法な行為であり、この点でも、本件の手続違反は重大と言わざるを得ない。
以上に述べた通り、本件分野変更手続は、3つの重大な手続違反をおかしており、これらの重大な手続違反の結果、「国際政策協調学」分野は廃止され、当該分野を要素の1つとする本件学融合は多大な支障を来たすに至り、本件学融合の推進を目指していた原告の学問研究の自由を侵害するものであることが明白である。
第1で前述した通り、国際政策協調学分野の教授人事は進行中の募集手続のさなか強制終了(中止)され、教授人事はあらたな分野に変更されたが、被告は、この人事のあとも国際政策協調学分野は廃止されていないと主張する(5頁第3)。その理由として被告は、国際政策協調学分野の准教授ポストは本件人事の前後とも湊隆幸氏であり、その証拠としてその旨が記載された書面(乙6~7)を提出する。
しかし、これら2つの書面の「湊氏が国際政策協調学分野の准教授である」という記載は端的に間違っている。なぜなら、湊陳述書(甲40)が陳述する通り,
湊氏の研究教育分野は2005年9月以後現在まで、終始一貫「協調政策科学」であり(甲41~43)、国際政策協調学であったことは一度もないからである。
その上、被告の主張は、国際政策協調学の教授人事の分野変更によっても、国際政策協調学の准教授ポストは廃止にならないというにとどまり、国際政策協調学の教授ポストが廃止になることは否定していない。なぜなら、国立大学の教員は定員枠が決められており、この定員枠に基づいて教員の人件費が予算化されているため、新たな分野を追加して教員を追加採用しようと思っても、通常、定員枠を超えることはできない(つまり採用しても人件費が払えない)。2009年当時、国際協力学専攻の制度設計講座は教授2名(うち1名が空きポスト)、准教授1名の定員が割当てられており、それゆえ制度設計講座の教授人事において、国際政策協調学から社会的意思決定に分野を変更した場合、社会的意思決定で教授を採用すればそれで教授の定員枠は埋まってしまい、国際政策協調学は存続する意味がなくなる。つまり自動的に廃止となるほかない(甲39原告陳述書(2)2参照)。
それゆえ、本件分野変更手続により社会的意思決定に分野を変更した結果、国際政策協調学は廃止され、これにより本件学融合の研究に重大な支障を来たしたのである。
以 上
***************
陳 述 書 (2)
2017年1月23日
東京地方裁判所民事第14部 御中
原告 柳 田 辰 雄
1、2005年から始まった国際政策協調学の教授人事の手続について
平成16年(2004年)3月に国際政策協調学分野の松原望教授退職され、その後任人事の手続が平成17年(2005年)に入って始まりました。そして、同年7月に学術経営員会で教員人事の分野が国際政策協調学と選定され、教授選考委員会が設置されました。これにより、同年7月末から国際政策協調学分野の教授の国際公募が始まりました(甲44公募のための要項ドラフト参照)。同年12月に応募者の中から3人の候補者が選ばれ、翌年1月から面接が行われましたが、教授間の意見の一致が見られず、最終候補者1名を絞ることができませんでした。このため、国際環境基盤学大講座が国際協力学専攻に改組された平成18年(2006年)4月の第1回基幹専攻会議で、国際政策協調学の教授人事は「再公募の意向が承認」されました(甲45同会議の議事録4頁12)。
以上の経過を経て、平成21年(2009年)5月に、国際政策協調学の教授人事の手続が再開されました(甲7の3参照)。
2、分野変更した場合、変更前の分野の廃止について
国立大学法人である東京大学においては、教員の人件費は基本的に運営交付金でまかなわれていますが、この運営交付金の額は教員の定員枠に基づいて決められます。例えば、教員の定員枠が4人で、一人あたりの人件費が年間500万円だとすると年間の運営交付金の額は500万円×4=2,000万円となります。そして、教員は必ず担当する分野が決まっていますので、例えば、教員の定員枠が4人なら、教員ごとに合計4つの分野が存在します。しかし、分野を増やしたからといって、通常、教員の定員枠が増えるわけではありません。したがって、分野変更して分野を1つ増やすとき、教員の定員枠が変わらないように、変更前の分野を廃止しなければなりません。
本件の分野変更がなされた平成21年(2009年)の時点で、国際協力学専攻の制度設計講座には教授2名(政治経済システム学分野の教授1名(充足)、国際政策協調学分野の教授1名(空きポスト))と准教授1名(協調政策科学分野(充足))の定員が割当てられていました。従って、本件の教授人事で国際政策協調学分野から社会的意思決定分野に変更されると、教授2名の定員枠のため、国際政策協調学分野は自動的に廃止されることになりました。