2017年7月4日火曜日

【報告】第8回裁判(17.7.4)

予定通り、第8回期日(非公開の準備手続)を実施しました。

6月9日、原告より、前回期日の裁判所の「違反行為の具体的内容及び学問の自由の侵害との関係」についての指摘を受けて、これを明らかにした準備書面(6)を提出。

6月30日、被告より、原告準備書面(5)と同(6)に対する認否反論である5準備書面を提出。
その趣旨は、本訴は前訴で審理済みであり、審理するまでもなく却下すべきであるというもの。

7月3日、原告より、被告5準備書面に対する反論である準備書面(7)を提出。
その趣旨は、
①.教授人事手続に重大な瑕疵があるという疑義について、被告には事案解明の責任があり、それが果たされていない。3人の証人尋問による解明は必至であること。
②.本訴と前訴との関係は、訴訟物も主要な争点も異なり、また、たまたま前訴の前提問題の中で認定した事実認定にも誤りがあり、再認定する必要があること。

以上で双方とも主張がほぼ出揃ったということで、裁判所より、まず原告の本人尋問を実施する旨が表明。なおかつ、その後証人尋問するかどうかは、原告本人尋問の結果を踏まえて決定するとのこと。
つまり、「本訴は前訴で審理済みであり、審理するまでもなく却下すべき」という被告の門前払いの主張は採用されませんでした。

ということで、次回、いよいよ本格的な事案解明の第一歩として、10月2日(月)午前10時30分~12時まで、 4階 415号法廷で原告本人尋問を実施します。

     原告準備書面(7)のPDF->こちら
     被告第5準備書面のPDF->こちら 
  
       **************

平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件     
原  告  柳田 辰雄
被  告  国立大学法人東京大学 

                    原告準備書面 (7)                                                                                    2017年 月 3日

東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中

                                           原告訴訟代理人 弁護士  柳原 敏夫




 先週末提出の被告第5準備書面に対する原告の正式な反論は証拠調べの終了時点で集大成したものを提出する予定である。本書面は、今後の事案の解明の進め方にとって必要な限りで、原告の反論を述べるにとどめたものである。

                    目 次
第1、事案解明に対する当事者の責任(予備的考察)   
1、一般論   
2、本件   
第2、本件における事案解明の状況   
1、事案解明に向けて原告の取組み                                      
2、事案解明に向けて被告の対応   
第3、本件における事案解明の今後の取組みについて(証拠調べの必要性)  
第4、前訴との関係                                   

1、訴訟物   
2、事実認定    


第1、事案解明に対する当事者の責任(予備的考察)
1、一般論

 これまで、訴訟審理の過程における事案の解明は、自己の権利を根拠づける事実の主張、立証責任を負う当事者が主張、立証を尽し、事案解明の責任を負うとされてきた。ところが、近時、訴訟における重要な情報(訴訟資料・証拠)が当事者の一方に偏在し、そのため、権利主張者が自己の権利を根拠づける事実を具体的に主張、立証することが困難な事件が増大し、こうした事情を反映して、今日では、主張=立証責任を負わない当事者も期待可能な範囲において事案解明に協力すべき義務を負うべきである見解や、信義則に基づき一定の要件のもとに主張=立証責任を負わない当事者に期待可能な範囲で、相手方の概括的な主張に対し具体的な事実を陳述して争い、かつこの点につき証拠を提出することを要求する見解が注目を集めている(竹下守夫「伊方原発訴訟最高裁判決と事案解明義務」(木川古希(中)1頁以下)、春日偉知郎「事案解明義務」(「民事証拠法論集」所収233頁以下。松本博之「証明責任を負わない当事者の具体的事実陳述=証拠提出義務」法曹時報49巻7号1611頁以下ほか)。
 最高裁もまた、平成4年10月29日伊方原発訴訟判決(民集46巻7号1174頁)において、
《原子炉設置許可処分についての右取消訴訟においては、右処分が前記のような性質を有することにかんがみると、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、当該原子炉施設の
安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。》
と判示した。
上記の学説・実務から引き出される結論とは次のことである――形式的平等ではなく、実質的平等の保障を意味する憲法14条の法の下の平等を訴訟手続において具体化したとされる「武器対等の原則」のもとでは、
①.事案解明に必要な証拠の大半を一方当事者が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.当該当事者は自ら実施する活動の「安全性」などの問題について関係者に「説明責任」を負っていること。
③.当該問題の発生により「原告の生命・身体」などの人権に対し大きな影響を与えること
といった事情が認められる紛争においては、事案解明に関する上記の一般原則は修正され、事案解明に必要な証拠を握っている当事者側が「安全性」などの問題がないことを主張、証明を尽し、事案解明の責任を負うべきである。
 以下、これを基づき本訴を検討する。

2、本件
 本件の教授人事手続の適法性について重大な瑕疵=違法性があると主張する本訴において、次の事情が認められる。
①.本訴は本件教授人事手続の事案解明に必要な証拠の大半(原告に公開済みの議事録等だけでは解明されない事実に関する証拠)を被告側が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.コンプライアンスを当然のこととする被告において、自ら実施する教員人事手続の「適法性」について疑義が発生した場合には、関係者に疑義払拭のための「説明責任」を負っていること。
③.本件教授人事手続について重大な瑕疵の発生により「本件学融合の推進が阻害され」、原告の学問の自由に対し大きな影響を与えること。
 従って、本件において、被告は、原告が主張する本件教授人事手続の適法性つまり「3つの違反行為」について、疑義を払拭すること、すなわち不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要がある。
以上が、事案解明に関する当事者の責任はどうあるべきかについて、本訴の基本的な帰結である。

第2、本件における事案解明の状況
1、事案解明に向けて原告の取組み

 前回期日において、裁判所より原告に対し、「違反行為が何なのか具体的に明確になっていない」という指摘を受けたのを踏まえ、原告は改めて手持ちの証拠資料を再吟味して、そこから「3つの違反行為」について、初めていわゆる5つのWと1つのHごとに分節して具体的な事実を主張した(原告準備書面(6))。同書面により、「3つの違反行為」の具体的な事案解明を原告側で果たしたものである。
 
2、事案解明に向けて被告の対応
 それに対し、被告はどう対応し、被告なりに「3つの違反行為」の具体的な事案解明をどう果たしたか。結論を言うと、被告は、「3つの違反行為」の具体的な事案解明を全く果たさなかった。なぜなら、
被告は、単に、《否認ないし争う》と述べるか、《原告が主張する「3つの違反行為」に対する被告の反論はこれまでの準備書面及び上記第1の2で述べたとおりである。》(被告第5準備書面5頁8~10行目)としか応答しなかった。しかし、前述の通り、原告準備書面(6)の「3つの違反行為」について5つのWと1つのHに分節した具体的な事実は、原告が同書面で初めて主張したものであり、この包括的な原告主張に対し被告が認否と理由を明らかにしたことはこれまで一度もない。
「3つの違反行為」の具体的な事実について、被告は民事訴訟の一般原則である
「準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない。」(民事訴訟規則79条3項)
すら遵守しておらず、被告の事案解明の責任を放棄するにひとしいボイコットというほかない。その結果、原告準備書面(6)で原告側で明らかにした「3つの違反行為」の事案解明に対して、被告側の事案解明は全くなされていない。そのため、この3つの論点について、いったい、具体的に、いかなる事実がどのように争いになっているのか、その対立の状況すら全く明らかにされていない。
 以上より、本訴において、被告に課せられている「本件教授人事手続の適法性について、疑義を払拭すること、すなわち不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証を尽す」という責任は全く果たされていない。

第3、本件における事案解明の今後の取組みについて(証拠調べの必要性)
 尤も、原告は、審理の現段階において、被告が被告に課せられている上記の事案解明の責任を尽していないことを理由に、証明責任の転換により原告主張を認めるべきだと主張する積りはない。なぜなら、依然、事案解明が十分に可能である以上、その努力を払うのが本来の審理のあり方だからである。それが過日、申請した原告本人尋問と3名の証人尋問の実施である。そこで改めて、これら3人の証人尋問の必要性を以下の通り明らかにする。
①.    国島専攻長
 前述の通り、「3つの違反行為」の具体的な態様について、原告準備書面(6)により原告側で事案解明した内容に対し、被告は被告第5準備書面で単に否認するだけで、それ以上、被告が主張する具体的な態様を明らかにしない。その結果、果して、原告側の事案解明が真実かどうかを明らかにするためには、さらに、これらの具体的事実の関係者に直接尋問して、真相を確認するしかない。例えば、3番目の「分野選定委員会の開催・審議・決定」という手続の不存在の論点であれば、現実には開催されなかった2009年11月25日の分野選定委員会の会議の審議結果報告書(甲18の3・同20の2) を誰がどのように作成し、誰がこれを承認したのか、作成に関与したと思われる国島専攻長に直接尋ねるのが早道である。それが国島氏を証人尋問する理由である。
②.味埜環境学系系長
 味埜氏の証人尋問の必要性は既に原告準備書面(5)第5、2以下で述べた通りであるが、前述の通り、今回、被告の認否により「3つの違反行為」の具体的な態様は被告からは明らかにされなかったため、この具体的な態様の真相を解明するためには、「3つの違反行為」の具体的な態様についての関係者に直接尋問して、真相を確認する必要がある。この点、当時、環境学系の系長だった味埜氏がこれらの問題に直接或いは間接に関与したことは疑いなく、よって、彼が関わった具体的事実を直接尋ねる必要がある。
③.高木保興氏
高木保興氏の証人尋問の立証趣旨は、本件の学融合の内容及び分野選定・分野変更の手続が、学融合の推進にどのような影響を及ぼすか、両者の関係であった(本年5月23日付証拠申出書)。
 ところで、今般、被告は、学問の自由に関し、次の通り、主張した。
《原告は、国際政策協調学分野の研究者と同一の研究施設で日常的に顔を突き合わせ、意見交換できる環境を望んでいるようだが、このような環境を被告が原告のために整備してあげるということが、原告の学問の自由の内容として法的に保障されているとは考えられない》(第5準備書面4頁5~9行目)
これは、原告が学問の自由として考える本件学融合の実質的内容を真っ向から否定するものである。そこで、原告主張が正しいことを第三者の証言により明らかにする必要がある。そこで、学融合を推進するために、同志社大学から転職し、東京大学新領域創成科の設立準備段階から関わった高木氏を証人尋問する理由でもある。

第4、前訴との関係
1、訴訟物
 言うまでもなく、民事訴訟による紛争の解決は、当事者により要求された範囲においてのみなされる(処分権主義。民訴246条)。すなわち、民事訴訟における訴訟物の範囲を決定する権限は原告にあって、裁判所にはない。従って、前訴の訴訟物の範囲も前訴原告により決定されるのであって、前訴裁判所ではない。以上の原則に基づき、原告は、前訴の訴訟物の範囲を前訴の訴状の主張に基づき、特定した(原告準備書面(5))。それゆえ、もしこの主張が間違っているというのなら、被告は前訴の別の原告主張書面を示すべきである。しかし、被告は、第5準備書面第1、1において、単に前訴判決の関連箇所を紹介するにとどまり、原告の主張書面を示すことができない。これは「民事訴訟における訴訟物の範囲を決定する権限は裁判所にある」という立場を前提とするもので、処分権主義の原則に反する。

2、事実認定
 以上の通り、本訴と前訴の訴訟物は異なる以上、本訴の訴訟物たる権利関係を根拠づける事実(要件事実)と前訴の訴訟物たる権利関係を根拠づける事実(要件事実)と異なるのは当然である。また、たとえ、本訴の訴訟物たる権利関係を根拠づける事実(要件事実)やその間接事実が前訴判決中で、前訴の要件事実の前提事実として認定されていたとしても、例えば、《同年(平成21年)11月までには、「国際政策協調学分野」を「社会的意思決定分野」に変更して選考を行うことが教授懇談会の構成員の共通認識とされ》(被告第5準備書面3頁7~9行目。甲38前訴二審判決4頁2(1))という事実認定は、既に原告準備書面(5)第1、3(5~6頁)、同書面第2、3(6~7頁)で述べた通り、山路陳述書(乙10)添付資料2枚目に記載された2009年9月29日の教授懇談会での原告発言などの重要な証拠を無視した、誤ったものである。そのため、本訴で改めて、提出済みの証拠(乙10添付資料2枚目など)の適正な評価及び新たな証拠の収集により証拠を再吟味して、これらの事実認定をやり直す必要がある。
                                                      以 上

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