2018年11月27日火曜日

【報告】11月26日、上告人理由書&上告受理申立理由書を提出

9月13日の二審判決に対して9月28日に上告及び上告受理申立をした事件について、その理由を詳述した上告理由書と上告受理申立理由書を、本日提出し、民衆と歴史に対する証言を残しました。

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別紙 
上告人の陳述書のPDF-->こちら
平山朝治筑波大教授の意見書のPDF-->こちら

また、上告受理申立理由書の本文のPDF-->こちら

以下、この上告理由書のうち本文全文です。

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平成30年(ネオ)第699号
上告人  柳田 辰雄
被上告人 国立大学法人 東京大学
            上告理由書

                        2018年11月26日


最高裁判所 御中


上告人代理弁護士     柳 原 敏 夫




 頭書事件につき、上告人は下記の通り理由を提出する。


目  次
別紙

第1、事実関係と原判決の概要

1、事実関係と原判決の概要

本件は、2009年11月までの国際政策協調学分野の教授人事(以下、本件教授人事という)をめぐって、刑法上の犯罪に該当する違反行為をはじめとする次の3つの重大な手続違反があり、その結果、上告人が推進してきた学融合という学問の自由が侵害されたか否かが争われた事案であり、これに対し、一審判決は,上告人の請求を棄却し、原判決もこれを支持したものである。
①.教授選考手続の進行中に、正当な理由なく手続を「停止」したこと(以下、手続違反①という)。
②.分野変更の発議について被上告人の内部規則に明文(甲52ほか)があるにも関わらず、この明文の規則に違反して発議されたこと(以下、手続違反②という)。
③.分野変更を決定する分野選定委員会の審議・承認がなかったにも関わらず、同審議・承認があったかのように偽装したこと(以下、手続違反③という)。

2、民の不正追及はあっても官の不正追及はないのか――法の下の平等と日産ゴーンの3点の「重大な不正行為」の発覚――

先ごろ、日産自動車株式会社(以下、日産という)のゴーン会長らの①.役員報酬の過少記載、②.日産の投資資金の私的流用、③.日産の経費の不正支出の3点の「重大な不正行為」が発覚し、ゴーン会長らの逮捕による刑事責任の追及が始まった。日産現社長は19日の記者会見で、この3点の「重大な不正行為」は「長年にわたる、ゴーン統治の負の側面と言わざるを得ない」と述べ、「残念という言葉ではなく、はるかに超えて強い憤りということ、わたしとしては、落胆ということを強く覚えております」と述べた。
 日産の一連の不正行為・犯罪と現社長の言葉は、本裁判の被上告人東京大学の本件教授人事をめぐる3点の「重大な不正行為」にそっくり当てはまる。すなわち、本件の3点の「重大な不正行為」は「長年にわたる、東京大学統治の負の側面と言わざるを得ない」ものであり、上告人もまた「残念という言葉ではなく、はるかに超えて強い憤りということ、わたしとしては、落胆ということを強く覚え」ずにはおられない。日産事件のごとく民の不正追及が裁かれるのであるならば、東京大学のごとき官の不正追及もひとしく裁かれるべきである。それが不正追及に関する法の下の平等である。民の不正だけが裁かれ、官の不正が見逃されるのなら、不正追及も茶番にすぎない。
 しかも、日産事件は「これまで検察当局に情報を提供するとともに、当局の捜査に全面的に協力してまいりましたし、引き続き今後も協力してまいる所存です。」(日産のコメント)と、地検特捜部と司法取引した日産の全面的な協力のもと真相解明が進められているのに対し、本裁判では、本件教授人事の関係者は被上告人東京大学関係者からの報復をおそれ、上告人の情報提供要請に対し全面的非協力的な態度に出たため、真相解明は著しく困難な状況にある。にもかかわらず、被上告人東京大学は、上告人の追及に対し、致命的なミスを犯した。それは上告人が、本件教授人事をめぐる第3の「重大な不正行為」(手続違反③)の中で、分野選定委員会の架空の会議の中で分野変更の審議・承認がなされたという虚偽の報告書(公文書)(甲18の3)を作成されたと、当該公文書の作成者に虚偽公文書作成罪が成立すると主張したのに対し、被上告人東京大学は単に「否認する」と答弁しただけで、身の潔癖を晴らす反論を何ひとつしなかったことである。なぜなら、大学の自治の根幹は大学の教員人事の自治にあり、それゆえ、教授人事の中で虚偽公文書作成罪が成立するようなことは大学のガバナンスとして到底あり得ない。従って、「教授人事の中で虚偽公文書作成罪が成立した」という上告人主張に対しては、当該犯罪の実行者として名指しされた当事者(被上告人東京大学の教授2名)がもし身に全く覚えがないのであれば、当該上告人主張は無実の者を虚偽の主張をもって貶める誣告に相当する名誉毀損であるばかりか、被上告人東京大学にとってもガバナンス失格の烙印を押されたのも同然の名誉毀損であるから、断じて容認できない筈である。従って、通常なら断固として反訴なり名誉毀損の刑事告訴なり積極的な反論に出るのが当然である。しかるに、本裁判の被上告人東京大学も犯罪者として名指しされた当事者もこれらの行動を一切起さなければ、反論の声明・コメントすらもない。これは潔癖な人間であればおよそ考えられないような、尋常ならざる消極的な振る舞いである。この被上告人東京大学らの沈黙が雄弁に物語るのは、今回のゴーンと同様、被上告人東京大学も犯罪者として名指しされた当事者も「教授人事の中で虚偽公文書作成罪が成立した」という上告人主張に対し、まともに正面から反論し、身の潔癖を晴らすことができないことを自ら身をもって証明したということである。
 そこで、次に裁かれるのは司法である。もともと大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人東京大学が、本裁判において「教授人事の中で虚偽公文書作成罪が成立した」という上告人主張にまともな説明を何一つ果さず、説明責任を放棄している以上、司法の本来の役割として、この異常な状態を正すため裁判所が、上記虚偽公文書作成罪の成否をめぐり、固く口を閉ざしている公文書作成者らを法廷に呼び出すという、事案解明のための訴訟指揮が求められるところ、本裁判の一審裁判所も原審裁判所もいずれも、上告人が再三再四要求したにもかかわらず、彼らの証人尋問を一切実施せず、正反対にこれに蓋をして、真相解明を意図的に封じ込めようとした。これでは虚偽公文書作成罪の成立に関して、裁判所による証拠隠滅を目論んだ訴訟指揮と非難されても弁解の余地がない。今、再び、最高裁判所に対しても、司法による証拠隠滅の加担(共犯)かどうかが問われている。それが本件上告事件である。

3、上告人の決意

常々、市民生活の上にそびえ立つ(言い換えれば井の中の蛙にすぎない)ことをひそかに自認していると、人々が昨今の最高裁判所に対し、「人権の最後の砦」であることを忘れ、行政のただの「忖度機関」に堕し、三権分立は文字通り絵に書いた餅にすぎないと失望し、司法に対する見直しをしている歴史を知らないかもしれない。上告人自身が、本訴の一審、原審を通じて、司法が行政のただの「忖度機関」に堕した事実を嫌と言うほど思い知らされてきた。しかし、司法の審級は実は四審制であって、最高裁判所も歴史の審判を受けざるを得ない。
上告人もまた、この真理を確信し、「司法の判断は歴史に耐えるものでなければならない」という立場から、暗黒の一審判決及び原判決に対し、敢えて上告し、歴史の証言を残すことにした次第である。
それにより、本裁判の真の裁きを歴史の判定にゆだねるものである。

第2、上告理由の要旨

 本件の最大の争点は、
第1に、本件教授人事に手続違反があったか否か、
第2に、本件教授人事の手続違反の結果、上告人の本件学問の自由が侵害されたか否か
の2点であるところ、上記争点をめぐり原審の審理及び判決には、次の3点の上告理由が存在する。

1、理由不備1(法令解釈の誤り・経験則の適用の誤り)

 結論だけ述べると、本件教授人事の手続違反(以下、本件手続違反という)をめぐって、次の理由不備の違法がある(312条2項6号)。
①.手続違反①:本件手続違反に関する法令解釈の誤りがある。
②.手続違反②:本件手続違反に関する法令解釈の誤りがあり、なおかつ本件手続違反を基礎づける事実の認定において経験則の適用の誤りがある。
③.手続違反③:本件手続違反を基礎づける事実の認定において、経験則の適用の誤りがある。
以上の通り、原審の審理及び判決は、法令解釈の誤り及び経験則の適用の誤りにより、必要な審理を尽くしてから判決すべしとする訴訟法規(243条参照。新堂幸司「新民事訴訟法」782頁注1)に違反したもので、審理を尽さなかった違法があり、理由不備と言わざるを得ない。

2、理由不備2(釈明権不行使の著しく不当な場合)
手続違反③:2010年11月25日に分野選定委員会が開催されたか否かをめぐり争いがある事実について、原審が大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人に釈明を求めて招集通知の具体的内容を明らかにさせなかったことは、釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、審理を尽さなかった違法があり、理由不備と言わざるを得ない(312条2項6号)。

3、憲法(学問の自由の侵害)違反
 上記1により本件教授人事の違法が認められる結果、これにより上告人の本件学問の自由が著しく侵害されるという憲法違反の事態が発生したにもかかわらず、原審は上記1の違法を判断しなかった結果、憲法違反を見過ごしたものであり、憲法23条の解釈適用を誤った違法がある(312条1項)。
 以下、個別具体的に詳述する。

第3、教授選考手続の停止問題

1、問題の所在

 被上告人の大学に限らず、一般に大学の教員選考手続(決定した分野及びポストについて候補者を募集し、応募者から最終候補者1名を選定[TY1] 等)はそれがスタートした以上、停止すべき特段の事情が発生しない限り、応募者の中から1名の最終候補者を選定するまで進められるものである。ところが、本件においては、2009年5月以来進行していた国際政策協調学分野の教授選考手続([TY2] 同年10月時点の活動は候補者の募集である)が同年10月26日から11月25日の間のどこかの時点で「停止」になった。なぜなら、この間に生じた以下の相反する2つの事実に照らせば、この間進行中の国際政策協調学分野の教授選考手続を「停止」しなければ、以下の②国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更する旨の発議をすることは不可能だからである(甲75別紙の経過年表参照)。
①、2009年10月26日、前月9月の教授懇談会の打合せ通り、上告人らは駒場に出かけ、国際政策協調学分野の教授候補者の推薦を依頼したこと(乙10・甲10)。
②.同年11月25日、国際協力学専攻から学術経営委員会に分野を国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更する旨の発議が出され、分野変更を審議するための分野選定委員会が設置されたこと(甲14の3)。
 にもかかわらず、進行中の国際政策協調学分野の教授選考手続を「停止」した「特別な事情」について、当時この教授選考を担当していた教授選考委員会(甲7の3)から、また同委員会に教授選考を委嘱した学術経営委員会からも発議専攻である国際協力学に対し一切説明がなかった。これは明らかに尋常ならざる事態である。 
 そこで、このような教授選考手続の「停止」が被上告人制定の内部規則に違反しないかが問題となる。 
2、一審判決の原告主張の「書き換え」(原告主張の認定の誤り)
 この問題に対して、一審判決がまず行なったことは原告(上告人)主張の「書き換え」である。すなわち原告(上告人)が主張しない事実を「原告の主張」と認定し、それに基づいて、上記教授選考手続の「停止」は違法ではないと判断した(これが弁論主義違反であることについては、第3、1、(2)イ〔32頁〕で後述する)。すなわち、教授選考手続の停止問題について原告(上告人)主張は次の通りであった。
《2005年7月に、分野とポストが国際政策協調学分野の教授ポストと決定された(乙9の2参照)あと、2006年3月に最終候補者1名を全員一致で決定できず不成立となった(甲63別紙の経過年表参照)。2007年の原告の1年間のサバティカル研修ののち、2009年5月から教授選考委員会が設置され、再度、教授選考手続を進めてきた(同年表参照)。しかし、進行中の教授選考手続が同年11月に停止された。これは被告制定の内部規則に違反する。》(原告準備書面(6)第2、1)。
 これに対し、一審判決は教授選考手続の停止問題についての原告主張を次のように認定した。
《原告は、上記について、①学術経営委員会において一旦選考する分野及びポストを国際政策協調学分野の教授ポストと定めながら、合理的理由なくこれを中止し、‥‥旨主張する》(23頁8行目以下)
 つまり、原告主張は、2005年7月に、教員人事の分野とポストを国際政策協調学分野の教授ポストとすると一旦決定しながら、その後合理的理由なくこれを中止したことである、と。
 しかし、ここで原告が問題にする「停止」の対象とは、教員人事の分野とポストの決定を中止したことにあるのではなく、教員人事の分野とポストが分野選定委員会で正式に決定された後、この決定を受けて、次の人事手続すなわち教授選考手続(本件では具体的な候補者の募集)が進行しているさなかに、突如、この進行中の教授選考手続が「停止」された点にある。従って、一審判決は、実際に原告が主張した『教授選考手続(具体的な候補者の募集)が進行しているさなかに、突如、この進行中の教授選考手続が「停止」されたこと』を、教授選考手続より前の段階の『教員人事の分野とポストの決定が「中止」されたこと』に書き換えたものである。
 一審判決はなぜこうした「原告主張の書き換え」を行なったのか、その理由は(7)②イ(9頁下から4行目以下)で後述することにして、以下、この書き換えられた原告主張を退け、書き換え前の原告主張に立ち戻って、その当否を明らかにする。

3、法律問題1(進行中の教員選考手続の「停止」に関する規則の有無)

 (1)、内部規則の有無
では、被上告人が制定した教員人事に関する内部規則中(甲32の1など)に、進行中の教員選考手続を「停止」する規則は存在するか。
 結論として存在しない。その理由は、進行中の教員選考手続は少なくとも最終候補者1名の選定まで進めることを予定しており、それ以前に「停止」されることを想定していないからである。
 この意味で、進行中の教授選考手続を「停止」することは許されず、被上告人の内部規則に違反する。
(2)、原判決
 しかるに、原判決は教授人事の途中で「停止」しても、停止に関する内規がない以上、違反を生じる余地はないと判示した(7頁(1))。
 しかし、これは国家と国民の間を規律する公法とりわけ罪刑法定主義の原理「規定なくして違反もない」が適用されるような場合と大学という自主的な団体の内部を規律する規則しかも構成員を制裁するルールでもない場合を混同したものである。本件は、上記の公法関係とは異なる大学という自主的な団体の内部を規律する場合であるから、自主的な良識に委ね運用することを予定されている。従って、もし教員人事手続において良識を逸脱する事態が発生した場合には、規則が明文化されていない場合でも、当然、手続違反の問題が発生すると解すべきである。
 さらに、原判決は、一審判決と同様、手続違反②と「表裏の問題」であり、②が適法である以上、①を違法と評価する余地なし。と判示した(7頁(2))。
 しかし、1つの教授ポストの枠の中で、既に承認された分野で教授の選考手続が進行中、その人事手続を停止するために正当と評価される何らかの手続を取らないまま、それとは別個に、新たな分野で教授人事を進めた場合、その新たな人事手続がスタートしたからといって、その教授人事が既に先行していた教授人事の停止を正当化することにはならない。その場合、1つの教授ポストの枠の中で、2つの教授人事手続が並存することになるが、あたかもそれは、夫(または妻)が夫婦関係を解消する正規の手続を取らないまま、それとは別個に、新たな相手と婚姻関係に入る手続を進めたからといって、その新たな婚姻関係が既に存在する夫婦関係の解消を正当化することにはならないのと同じである(この場合、2つの婚姻関係〔重婚関係〕が発生するだけである)。
(3)、本来の判断(超法規的な措置が許容されるか。)
 内部規則が存在しない場合であっても、手続違反が生じないか否かを判断するためには、本来であれば、次のような吟味検討をすべきである。
 たとえ明文の規定がなくても進行中の教員選考手続を「停止」することがいわば超法規的な措置[1]として、例外的に許容されることがあるとすればそれはいかなる場合か。一般論として、こうした例外を軽々しく許容すべきではないことは言うまでもないが、仮に例外が許容されるとしても、そのためには許容に値するだけの「合理的な理由」が備わっていることが不可欠である。
 この点、民事訴訟手続において「停止」を定めた規定(民訴法130~131条)が参考になる。これらの規定には既に「停止」を許容するだけの「合理的な理由」が備わっていると解されるので、これを参照すれば、進行中の教員選考手続を「停止」することも以下の要件のもとで例外的に許容されると解することができる(原告準備書面(6)第2、1)。
①「停止すべくやむをえない事情の発生」として次の2つの事由
(ア)、天災その他の事故により教員選考が執行不能(民訴法130条参照)
(イ)、発議専攻の教員や応募者に不定期間の故障が発生し、教員選考の続行が不可能(民訴法131条参照)
②「教員選考委員会から利害関係人(学術経営委員会及び発議専攻)へ説明と了解」
なぜなら、もともと教員選考委員会は学術経営委員会から委託に基づき教員選考手続を執行する立場にあるから学術経営委員会及び発議専攻に対し説明責任を果す必要がある。

 (ア)、では、本件の教授選考手続の停止問題において、以上の超法規的な措置に関する法令(被上告人の内部規則)を適用するといかなる結果となるか。そこで、上記アで明らかにした要件に該当する具体的事実の有無を検討する。
(イ)、具体的事実の有無の検討
①.「停止すべくやむをえない事情の発生」の事実
 結論として存在しなかった、少なくとも存在したことの証明はない。なぜなら、この間(10月26日~11月25日)の、前記(4)①記載の(ア)、天災その他の事故により教員選考が執行不能及び(イ)、発議専攻の教員や応募者に不定期間の故障が発生し、教員選考の続行が不可能に関する事実を裏付ける証拠は被上告人から提出されていないからである。
②.「教員選考委員会から利害関係人である学術経営委員会と発議専攻へ説明と了解」の事実
 同様に、この間(10月26日~11月25日)の、この事実を裏付ける証拠は被上告人から提出されていないから、存在しなかった、少なくとも存在したことの証明はない。
ウ、小括
 以上から、本件において、「教授選考手続の停止」の事実は存在したが、この「停止」が例外的に許容される前記超法規的な措置の要件に該当する事実は存在しなかった(原告準備書面(5)第2、2〔5頁〕参照)。

4、まとめ

 以上の2つの法律問題を検討した結果、本件において、進行中の教授選考手続を「停止」することは許されず、被上告人の内部規則に違反することが明らかである。

第4、分野変更の発議のための基幹専攻会議の審議・決定の不存在問題

1、問題の所在

本件において、進行中の国際政策協調学分野の教授選考手続を「停止」したあと、2009年11月25日、分野を国際政策協調学を社会的意思決定に変更して新たに教授選考することを国際協力学から学術経営委員会に発議し、分野選定委員会が設置された(甲14の3)。しかし、この発議に至る過程において、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更の審議・決定がなされなかった(この事実は被上告人も争わない)。
原審において、上告人は、当初、学融合による新しい学問領域の創出を基本理念とする新領域創成科学研究科においては、教員全員が参加する基幹専攻会議において分野選定の審議・決定をすることが分野選定の最重要な手続であることを理由に、分野変更の場合も同様であるとして、基幹専攻会議で分野変更の審議・決定がなされなかった本件の手続違反を主張した(原告準備書面(2)第1、6〔6~7頁〕)しかし、これに対し一審裁判所から「一体どんな規則に違反しているのか、その根拠となる被上告人の規則はあるのか」と事案解明の要求が出された。本来ならこれは、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人が回答すべき事柄であるにも関わらず被上告人がその職責を果さなかったため、上告人が苦心の末、当該規則を発見し、準備書面(3)でこれを報告した(甲50~52。以下、本規則という)。従って、本来であれば、「分野変更の発議に至る手続問題」は本規則の適用により決着がつくはずであった。ところが、被上告人がこれに異議を唱えた。それが、本件分野変更については「基幹専攻会議の審議・決定は必要なく」、「教授懇談会の審議・決定で足りる」、つまり分野変更に関する本規則は適用されないといういわば超法規的な措置を主張するに至った(被告第4準備書面2〔2頁〕)。しかし、被上告人は超法規的な措置を主張しながら、なにゆえそのような超法規的な措置が許容されるのか、その根拠については一言も言明しなかった。それどころか、被上告人によれば、本件分野変更においては実は「教授懇談会の審議・決定」すら不要であり、「個々の教授の同意で足りる」という前記超法規的な措置のさらにその例外的措置が主張されるに至った。そして、なにゆえそのような超法規的な措置が許容されるのか、その根拠について被上告人から今度も言明はなかった。ただし、被上告人としては、この一度のみならず二度にわたる超法規的措置の主張をすることが面目が立たないと感じたのか、原審において「二重の超法規的措置」の主張である点を明確にしなかった。のみならず、一審裁判所もまた、被上告人の心情を忖度し、この点を明確にしないまま判断を下した。このように超法規的措置をめぐる本件の事案解明の展開は明らかに尋常ならざるものがある。 
そこで、以上の事案解明の展開を踏まえ、分野変更に関する前記発議に至る手続において、被上告人制定の内部規則に違反しないかが問題となる。 

2、法律問題1(分野変更に関する被上告人の内部規則の有無)

 まず、被上告人が制定した教員人事に関する内部規則中に、分野変更に関する規則は存在するか。
 結論として存在する。それが(1)(12頁)で前述した本規則つまり「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(甲52の2〔1枚目〕・甲50の2・同51の2)の注1
「分野およびポスト」の変更が生じる場合は、再度、発議からやり直す。》
である。
 次に、本規則の注1「再度、発議からやり直す」とはいかなる具体的な手続を意味するか。それは、《「分野およびポスト」変更する場合には、発議した専攻の基幹専攻会議で「分野およびポスト」の変更に関する審議・決定を経た上で、改めて、学術経営委員会に発議する》という意味である。
なぜなら、訴状で主張した通り、被上告人の教員人事に関する内部規則に次のように定められているからである(以下、これらと本規則と総称して、本規則等という)。
Ⓐ.発議                                       
 専攻が教員を選考する分野とポスト(教授職か准教授職か)を学術経営委員会に発議する(甲32の1研究科内規2条)。
 専攻で上記発議に至るまでの手続は次の通り(甲33の1研究系内規24条1項2号)(4頁下から12~5行目)
①.専攻長または関連する講座の教授が基幹専攻会議[2]に提案。
②.同会議で討議して、どの分野にするかを全員一致で承認した後に、ポストを教授にするか准教授にするかを全員一致で決定。
》(訴状第3、2、(2)〔4頁〕)

3、法律問題1について法令(被上告人の内部規則)の適用

次に、本件の分野変更の発議に至る手続問題において、上記の規則を適用するといかなる結果となるか。そこで、本規則等に適用すべき具体的事実である「基幹専攻会議の審議・決定」の有無を検討する。
 結論として、国際協力学専攻の基幹専攻会議で、本件の分野変更に関する審議・決定をしたという事実はない。なぜなら、前記発議より前に開催された国際協力学の基幹専攻会議の議事録に、本件の分野変更に関する審議・決定をしたという記載はないからである。この事実は被上告人も争わないし、原判決も同様である(23頁4~6行目)。
 従って、国際協力学専攻の基幹専攻会議で本件の分野変更に関する審議・決定を経ずに、発議することは許されず、被上告人の内部規則に違反する。本来なら、これで本件の分野変更の発議に至る手続問題は決着をみたはずである。

4、法律問題2(分野変更の「発議のやり方」に関する超法規的な措置の可能性)

 ところが、これに対して、原判決は次のような超法規的な措置を認めるかのような判示をした。
《専攻には分野変更手続について裁量の余地が残されている。
本件両人事について準教授等を関与させることが適切ではなく、教授のみで決定することに合理的理由があること。
教授懇談会の意思に基づくものとして発議がされたとしても、基幹専攻会議の発議と実質的に変わらないこと。》(7頁)
 これは、一審判決の次の判断を維持したものである。《本件前訴においても指摘されているとおり,本件両人事が,国際協力学専攻の2つの教授ポストをめぐって同専攻に在籍する3名の准教授が争う構図が強く予測されるものであって,その決定に准教授及びその影響を受けやすいと考えられる専任講師を関与させることが適切とは言えない事情があることから,教授のみで決定することについては合理的な理由が認められる》(25頁)
 しかし、以下に述べる通り、これは「合理的な理由」を基礎づける事実「本件両人事が,国際協力学専攻の2つの教授ポストをめぐって同専攻に在籍する3名の准教授が争う構図が強く予測されるものであって,その決定に准教授及びその影響を受けやすいと考えられる専任講師を関与させることが適切とは言えない事情がある」の認定において、経験則の適用を誤ったものである。
 前訴とは2009年12月から翌年12月までの間で、公募に募集した者の中から1名の教授候補者を誰にするかを選任する段階の問題であり(前訴訴状(甲59)3頁)、この段階では国際協力学専攻に在籍する複数の准教授が募集して現実に争う構図となる可能性はあった。しかし、本訴はこれと状況が全くちがう。それは1名の教授候補者を選任する段階以前の、どの分野から教授を採用するかという分野選定の段階だからである。この分野をどこにするかという段階では、国際協力学専攻に在籍する複数の准教授が現実に争う構図となる可能性は考えられない。この段階で求められることは、被上告人において新領域創成科学研究科が設立された目的を考えれば、専攻がめざす新しい学問領域の創出にとって或いは学融合の推進にとって、どの分野の研究者を採用するのが最適かという観点から、基幹専攻会議のメンバー(教授・准教授・助教)全員が検討して分野を決めるのが理想である。この意味で、分野の決定の場面においては、教授だけに限定する合理的な理由はない。従って、一度決めた分野をその後の事情により変更する必要が生じた場合にも、その分野変更の手続も上記の分野決定手続と同様である。つまり、基幹専攻会議のメンバー(教授・准教授・助教)全員が検討して新しい分野を決めるべきであり、この分野変更の審議・決定においても教授だけに限定する合理的な理由はないというべきである(甲75控訴人陳述書(6)6頁)。

5、経験則の適用の誤り

(1)、民事訴訟における事実認定
民事訴訟における事実認定とは「徹頭徹尾経験則の適用」[3]とされる。つまり、民事における事実認定に当たっては、経験則に基づいた推論が駆使されなければならない。論理法則および経験則に従うことにより、はじめてその事実認定は客観的・合理的で追従可能なものになり、事実認定に対する当事者の納得形成が期待されることになる[4]
経験則による事実認定は、法的三段論法に従う法的判断と同様、次の法的三段論法に従うものである[5]
①.大前提:経験則
②,小前提:具体的な事実
③.結論:経験則適用の結果

(2)、経験則に基づく事実認定の2つの類型
 一方で、法的三段論法に従う法的判断の類型として、法的三段論法の①大前提(法規)に、Ⓐ原則を定めた請求原因事実に関する法規と、Ⓑ請求原因事実を適用した結果を覆す例外を定めた抗弁事実に関する法規という2つの類型が認められるように、経験則に基づく事実認定も、法的三段論法の①大前提(経験則)に、ⓐ原則を定めた経験則とⓑその原則を覆す例外である「特段の事情」を定めた経験則という2つの類型が認められる。

(3)、経験則に基づく事実認定の要件
 上記の2つの類型の適用において、以下の点が問題となる。
ア、原則を定めた経験則の類型
経験則は成文の法規と異なり、その存在が明文化されている訳ではなく、また、特定の分野に属する専門的な経験則は裁判官にとってその存在が自明とは限らない。従って、事実認定にあたっては、ⓐ原則を定めた経験則の類型において、適用すべき経験則が存在するのか争いが生じる場合には、その存在を証明する必要がある(経験則の証明)。
イ、例外を定めた経験則の類型
 例外を定めた経験則は、上記(1)の原則を定めた経験則の場合以上に、そのような例外の経験則が存在するのか争いが生じる可能性が高い。従って、ここでもその存在を証明する必要がある。さらに、ここで重要なことは、例外とはいえ、いやしくもこれが経験則(論理法則)として存在し得るためには、この例外を肯定するに足りるだけの「合理的理由」を備えていることが必要である(この点を指摘する最高裁昭和62年12月11日判決判例時報1296号16頁[6]。同昭和36年8月8日判決民集15巻7号2005頁[7]参照)。この「合理的理由」を備えていることを証明できて、初めて当該例外の類型の適用が可能になり、その証明がない限り、当該例外の経験則を適用することはできない。

(4)、事実認定が経験則違反とされる場合

 従って、事実認定が経験則違反とされる場合の類型も、上記の要件を具備していなかったとして、次の2つの類型が存在する。すなわち、
ア、原則を定めた経験則の類型
原則を定めた経験則の類型において、適用すべき経験則が存在することが証明されたにも関わらず、ⓑ当該原則を覆す例外である「特段の事情」を定めた経験則の検討に入らずに、当該原則を定めた経験則を適用した結果と異なる事実認定をおこなった場合(以下、この経験則違反の類型を経験則違反ⓐタイプという)。
イ、例外を定めた経験則の類型
原則を覆す例外である「特段の事情」を定めた経験則の検討に入ったが、「特段の事情」が例外を肯定するに足りるだけの「合理的理由」を備えているかどうかを検討せずに(或いは、検討したが、その「合理性」を明らかにできなかったにも関わらず)、当該例外を定めた経験則を適用して、原則を覆す事実認定をおこなった場合(以下、この経験則違反の類型を経験則違反ⓑタイプという)。
 以上の経験則の一般論を踏まえて、以下、本件に即して経験則違反を明らかにする。

(5)、基幹専攻会議の審議・決定の有無
 「基幹専攻会議の審議・決定が存在しないこと」については、争いがない。

(6)、教授懇談会の審議・決定の有無
原判決はこの重要な事実認定を明確にしていないのは不可解というほかないが、結論として「教授懇談会の審議・決定があった」と事実認定しているとしか解せない。
なぜなら、原判決はその前提として、基幹専攻会議を経なくても教授懇談会で審議・決定すれば合理的な理由があると法的に肯定する評価を下しているからで、仮に「教授懇談会の審議・決定があった」という事実認定を否定するのであれば、上記のような法的な評価を下す必要もないからである。
しかるに、原判決は「教授懇談会の審議・決定があった」という事実認定の理由を積極的に一言も述べていないが、これは以下に述べる通り、2つの経験則の適用を誤ったものである。

①.経験則1
教授懇談会のような複数の者で構成される団体の会合の開催手続については、次の経験則が認められる。
「教授懇談会の招集通知に記載されない議題については、特段の事情が認められない限り、当該教授懇談会で審議・決定されなかったと認めるべき」
 次に、本件において、次の具体的事実が認められる。
《分野選定委員会で本件分野変更を承認した2009年11月25日より前に開催された教授懇談会の招集通知に「国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更して新たに教授選考すること」を議題としたものは存在しなかった》。
従って、以上の大前提(経験則)と小前提(具体的事実)とから、次の結論が導かれる。
《2009年11月25日より前に開催された教授懇談会で、「国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更して新たに教授選考すること」について審議・決定されたことはないと認めるべきである》。

②.経験則2
 教授懇談会のような団体の会議の協議内容として、或る議題とこれと両立しない議題がともに了承されることはないから、次の経験則が認められる。
「11月25日開催の分野選定委員会に直近の教授懇談会で、国際政策協調学で教授選考を推進する議論がなされた了承された場合、特段の事情が認められない限り、同日の教授懇談会で「国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更する」議論がなされ了承されることはあり得ない。
 次に、本件において、次の具体的事実が認められる。
《直近の教授懇談会の9月29日、上告人は国際政策協調学分野の教授選考で、3分野構想の実現のため駒場の山影科長に候補者推薦を依頼する旨を表明し、教授懇談会で了承された(乙10山路メモ)》
従って、以上の大前提(経験則)と小前提(具体的事実)とから、次の結論が導かれる。
《同日の教授懇談会で「国際政策協調学を社会的意思決定に分野変更する」議論がなされ了承されることはあり得ないと認められる》

なお、「教授懇談会の審議・決定」ではなく、「個々の教授全員の同意」については、メンバーの1人である上告人自身が反対している以上、「個々の教授全員の同意」はあり得ない。

(7)、教授懇談会の審議・決定をめぐる瑕疵の治癒
尤も、原判決も、一審判決度と同様、「教授懇談会の審議・決定」の事実が存在しなかったことは承知の上で、最後に「瑕疵の治癒」論を判示した。
《H22.3.11開催の基幹専攻会議で全員が参加し、従前の手続を承認された以上、手続上の瑕疵は治癒された。》(7頁)
 一読すると、事実はあたかも承認まで全員一致でなされたかのように勘違いしてしまう恐れのある表現である。
しかし、事実は参加者の全員一致ではなく、「その前の2.18基幹専攻会議で従前の手続をめぐり議論が紛糾し、手続中止賛成が2名、承認が1名、ほか不明」(甲25)「3.11では参加者全員一致ではなく、8名中、前訴原告2名が反対、1名が退席、過半数の多数決で承認したにすぎない」。この事実を踏まえ、そもそもいかなる場合に手続の瑕疵は治癒されるかを吟味検討する。民事訴訟の瑕疵ある訴訟行為の治癒の場合を参考にすると、次のことが言える(三ケ月章「民事訴訟法」360頁参照)
①.「瑕疵ある行為の撤回と瑕疵の補修
これは、瑕疵ある行為が撤回されたのを受け、改めて、瑕疵のない行為が行われる場合である。では、本件において、平成22年3月11日に改めて、瑕疵のない行為すなわち分野変更の発議の審議・承認に相当する行為は存在したか。結論として存在しない。なぜなら、この日は単に、それまでの従前の人事手続を承認するか否かだけが審議・決定されたにすぎないからである。
②.「責問権の放棄」
 
これは、手続規定の中にはその目的がもっぱら当事者の利益保護にある
場合、それが遵守されなかったとしても、当事者がその違法を主張する権利を放棄したり適時に行使しない場合をいうものであるが、本件において、これに相当する行為が存在したか。結論として存在しない。なぜなら、平成22年3月11日に当事者である上告人が、国際政策協調学の従前の教授人事手続について反対を表明しているからである。

6、小括       

以上から、手続の瑕疵の治癒は不可能である。では、そもそもなぜ、このような無理を承知で、原判決は「手続の瑕疵の治癒」を論じたのか。それはほかでもない、本件の事実関係の下では分野変更の発議に至る手続に違反の事実があったことは否定できないから。そこで、最後の切り札として、「手続の瑕疵の治癒」と言わざるを得なかったものである。これはまさに、判決自らが手続の瑕疵を自白したようなものにほかならない。
 以上のとおり、「分野変更の発議に至る手続問題」について、原判決は、
本件手続違反に関する法令解釈の誤りがあり、なおかつ本件手続違反を基礎づける事実の認定において経験則の適用の誤りがある。

第5、分野選定委員会の分野変更の審議・承認の偽装問題

1、問題の所在

 本件において、国際政策協調学から社会的意思決定に分野変更する審議・承認をしたとされる2009年11月25日の分野選定委員会の会議は実は開催されなかった。その最大の根拠は、そもそも会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠であるところ、この時の分野選定委員会の会議では、招集通知である一斉メールが上告人を含めて委員全員に届いていないからである。にも関わらず、当日に会議が開催され、分野変更が審議され全員一致で承認されたという内容の報告書(甲18の3)が作成され、これに基づき、学術経営委員会で分野変更が承認された。本規則である「教官選考に当たっての分野及びポストの審議に関する申合わせ」(甲52の2)は、教員選考において、分野およびポストを審議するため分野選定委員会について規則を制定している。そこで、真実、分野選定委員会の会議が開催されないにもかかわらず開催され、分野変更が審議され全員一致で承認されたという虚偽の報告書を作成して、この虚偽の報告書に基づき学術経営委員会で分野変更が承認されたことは、被上告人制定の本規則に対する重大な違反行為ではないかが問題となる。

2、事実関係

 (1)、問題の所在
ここでの問題は、11月25日に分野選定委員会が開催され(以下、この時の分野選定委員会を本件分野選定委員会という)、分野変更が審議承認されたか否か?言い換えれば、11月25日に分野選定委員会が開催され、分野変更が審議承認されたという審議結果報告書(甲18の3・同20の2)の記載内容は真実か否かである。
(2)、検討
 これに対する結論は前記審議結果報告書の記載内容は虚偽である。その理由は以下の通りである。
もともと不存在「~ない」ということを直接に証明することは原理的に不可能であるため、「会議が開催されなかった」という不存在の事実の証明のために、間接証拠(間接事実)から推認する必要がある。この点、決定的な間接事実は開催の招集通知の有無である。
第1に、本来、会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠である。国際協力学の基幹専攻会議も教授懇談会も必ず招集通知を出し、学術経営委員会に設置された教員選考委員会の会議も招集通知を出した(2009年10月27日の召集メール〔甲12〕参照)。しかるに、通常なら必ず送られてくる招集通知が本件分野選定委員会の会議に対して、招集の一斉メールが上告人を含めて委員全員に届いていないこと。
第2に、原審で、被上告人は本件分野選定委員会が開催されたと主張した(被告第3準備書面第1、4〔2頁〕。同第4準備書面3〔2頁〕)ので、上告人から被上告人に対し、2度にわたり、開催のための招集通知の有無及びその具体的内容を明らかにするよう求める求釈明を出した(2017年4月7日付被告第3準備書面に対する求釈明書4(2~3頁)。原告準備書面(5)第4〔12頁〕)。本来であれば、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人は粛々と招集に関する情報を提出すべきであるのに、どうした訳か、被上告人はこれに応答しなかったし、これに対し一審裁判所も大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人に釈明を求めて事案解明もしなかったこと。
第3に、第2で前述した通り、原審で、被上告人は本件分野選定委員会の開催を主張した以上、本来であれば、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人は粛々と開催を裏付ける証拠、委員等の証言(次の前訴の原告本人尋問の証言を除いて)を提出すべきであるのに、これらの証拠を一切提出しなかったこと。
第4に、上告人が2009年11月に出席した記憶があった学術経営委員会関連の会議について、前訴では、当時よもや虚偽の内容とは知らずに審議結果報告書(甲14の3)の内容を信用して、そこに書かれている通り11月25日開催の分野選定委員会の会議に出席したと思い込み原告本人尋問でその旨を証言したが、本訴準備の中で、同日の会議の招集通知は見つからず、その代わり11月11日開催の教授選考委員会の招集通知(甲12)を発見したことから、上告人が出席した会議は11月11日の教授選考委員会の会議だったことが判明したこと。
第5に、本件分野選定委員会の主催者らを証人尋問し証言を聞けば開催の有無について、より直接的な証拠が得られ、事実の存否がより明確になるにも関わらず、一審裁判所は原告の前記証人申請を却下したこと。
(3)、小括
 以上の事実問題の検討結果から、本件分野選定委員会の審議・承認について、真実、分野選定委員会の会議が開催されないにもかかわらず開催され、分野変更が審議され、全員一致で承認されたという虚偽の報告書(甲14の3)を作成して、この虚偽の報告書に基づき学術経営委員会で分野変更が承認されたことは、被上告人制定の本規則に対する重大な違反行為である。
(4)、一審判決
 ところが、本件分野選定委員会の開催の有無という事実問題について、一審判決は次の通り判示した。
《前記③の点については、証拠(乙12)によれば、本件前訴(本人尋問)において、原告自身、平成21年11月25日に行われた分野選定会議に出席していたことを正確に自認し、これが同日の学術経営委員会の前に開催されたと記憶していることやそこでの審議の内容等(選考の分野が変更されたことについての原告の認識やその時点における考えに係る内容を含む。)について具体的に供述していることからしても、これを同月11日の選考委員会と勘違いしたとする本訴における供述等(甲63、原告本人尋問の結果等)は到底信用することができない。》(25頁(エ))
(5)、控訴理由
この判決理由に対して、上告人は以下の通り、経験則違反を主張した。
《原判決は本件分野選定委員会の招集通知が発せられたと認定していない以上、招集通知が発せられなくても、会議の開催があったと認められるような「特段の事情」を認定しない限り、会議が開催されたと認定することはできない。一審裁判所は、原審で、招集通知の有無について釈明により証拠の収集をせず、また招集通知の発信者及び関係者の証言も取らず、その結果、上記判示において「特段の事情」に関する事実を全く認定できないまま、にもかかわらず会議が開催されたと事実認定したものであり、これが経験則に違反することは明らかである。
 他方、原判決は、単に、前訴で、原告が11月25日の分野選定委員会の会議に出席したという原告証言(乙12)だけから会議が開催されたと事実認定した。
 しかし、上告人が前訴において11月25日の会議に出席したと証言した最大の根拠は、公文書である同日の審議結果の報告書の内容を真実だと信用したからである(甲63原告陳述書(5)第1、12〔8~9頁〕。本人調書16頁9~末行)。もし本年3月の財務省の公文書書き換え問題が前訴当時に発覚していれば、上告人も前記審議結果報告書の内容を疑ってかかったかもしれなかったが、前訴当時、上告人がこの公文書を信用してその記載内容に沿った証言をしたことはむしろ当然である。他方、上告人がのちに、11月25日の会議に出席したと思っていたのが「上告人の勘違い」だと気がついたのは、本訴準備の過程で、当時のメールを総点検する中で、この当時、上告人に届いた招集メールが11月11日の会議のものであって、11月25日の会議のものではないことを発見したからである(甲12。その経緯については本人調書17頁1~7行目)。
それに対し、この「上告人の勘違い」という《本訴における供述等(甲63、原告本人尋問の結果等)は到底信用することができない》(25頁)と断ずる一審判決は前訴当時、既に「公文書をみたら書き換え・捏造だと思え」という経験則が存在したと仮定するものである。のみならず、今般提出の甲75原告陳述書(6)第1、2(2~4頁)が詳細に反論する通り、原判決の前訴の本人尋問に関する事実認定も実に杜撰極まりないものである。》(28~29頁)

3、原判決及びその問題点

 しかるに、原判決は、8頁2行目以下で、上告人が取り上げた「経験則違反」の論点について何一つ言及することなく、単に一審判決をリピートした。
この判示はズカッと言えば、上告人はウソツキだ、と言っているにひとしい。この意味で、上記事実認定は上告人の名誉にとって耐え難いものがあり、到底、承服できるものではない。上告人の身の潔癖を晴らすためにも判決の事実認定の誤りを徹底して明らかにする所存である。
控訴理由書と同様、原判決の事実認定は経験則の適用を誤ったものである。
分野選定委員会のような複数の者で構成される委員会の会議については、開催に先立ち、委員に招集通知を出し、当該通知の内容通り会議を実施するのが会議の一般原則である。従って、次の経験則が認められる。
「特定の日時の分野選定委員会について、その招集通知が出されない場合、特段の事情が認められない限り、当該日時の開催はなかったものと認められる。」
 次に、本件において、次の具体的事実が認められる。
《2009年11月25日に先立ち、招集通知である一斉メールが上告人を含めて委員全員に届いていない。》
従って、以上の大前提(経験則)と小前提(具体的事実)とから、次の結論が導かれる。
《2009年11月25日に分野選定委員会の開催はなかったと認めるべきである》。

4、小括

 以上のとおり、2009年11月25日に分野選定委員会が開催されたという原判決の事実認定は経験則の適用を誤ったもので、審理不尽、理由不備の違法があると言わざるを得ない(312条2項6号)。

第6、理由不備2(釈明権不行使の著しく不当な場合)

1、事案解明に対する当事者の責任(一般論)

 近時、訴訟における重要な情報(訴訟資料・証拠)が当事者の一方に偏在し、そのため、権利主張者が自己の権利を根拠づける事実を具体的に主張、立証することが困難な事件が増大し、こうした事情を反映して、今日では、主張=立証責任を負わない当事者も期待可能な範囲において事案解明に協力すべき義務を負うべきである見解や、信義則に基づき一定の要件のもとに主張=立証責任を負わない当事者に期待可能な範囲で、相手方の概括的な主張に対し具体的な事実を陳述して争い、かつこの点につき証拠を提出することを要求する判例・見解が注目を集めている(最高裁平成4年10月29日伊方原発訴訟判決民集46巻7号1174頁。竹下守夫「伊方原発訴訟最高裁判決と事案解明義務」(木川古希(中)1頁以下)、春日偉知郎「事案解明義務」(「民事証拠法論集」所収233頁以下。松本博之「証明責任を負わない当事者の具体的事実陳述=証拠提出義務」法曹時報49巻7号1611頁以下ほか)。
上記の学説・実務から引き出される結論とは次のことである――形式的平等ではなく、実質的平等の保障を意味する憲法14条の法の下の平等を訴訟手続において具体化したとされる「武器対等の原則」のもとでは、
①.事案解明に必要な証拠の大半を一方当事者が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.当該当事者は自ら実施する活動の「安全性」などの問題について関係者に「説明責任」を負っていること。
③.当該問題の発生により「当事者の生命・身体」などの人権に対し大きな影響を与えること
といった事情が認められる紛争においては、事案解明に関する上記の一般原則は修正され、事案解明に必要な証拠を握っている当事者側が「安全性」などの問題がないことを主張、証明を尽し、事案解明の責任を負うべきである。

2、本件の事案解明に対する当事者の責任

 大学の教員人事の自治は大学の自治にとって中核となる重要な問題である。そこで、教員人事の自治が外部ないしは内部からの不当な干渉により歪曲されることのないように、教員人事手続は透明性が要求される。従って、ひとたび教員人事手続において法令順守か疑われる事態が発生した場合には、大学運営の法令順守に説明責任を負っている大学は当該人事手続について説明責任を果し、事後的にも透明性を確保する必要がある。
この説明責任は教員人事手続をめぐって学内で紛争が発生した場合にとどまらず、それが訴訟の場に持ち込まれた場合でも同様であり、大学は法廷で、当該人事手続について何が起きたのか、事案解明のため説明責任を果す義務を負う。だとすれば、当該訴訟を担当する裁判所は、事案解明のため、法廷の場で大学が当該説明責任を十分に果すように訴訟指揮をする責任がある。これが本訴における裁判所の釈明義務である。
本訴において上告人は11月25日に分野選定委員会が開催された事実はないと主張し、被上告人はこれを否認した本件において、にもかかわらず、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人は否認の理由を説明せず、とりわけ当日の開催を示した招集通知の有無について説明をすれば事実関係は明らかになるところ、被上告人はこの説明責任を果そうとしない。そうだとすれば、裁判所が自ら釈明権を行使して、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人に釈明を求めて招集通知の具体的内容を明らかにさせる事案解明をすべきである。しかし、裁判所もまた、この釈明権を全く行使せず、唯一、前訴の原告証言のみを根拠として、左記の証言を翻した本訴の上告人証言を何の理由も示さずに、一刀両断に「信用できない」と決めつけて排斥し、上告人主張を斥けたものである。
これが釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、釈明義務違反の責任が発生するのは当然である。

 本件教授人事の手続において被上告人の内部規則違反があると主張する本訴において、次の事情が認められる。
①.本訴は本件教授人事の手続の事案解明に必要な証拠のほぼ全て(上告人に公開済みの議事録等だけでは解明されない事実に関する証拠)を被上告人側が握っているという「証拠の偏在」が存在し、
②.コンプライアンスを当然のこととする被上告人において、自ら実施する教員人事手続の「適法性」について疑義が発生した場合には、関係者に疑義払拭のための「説明責任」を負っていること。
③.本件教授人事手続について重大な瑕疵の発生により「本件学融合の推進が阻害され」、上告人の学問の自由に対し大きな影響を与えること。
 従って、本件において、被上告人は、上告人が主張する本件教授人事手続の適法性つまり「3つの手続違反」について、疑義を払拭すること、すなわち不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要がある。
 従って、「3つの手続違反」の3番目「分野選定委員会の開催・審議・承認」の偽装問題の論点について、本来、会議を開催するためには構成メンバーに対しいつ、どこで、何について会議を開催するかをあらかじめ知らせる招集通知が不可欠である。24頁イで前述した通り、国際協力学の基幹専攻会議も教授懇談会も教員選考委員会の会議も会議の開催にあたっては必ずメンバー全員に宛て一斉メールの招集通知を出している。ところが、通常実行される招集通知が11月25日に開催されたとされる分野選定委員会の会議に対して、招集の一斉メールが上告人を含めて全委員に届いていなかったと上告人は主張し、もし被上告人がこれを争うのであれば、招集通知の有無及びその具体的内容を明らかにするよう、2度にわたり被上告人に求めた2017年4月7日付被告第3準備書面に対する求釈明書4(2~3頁)。原告準備書面(5)第4〔12頁〕)。
つまり、この時、この問題について事案解明をすることにより、前記会議の開催の有無について明確に推認することが可能となったのである。


3、本件の釈明義務違反

 しかし、大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人は上告人の2度にわたる上記求釈明に対し、2度とも応答しなかった。のみならず、この時、一審裁判所は大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人に釈明を求めて招集通知の具体的内容を明らかにさせる事案解明をすれば、容易に会議の開催をめぐる決定的な間接事実が明らかになるのであったにもかかわらず、この釈明権を行使しなかった。これは事案解明に敢えて蓋をしたと評されても仕方のない訴訟指揮であり、釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、釈明義務違反の責任を免れない。
 この点を控訴理由書に記載し、一審判決の重大な手続違背を指摘し、原審において被上告人に説明責任を果すように、求釈明及び国島&味埜の証人尋問を要求したにも関わらず、原審も全くこれを果そうとしなかった。それゆえ、この原審の審理は釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、釈明義務違反の責任を免れない。

4、小括

以上のとおり、2010年11月25日に分野選定委員会が開催されたか否かをめぐり争いがある事実について、原審が大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人に釈明を求めて招集通知の具体的内容を明らかにさせなかったことは、釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、審理を尽さなかった違法があり、理由不備と言わざるを得ない(312条2項6号)。

 上告人は、学問の自由の侵害について、控訴理由書で次の3つの違反により上告人が推進してきた学融合という学問の自由が侵害されたと主張したが、原判決はこれらをすべて黙殺して、一審判決を維持した。
①.学問の自由の侵害の要件を検討しないまま結論を出したのは「法令の適用の誤り」である。
②.学問の自由の侵害の基礎づける本件教授人事の違法の事実について、事実認定の誤りがある
③.上告人が主張しない事実を「上告人の主張」と認定した(弁論主義違反)
 しかし、少なくとも上記②については、第3~5により本件教授人事の違法が認められることが明らかであり、その結果、憲法違反の問題が発生するのではないか。

2、一審判決と控訴理由書

 原判決が維持した一審判決は、それもまた、上記3つの手続違反を全て認めなかったにも関わらず、上記学問の自由の侵害という論点に片足だけ突っ込むといった中途半端な判断を下したので、これに対して、上告人は、控訴理由書第2(30~35頁)で一審判決の学問の自由の侵害の論点について問題点を指摘した。
それゆえ、学問の自由の論点について一審判決を全面的に是認した二審判決に対して、再度、控訴理由書第2の批判が妥当する。よって以下に、これを再掲する。
のみならず、改めて、学融合における学問の自由とは何か、そして一審判決及び二審判決が本件学融合に関する学問の自由の侵害の問題に対していかに不当な態度を取っているか、これを述べた上告人自身の陳述書及び平山朝治筑波大教授の意見書を別紙として添付する。

3、控訴理由書の再主張(学問の自由の侵害

(1)、法令の適用の誤り
本来、法の専門家である裁判所は、法的判断をする以上は法的三段論法の大前提となる法律について自ら法律の内容を確定する、すなわち法律の解釈をする必要がある。さもなければ法的三段論法を適用して結論たる法的判断を引き出せないからである。ところが、一審裁判所は、学問の自由の侵害について、その法的判断を下しておきながら、以下に述べる通り、学問の自由の侵害の要件について、上告人は準備書面(8)及び同(9)第2で詳細かつ網羅的に主張したのに対し、一審裁判所はこれら上告人主張をひとつだに吟味検討せず、なおかつ自らの解釈を明らかにすることもせず、それにもかかわらず、法的判断の結論を引き出した。これは、法律解釈をしないまま本件に法律を適用して法的判断を引き出したという意味で「法令の適用の誤り」であり、違法と言わざるを得ない。
《原告は、原告の主張する上記手続的違法により、原告の学問の自由が侵害された旨をるる主張するのであるが、上記①ないし③によりいかなる意味においてこれが侵害されることになるのかは、本件全証拠に照らしても結局判然とせず、これを認めるに足りないと言うべきである。》(25頁末行~26頁3行目)

(2)、事実認定の誤り
 のみならず、一審裁判所は、学問の自由の侵害という法的判断の前提・背景となる事実問題で、以下の①~④の通り、事実認定をした。
《①本件人事後も依然として国際政策協調学分野の准教授ポストには湊准教授がおり、本件人事によって「分野」が「廃止」されたことになるわけではないことは明らかであるし、②客観的には、本件人事以前においても、平成17年以降国際政策協調学分野の教授ポストは適任者を得ることができず長く空席となっていたのであり、本件人事前に原告が実際に行っていた学問的研究に具体的な支障を生じることになるわけでもない。
また、③前記認定事実を総合すれば、原告は、教授懇談会の構成員の一人として、本件選考に係る教授懇談会における議論に実質的に参画していたと認められるばかりでなく、④本件分野変更の発議に先立って開かれた平成21年11月11日の選考委員会に出席し、そこで専攻長である國島教授から社会的意思決定分野で教授ポストの選考をしたい旨の説明を受けながら何らの発言もしなかったこと、⑤さらには、同年11月25日の分野選定会議にも出席し、その審議に加わっていたものと認めるべきことも前記認定のとおりである。》(26頁5~18行目。文中の①~⑤は原告代理人による)
 しかし、以下の理由からこの事実認定は誤っている。
①ア、湊准教授の本件人事後の専攻について、《湊准教授の研究教育分野は遅くとも2005年9月以後「協調政策科学」であり、それは単なる彼個人の認識ではなく、当時の国際環境基盤学大講座全体の了解事項であった。その事実は、前回提出済みの書証である甲41号証、すなわち湊氏の分野が「協調政策科学」と記載された平成18(2006)年度入試案内書が2005年11月10日開催の上記大講座会議で審議・了解された上で作成されたことが同会議議事録(甲57)3(2)の記載からも明らかである。》(原告準備書面(4)3(2))、
イ、本件人事によって国際政策協調学分野の「教授ポスト」は「廃止」されたことについて、被上告人は、第2準備書面第2で原告準備書面(2)第2に対する反論を行った。しかし、以下の上告人主張、
《被告の主張は、国際政策協調学の教授人事の分野変更によっても、国際政策協調学の准教授ポストは廃止にならないというにとどまり、国際政策協調学の教授ポストが廃止になることは否定していない。なぜなら‥‥》
に対しては黙したままでこれを争わない。すなわち本訴にとって核心的な事実である「本件人事1のあと、教授ポストの国際政策協調学分野は廃止された」ことについて、被告は明らかに争わないものであると解される》(原告準備書面(4)3(1))。
 甲75原告陳述書(6)第1、6(1) (7頁)でも、上記論点に関する上告人主張とこれを勘違いした原判決について以下の通り、指摘する。
本件人事、すなわち新たに社会的意思決定分野の「教授」が選考された結果、国際協力学専攻の「教授ポスト」の枠(数)を使い切ってしまい、その結果、国際政策協調学分野の「教授ポスト」は「廃止」されたのです。私はもっぱらこのことを問題にしております。ところが、判決は、国際政策協調学分野の「教授ポスト」の「廃止」の問題と国際政策協調学分野の「廃止」の問題を混同して、国際政策協調学分野は「廃止」されていないのだから、いつでもその教授人事を再開できる、そうすれば原告の学融合も実現される、そこから、原告の学問の自由の侵害はなかったことを引き出そうとしています。しかし、上述の通り、本件で問題にしている国際政策協調学分野の「教授ポスト」の「廃止」の問題は国際政策協調学分野が「廃止」されたかどうかとは別の問題なのです。》(7頁下から6行目~8頁4行目)

4、小括

 上記第3~5により本件教授人事の違法が認められる結果、これにより上告人の本件学問の自由が著しく侵害されるという憲法違反の事態が発生したにもかかわらず、原審は上記1の違法を判断しなかった結果、憲法違反を見過ごしたものであり、憲法23条の解釈適用を誤った違法がある(312条1項)。

第8、結語

以上から明々白々の通り、原判決は、次の3点の上告理由が存在し、その破棄は免れない。
1、理由不備1(法令解釈の誤り・経験則の適用の誤り)本件教授人事の手続違反(以下、本件手続違反という)をめぐって、次の理由不備の違法がある(312条2項6号)。
①.手続違反①:本件手続違反に関する法令解釈の誤りがある。
②.手続違反②:本件手続違反に関する法令解釈の誤りがあり、なおかつ本件手続違反を基礎づける事実の認定において経験則の適用の誤りがある。
③.手続違反③:本件手続違反を基礎づける事実の認定において、経験則の適用の誤りがある。
以上の通り、原審の審理及び判決は、法令解釈の誤り及び経験則の適用の誤りにより、必要な審理を尽くしてから判決すべしとする訴訟法規(243条参照。新堂幸司「新民事訴訟法」782頁注1)に違反したもので、審理を尽さなかった違法があり、理由不備と言わざるを得ない。

2、理由不備2(釈明権不行使の著しく不当な場合)
手続違反③:2010年11月25日に分野選定委員会が開催されたか否かをめぐり争いがある事実について、原審が大学運営の法令順守に説明責任を負っている被上告人に釈明を求めて招集通知の具体的内容を明らかにさせなかったことは、釈明権不行使の著しく不当な場合に該当し、審理を尽さなかった違法があり、理由不備と言わざるを得ない(312条2項6号)。

3、憲法(学問の自由の侵害)違反
 上記1により本件教授人事の違法が認められる結果、これにより上告人の本件学問の自由が著しく侵害されるという憲法違反の事態が発生したにもかかわらず、原審は上記1の違法を判断しなかった結果、憲法違反を見過ごしたものであり、憲法23条の解釈適用を誤った違法がある(312条1項)。
以 上

別紙
 以下の2つの書面を別紙として添付する。

1、上告人の陳述書

2、平山朝治筑波大教授の意見書 







[1]法治国家において、法令が想定していない緊急事態などの場合に、法令に規定されていない非常の措置を行うこと。近年の事例として、2006年の高等学校必履修科目未履修問題がある。
[2] その構成メンバーは、国際協力学専攻固有の講座である基幹講座を担当する専任の教員(教授、准教授及び助教)である(甲1原告陳述書11頁脚注)。
[3]賀集唱「民事裁判における事実認定をめぐる諸問題」民訴雑誌16号72頁(1970年)
[4] 加藤新太郎「民事事実認定論」32頁(2014年)
[5] 新堂幸司「新民事訴訟法」464頁(1998年)
[6] 後藤勇「続・民事裁判における経験則」100頁(2003年)
[7] 加藤新太郎「民事事実認定論」203頁(2014年)